第21話 落し物係は人気がないらしい
2時間目はクラスでの係決めだ。
各教科ごとの係。現代国語係、古文係、数Ⅰ係、日本史係……みたいな感じ。
遠足係、新聞係、連絡係……それから……。
裁判係なんてのがあった。なんでも、クラスで揉め事があった場合に、クラス裁判みたいなのを行うらしい……。
こ、怖いっ。
それって、断罪イベントに格好のシステムなんじゃないの?
1時間目にクラス委員として選出された皐月さんと、シルバーフレーム眼鏡の相模くんが前に出て進行する。
皐月さんは、1時間目にはびくびくした様子で前に出ていたけれど、今はずいぶん落ち着いた様子だ。
ふと、私と目が会うと小さく頭を下げる。
ん?何の合図?
「では、生物係を希望される方」
今回は挙手制。
まず、みんな回りの様子を見てから、おずおずと手を挙げるようだ。
何度も、クラスメートの視線を感じる。
誰も手が挙がらなかった係は、後ほど希望を取り直すことで、次に進んでいく。
私の希望は落し物係。月に一回、落し物一覧表プリントをクラスに配布するだけだという楽な係だ。
基本的に、落し物をした場合は、本人が直接職員室の落し物保管担当の先生に申し出て受け取るらしい。ただ、落し物を取りに来ない生徒も多いために、1ヶ月に一度預かり品一覧表を作って配布することになっているらしい。
教科係は、教科にもよるけれど、授業の回数分仕事がある可能性もある。他の係も、他のクラスと連携が必要だったり、何度か居残りして作業をしなければならなかったりとめんどくさそうなのでやりたくない。
あ、違う違う、めんどくさいとかじゃなくて、えーっと、ほら、フラグ回避のためには、あまり他のクラスの人間と顔を合わせたり、長時間学校に残ったりって相応しくないよね?
……。
……。ええ。ええ。楽がしたいんですよ、楽が!
芽維たんは、数学Ⅰ係になったみたいだ。
田中は体育係。似合うな。女装は似合わないが、クラス一体育係が似合うと私が保証しよう!
皐月たんは係免除。クラス委員は委員会の仕事以上にクラス内の仕事が多いので当たり前といえば当たり前な話。
「では、次に落し物係を希望される方」
来た!
勢いよく、はいっと手を挙げたかったけれども、前世オタクといはいえ、私は空気が読めない人間ではない!
ちゃんと周りの様子を見て、手を挙げないの?どうなの?と間を置く。
ん?いつまで間を置けばいいの?そろそろ挙げてもいいかな?
窓から3列目、後ろから2番目の男子が手を挙げた。
窓際一番後ろの女子もつられて手を挙げる。
ああ、やっぱり楽なだけあって競争率高そうです。希望者でじゃんけんか。仕方ない。
3人手が挙がったところで、空気が読める私もすいっと優雅に手を挙げる。
じゃんけん、負けませんよ!と、一番初めに手を挙げた男子に目を向けると、挙げたと思った手で頭の後ろをカリカリと掻いて手を下げた。
なんだ、頭がかゆかっただけか。
窓際の一番後ろの女子は、もう片方の手も挙げてうーんと伸びをしている。
ずっと係決めやってると疲れるよね。伸びくらいしたいよね。
って……まぎらわしい。手を挙げたかと思ったじゃないか!
えっと、確かあともう一人……おや?居ない。
もしかして、落し物係りの希望者は私だけ?
「他に、希望者はいませんか?」
こんなに楽な仕事なのに、皆なんで希望しないんだろう?
何はともあれラッキー。
んふんふ。
いや、待てよ?もしかして落し物係って、私が思っているほど楽な仕事じゃないの?だから皆希望しないの?
しまったぁ。やっぱり、希望者が多い係を私も希望するべきだったか……。
と、悶々としている間に、無事に係決めは終わったらしい。
そういえば、せっかく皐月たんと友達になれたんだし、メルアドを交換しようと思ったんだけど、クラス委員の仕事が忙しくてつかまりそうにない。
紙に書いて渡そう。ふふふ。
「芽維さん、何かメモ用紙をお持ちではありませんか?」
「えっと、付箋でもいいですか?」
芽維たんは、缶ペンケースを開くと、蓋の部分に貼り付けてあった付箋を見せてくれた。
大小10種類くらいの付箋が用意されてる。
私がびっくりした顔をしたのだろう。芽維たんが説明してくれた。
「勉強に使ってるんです。後で見直す場所は青、先生に質問する問題は黄色、重要項目は赤……といった感じに」
さすが特待生芽維たん!勉強熱心です!なんか、効率がよさそうな話です。
今度勉強方法を教えてもらおう。
「少し大きめのものを1つもらえるかしら?」
今は皐月たんに渡すメアドを……。
スマホを取り出し、自分のアドレスの部分を表示させる。
芽維たんとのアドレス交換は通信を使ったのでアドレスを見るのは初めて。
何々、
riria_riria……
あれ?
@がない。@があるべき場所に、○で囲んだメの文字。
迷惑メール防止の「☆の部分を@に変えてメールしてください」ってあの類?
とりあえずそのまま書き写して、名前と電話番号。他に何か情報いるかな?
LINEとかツイッターとかそういうのってそういえば、どうなってるんだろう?
……あ、孤高の女帝だし、周りの子たちがやってるのをうらやましげーに眺めていただけとか……ありそう……。涙目。
ぐすっ。悲しくなんてないやい!
孤高仲間の嘉久がいるんだから、寂しくなんて……。
はっぴ~はろうぃ~んっ!小話
今日はハロウィンだ。兄が仮装をするというので、何の仮装をするかと尋ねたらゾンビだと言う。ゾンビ……せっかくのイケメンがゾンビメイクで見えなくなるのか。吸血鬼とか、イケメンを活用した仮装にすればいいのに。
「じゃぁ、そろそろ準備するよ。璃々亜はまだ準備しなくていいのかい?」
仮装パーティーは13時からだよねぇ?まだ朝の9時なんですけど。
どれだけ、兄は仮装パーティーを楽しみにしてるんだっ!私は、昼食食べてから着替えることにしますよ。衣装を汚したら困るしね。あ、ちょっとくらい汚れたほうがそれらしいかな?ケチャップとかつけたり……。いや、ケチャップよりもマヨネーズのほうがいいかな?近くを歩くとマヨネーズの匂いがするとか、匂いまで再現したリアルな仮装だよね?あ、いやいや、待てよ……。甘い匂い系の方がいいかな?んー、お菓子の匂い……。
ハッ!匂い付きの仮装をするなら、今から匂いの元であるお菓子を作らないといけないんじゃ……。早速お菓子の準備だ!とはいえ、私は料理人にお願いするだけだけどね。ふふふ。別に、食べたいから頼むわけじゃないですよ?
はぁー、想像しただけでも、美味しそうだ。
いや、だから、匂いのためだからね?
1階に下りていくと、ちょうど来客があった。
「ああ、いらっしゃい。今日はよろしくお願いします」
と、兄が挨拶している。4人ほどの男性が、大きなカバンをいくつも持っていた。
誰?
11時30分になり、早めの昼食を取り、頼んでおいたパンプキンパイを受け取る。兄は食事もせずに準備をしているようだ。
そろそろ、私も着替えて準備しようかな。
私の仮装はパンプキンです!だから、パンプキンパイで匂いをつけるんですよ!匂いをつけるためにはひとかけらあればいいですよね?
残りは、勿体ないので食べることにしましょう。
べ、別に食べたかったからパンプキンパイを作ってもらったわけじゃないですよ?
はぁ、美味しそう。おっと、よだれが。
階段を上がり、兄の部屋の前を通りすぎようとして、ドアが開いた。
あ、仮装の準備終わったのかな?
振り返った私の眼に写ったのは
「ぎゃーっ、ぞんびーっ!」
驚きのあまり、手にしていたパンプキンを放り投げて全力疾走で逃げ出す。
ゾンビの後ろから、男たちが出てきた。
「璃々亜、僕だよ。この人たちは、ハリウッドでも活躍してる特殊メイクのプロだよ。驚いたかい?」
と、と、と、特殊メイクのプロ?
本物のゾンビかと思ったじゃない!
「ぎゃーーーーーっ!」
廊下には、無残につぶれたパンプキンパイが!




