第170話 ちゃんと図書室だよりデモプリントの相談をしたらしい
取り出し口に落ちた二つのぬいぐるみを、田中くんが取って私に差し出した。
「すごいなぁ白川。二つも一緒にとれるなんて。はい、どうぞ」
「いただいてもよろしいのですか?」
「そりゃ、白川が取ったんだし」
「でも、お金は田中くんが出してくださいましたし……」
「本当は、僕が取って白川にプレゼントしたかったんだけどなぁ……」
そう言って、田中くんは、笑った。
田中くんの手には、青い帽子をかぶったネズミと、赤いリボンを付けたネズミのぬいぐるみ。
ちょうど、私と田中くんが、ネズニーランドで頭に付けてたキャラクターだ。
「では、1つずつにしませんか?ちょうど2つありますし」
と、提案してみた。
「そうだな。じゃぁ、はい。一つずつ」
田中くんが、私に青い帽子のネズミを渡してくれた。
あれ?私が青い帽子の方?
どちらかと言うと、赤いリボンの方が女の子向けだよね?田中くんは女の子っぽいほうでいいのかな?
きょとんとして、田中くんの顔を見上げる。
田中くんは、ぽんっと私の頭に赤いリボンのぬいぐるみを載せて、にやっと笑ってから鞄にしまった。
そうか。立花ちゃんにあげるのかな?だったら、赤いリボンの方がいいか。
私は別にどちらでも構わないから、文句はないけどね。
「ありがとう」
お礼を言って、私も鞄にしまった。
「じゃぁ、行こうか」
それから、2階へ上がりカラオケの受付を済ませて、部屋に入った。カラオケの機材の他に、椅子とテーブルがある。
私たちは、当初の予定通り、歌も歌わずに机の上にノートと筆記用具を出しで、図書室だよりを作り始めた。
いや、正確には行き詰った。
「ここに、希少本の紹介を載せるだろ?」
「そうですわね。希少本の選定に関しては、司書さんにお願いするとして、紹介記事はどなたが書かれますか?」
前世の知識でいえば図書委員の仕事なんだから、図書委員が書くことになるよね。
でも、こっちでは司書さんの人数も多いから、司書さんに書いてもらうのかな?あれ?そうすると、図書委員の功績じゃなくなるじゃない?
「希少本の紹介は、その価値が分かる人に書いてもらうのが一番だよな」
価値が分かる人間?
それって、BL臭ただよう名作の紹介を書くのはBL好きに任せる!みたいなレベルの話じゃないよね。
希少BL同人誌の紹介記事なら、どれだけでも書けるのに!これは今ではアニメ化漫画を描いてる漫画家が、別のPNで高校生の時に書いたBL同人誌ですとか。
この作家さんは、ツンデレ受けを書かせたら右に出るものがいない作家として有名だが、その昔唯一、ツンデレ攻めを描いた同人誌だとか。
ああ、そうそう、なろうで総合ランキングトップ10をほこるラノベ作家さんが参加してるBL同人誌もありますよ!しかも、小説じゃなくて漫画で参加してるんだから!希少でしょ!見てみたくなるでしょ!
ぐふ腐。
「室町時代の本といえば、歴史家に話を聞くのがいいのか?内容にもよるのかな?」
「話を聞く?」
「ああ、中身の内容の解説があったほうがいいだろう?辞書なら、言語学者かな?いや、そもそも古典だから、古典を研究している人じゃないと読めないか?」
確かに、読めないでしょうね。
「それほど古い物ではなく、文豪の同人誌であれば、載っている文豪の専門家に話を聞くのがいいのかもしれないし」
え?ど、ど、ど、
同人誌ぃ~~~~~っ?
そんなものが、図書館の希少本として保存されてるって?
まーさーかー!
「確か、第3次『新思潮』には芥川龍之介の作品も載っているんだったよな。そうすると、芥川の研究家や芥川賞受賞作家にインタビューして記事を載せるとか」
はい?
『新思潮』?芥川龍之介?
なんだか、国語の勉強のお時間みたいになってきました。
ああそうか。今イメージする同人誌なんて、ほとんど個人誌だけど、昔は、小さな雑誌みたいな感じだったんだよね。本当に同好の士が集まって出す本。
少女漫画界にBLの原型を持ち込んだと言われる、萩尾恵子先生や、竹宮望都先生も、その昔は同人誌を出してたんだよねぇ。
『宝箱』だっけ、『キーボックス』だっけ?流石に、私のBLセンサーも、BL作家さんだったとしてもBL作品以外にはアンテナ感度は弱いのですよ。
しかし、専門家にインタビューして記事を書くとか……。ちょっと、図書室だよりとしては、話が壮大すぎやしませんか?
「どなたが、専門家にインタビューをなさるのですか?」
「ああ、そうか、いくら卒業生に伝手があったとしても、図書委員の誰かがインタビューをしなければならないんだよなぁ……。テレビ電話とかでインタビューに答えてくれないかな?電話インタビューじゃぁ失礼かな?」
うわー、さらっと、伝手があるとか疑いもせず、田中くんは言ってるけど……。
何?もしかして、うちの学校って、かなり有名人を排出してるすごい学校なわけ?
確かに、特待生でいろいろな分野で優秀な人が集まってたりする。カエルの子はカエルじゃないけど、親が優秀なピアニストとかそういうサラブレッドもいる。
そしてなにより、色々な方面に顔が利きそうな金持ち……いや、大金持ちが多数いるのは確かだ。
確かに、どんなジャンルに関しても伝手はありそうだ。メジャーリーガーにだって総理大臣にだってインタビューできそうだよな……。
田中くんは、紙面を想定した見開きのノートの上部に「図書室だより」とタイトルを書いた。
そして、左側半分の上部3分の1に「希少本写真」と書き、真ん中の3分の1に「希少本解説、専門家にインタビュー」と書き加えた。
そこで、行き詰ったのだ。
「あと、何を書こうか?」
と田中くん。
「せっかくインタビューまでなさるのですから、もう少し紙面を割いてはいかがですか?」
「そうだなぁ。だけれど、その本に興味がなければ、全くの無駄にならないか?興味を持つ人が多ければ希少にはならなかったんじゃないか?」
ぐ。
田中くんの言う通りだ。
人気があれば、復刻版とかなんとか、大量に印刷されて希少本にはなってないはずだ。一部の人間にのみ必要とされるから内容も紹介する必要がある知られていない本なんだろうなぁ。
まぁ、別の意味で希少なら話は別だよ。
例えば、紫式部の直筆の書とか。……ないない。流石にないから。残っているのは写本だから。もし、直筆の源氏物語とかがあれば、いったい何億……ガクブル。
まぁ、とにかく、そういう「本物」という意味で希少なものなら……興味がない人も、本物見てみたいとか思ったりもするよね。
そういえば……。
「希少本を公開の案内を載せるんでしたわよね?」
田中くんが下3分の1に、公開情報と書いた。
二人で話し合って、公開は2か月に1度のペースなら無理がないのではないか。
事前申し込み制で、申し込み希望者多数の場合は抽選を行うか、別日にも公開するか図書委員で話し合う点をメモしていく。
まぁ、採用されれば話し合うのであって、そもそもやらないということもあるんだけど。
「あと半分はどうしようか?」
「そうですわね、図書委員が持ち回りでおすすめの本を紹介してはいかがでしょう?」
図書室だよりの定番だよねぇ。
定番と言えば、図書室に入る新刊の案内なんてのもあるけど、生徒意外にも配布するのであれば、必要ないのかな……?
てなわけで、紙面を埋めるネタを色々と出し合った。
先生にもおすすめの本を書いてもらおうとか。国語の先生だけじゃなくて、色々な先生に。例えば化学の先生に科学の勉強に役立つ本とか。
本にまつわる豆知識を調べて載せるとか。印刷技術が発展する前の本の話とかね。
で、結局、それらをまとめて例として田中くんがメモした。紙面を埋めるネタも、図書委員で話あってみんなで出せばいいんじゃないかと言うことで落ち着いたのだ。
まぁ、図書室だよりが採用されればだけどね。
そんな感じで、カラオケボックスで2時間過ぎた。
ごらんいただきありがとうございます。
カラオケボックスでは、さらっと何の事件もなく通過。




