第195話 二人の約束らしい
結局、ロッカーに同人誌に預けると方針が決まったことで、弟は同人誌を買い増すことにした。
てなわけで、ブースを再び回ることにした。
手をつないだままだと、財布からお金が出せないからと、ジャージのポケットに弟はお金を入れた。
いや、手を離せばいいんじゃないのかな?
流石に、人が多いといっても、迷子にはならないと思うし、ちゃんと支払いするときに待っていてあげるから大丈夫だよ?
ん?
あれ?
迷子になるわけないと言いつつ、迷子になったことがあったような気が……?
……。
璃々亜、恐ろしい子。同じ過ちを繰り返すところだったわ。
おとなしく手をつないでいよう。
てなわけで、紙袋も2枚目を買い、その袋が同人誌でいっぱいになったころ、アナウンスが流れた。
イベント終了を告げるアナウンスだ。
会場に拍手が起きる。
弟は、突然の拍手にびっくりしたようだ。
そして、更衣室の使用時間があと30分であることもアナウンスされた。
「行って着替えないと」
弟と、更衣室のある方へ向けて歩き出す。
女子更衣室と男子更衣室への道が分かれるところで立ち止まる。
「弟、今日は一緒に回れて楽しかったよ。ありがとうね」
久しぶりのイベント。
それはとても嬉しいことだったんだけど……。
みっきゅんがいなくて、一人で回るのが少し怖かったんだ。
誰かと話をしながら会場を回れたのは、本当に良かった。
「姉さん……まだ、帰りたくない」
うん、分かる。
分かるよ。
イベントが終わっちゃうの、祭りが終わった後みたいな寂しさが心に沸くよね。
名残惜しいというか、いつまでもこの夢に浸っていたいとか思う。
「うん、でも、更衣室の使用時間が過ぎると困るから」
「姉さんと、もっと一緒に居たい」
ああ、それも分かる。
この余韻を共有できたらいいのにね。
いつもはみっきゅんと一緒に、帰りにファミレス寄って話をしたり、カラオケ行ってアニソン歌ったりしてたよなぁ……。
でも、弟とは一緒に帰れないもんね。
「着替えたら、弟と姉ではなくて、見ず知らずの人だからね?」
正体がばれると困る私たちだ。
マスクとメガネと不自然な前髪スタイルで会場を出るわけにはいかない。
「見ず知らず……」
弟は力なく私の言葉を繰り返す。
悲しそうに肩を落として下を向いた弟が、小さな声で呟いた。
「初めてなんだ……こんな気持ち……」
ん?
こんな気持ちが初めて?
そりゃ、初めてのイベントなんだから、イベントが終わった時の気持ちを味わうのも初めてだよね。
「僕……姉さんのこと……。……。……」
何かを言おうとして、顔を上げた弟が、頭を下げて口をつぐんだ。
どうしたんだろう?
「姉さんに、また会いたいっ。一緒にイベント回りたいんだ!」
おお!
そうか。
「嬉しいなぁ」
思わず言葉が出る。
一緒に回って楽しかったってことだよね。嬉しい。
それに、私も一人で会場を回るよりも、誰かと一緒の方がいいし……。
でも……。
「ごめんね弟。私、次にいつイベントに来られるか分からないんだ。その、家の都合で……」
どうやら、イベントの出入りを規制されている弟には、私の言わんとすることが伝わったようだ。
「……僕……ずっと待ってるよ。イベントで、また、弟になって、待ってる……」
んー、それって、できるかぎりイベントに参加して、来るか来ないか分からない私を待つってこと?
想像すると、切なすぎるっ。
「あ、あのさ、弟、イベントに行けそうなら、連絡するから……ね?」
「え?いいの?」
弟の声が明るい物に変わる。
「連絡先、教えてもらってもいいの?」
ああそうか。学校では他人の振りするくらいだから、連絡先の交換もしないって思ってたのかな?
いや、交換しないほうがいいのかな?
でも、連絡する手段なんて……学校の鉄棒に黄色いハンカチを結びつけるわけにもいかないし。
「メルアド交換しよう?でも、アニメや漫画やゲームの話は送らないのと、お互いの正体が分かるような内容は書かないようにしてくれる?」
白川家は、スマホを居間に置いておくから、誰に見られてもいいようにしておかないといけないもんね。
「も、もちろんだよ!姉さんと繋がっていられるなら、それくらい……」
弟は、メルアド交換一つですごく喜んでくれる。
そうか。
もしかして、弟にとって、私は初めての、オタク仲間、イベント友達なのかもしれない。
「初めての相手かぁ……」
「え?」
弟の初めての相手が私なんだ。
そういえば、私も、こっちの世界では弟が初めてのオタク仲間だね。
「お互いに、初めてかなと思って」
私の言葉に、弟の耳はなぜか真っ赤になった。
ん?
いつもありがとうございます。
お待たせいたしました。
間に合ったー。




