第163話 昔を懐かしんだらしい
「そろそろ、休憩しようか」
はぁ?
だから、まだ1冊も読んでな
「10時だ。丁度お茶の時間にはいいだろう」
嘉久が、ティーセットを載せたお盆の上にあった、お皿の上に載せてあった、ドーム型の蓋を持ち上げた。
中には、黄金色に輝くスウィートポテト様。
ふわっ!
大好物です!
「璃々亜、好きだろう?」
コクコクと頷く。
ん?璃々亜(前)も、好きだったんだ。気が合うね。
「ちょっと待ってろよ、お茶を入れるから」
嘉久が、茶葉の入った缶を開けて、なれた手つきでティースプーンで茶こしに2杯入れて、お湯を入れる。私に声を掛ける前に、すでにカップをお湯で温めていたようで、カップに入ったお湯を捨てると、そこに紅茶を注いだ。
ふんわり香る、リンゴの香り。
うおー、アップルティーですか!
サツマイモとリンゴって、ベストカップルですよ!
なんと素晴らしいチョイスをするのだ、嘉久よ!褒めて遣わす!
そういえば、前にも、嘉久と私って味覚が合うのかもなーって思ったっけ。うん。味覚が合うのって大事。
向かい合ってソファに座り、お茶タイム。
嘉久が何やら口を開くが、私の意識は漫画へ向いてしまい、聞き逃すところだ。
「え?」
聞き返してみたが、嘉久は「璃々亜は、食べているときは人の話を聞かないな」といいおった。
違う、別に食べ物に意識を奪われて聞いてないわけじゃないよ!
漫画だよ、漫画が私を呼んでいたんだって!
ダメだ、今は漫画から意識をそらさないと。
部屋の中に意識を向ける。
西側の壁に、賞状がたくさん飾られ、その下の台にはトロフィーや盾が並んでいた。20や30はありそうだ。
「ずいぶんたくさんありますね」
私の視線の先を確認して、嘉久が言った。
「璃々亜も、ずいぶんもらっていたじゃないか」
はぁ?
マジで?
家には全然飾ってなかったけど……?
いったい、何のトロフィーを私はもらったというのだ?
「高校受験があるから辞めるって言ってたが、受験も終わったことだし、またやらないのか?」
うごっ、な、習い事のトロフィーですか!
いったい、私は何を習っていたというのだ?ピアノか?ピアノなのか?
あああ、やばい。本気で剃刀計画を実行しなくてはならないのか!
だめだ。悪役令嬢コースまっしぐらじゃないか。
自分で指を傷つけ「怪我が元でもう引けません」って見せないとだめなのか?
やだ、やだ、痛いのやだよぅ。
って、ピアノとは限らないよ。
何だろう……。
トロフィーとか賞状とかがあるってことは、コンクールやら大会があるような何かなんだよね?
「い、今はまだ、高校生活に慣れることに必死なので……」
適当に笑って誤魔化しておく。
白川家のどこかにあるトロフィーとか探さないと。
そこには「なんたらコンクール入賞」だとか書いてあるプレートが付いてるはずだよね?それを見れば、何を習っていたのかが分かるはずだ。
まだ立ち入ったことのない部屋がいくつかある。……あちこち家探しせずに「どこだったかしら?」と早間さんに尋ねれば教えてもらえるだろうか?
「そろそろ、再開するか!」
気がつけば、スウィートポテトはなくなっていた。
あれ?私、いつの間に食べちゃったんだろう。
損したー。
考え事しながら食べて、味が分かんなかったよー。損したー。
って、いつまでもぐずぐず言っている暇はありませんでした!
漫画を読まなければ!
まずは、これからです。『おそ松どの』主役たちは、イケメン5つ子ですよ。アイドルにスカウトされて『○群』ってグループ名でデビューするんですよね。
5つ子の妹が、付き人として奮闘しながら、人気絶頂アイドルと恋に落ちるらしい。妹ちゃんは、この際どうでもいい。
イケメン5つ子と、人気絶頂アイドル……ふっ。おいしいシチュエーションじゃなくて?
BL魂がこれはいけると叫んでいるざーます!
「おい、璃々亜」
はっ!
何ですか?今、いいところなんですよ!
「そろそろ、準備しなくていいのか?」
え?準備?
時計を見ると、12時近くだ。
うわーっ!田中くんとの待ち合わせは12時45分。急がないと。
ああ、でも、漫画、漫画も読みたい。
「嘉久様なるべく急いで帰ってきて、またお手伝いいたしますわね」
にこっと笑って、立ち上がる。
「あ、ああ、ありがとうな」
嘉久も、立ち上がる。そして、私に向けて手を差し出した。
ん?何だ?この手は?
ま、まさか……私が袋に入れた漫画を返せという無言の要求?
い、いやですっ!
じーっと、嘉久の手を見る。
うううっ、いつまでも引っ込まない嘉久の手。
涙目になりながら、嘉久の手から、顔に視線を移す。
上目遣いで、恨めし気に嘉久の顔を見上げる。返したくないです。ください。この4冊……。
「ご、ごめん。そうだよな。昔、璃々亜の家に行くときに二人で手をつないで行ったからって……こっ、高校生だもんな……」
え?
「昔を懐かしんで?」
手をつなごうとしただけ?
なぁーんだ、そうだったの!
「さぁ、参りましょう!」
良かった。
袋に入れた4冊の漫画を返せと言いたかったわけじゃなかったのですね!
嘉久の手をしっかり握ると、白川家に向かって足取り軽く歩き出した。
おっと、まだ言質取ってないから確認しとこう。
「何冊か、気になる本がございましたの。いただいてもよろしいですか?」
にこにこ。
嘉久は、好きなだけやると言ってくださいました。声が裏返っていたのは、どうしてかしら?
いつもありがとうございます。
習い事の秘密はそのうち明かされます。ヒントはすでに出ていますよ。




