第161話 嘉久の家は豪邸らしい
二人でならんで嘉久の家まで歩いていく。
嘉久の家に来るのはこれで2度目だ。
道を挟んで向かい側なので距離はないが、門をくぐってからの距離はある。相変わらず広い家だ。
前に来たときは日が落ちてからだったけれど、明るいときに見ると、日本庭園の美しさが半端ないな。枯山水ってやつ?
嘉久の家の玄関を入る。
前回来た時は、宴会場みたいな部屋で、入学祝いの催しがあったんだよな。
あんまりキョロキョロするのも怪しいから、キョロキョロできないけど、まるで歴史史料館みたいな建物内部に、興味津々ですよ。
長い間磨き上げたであろう光沢のある木の床。柱。壁。
オシャレな大正モダンを連想させる電灯が、廊下の壁に設置されている。
チューリップを逆さまにしたようなガラスの傘のついた電灯だ。
嘉久は、廊下の中ほどにある階段を上がっていく。
あ、今日は2階なんだ。
階段の踊り場の壁に、少女が天使と戯れている様子が描かれた絵が掛かっている。
綺麗な優しい淡い色使いの絵だ。家の古さの割に、絵は新しいように見える。
しかし、広い家だな。
玄関を入って正面にも確か階段があった。一つの家で階段が何カ所もあるとか、豪邸かよ!
あ、いや。豪邸なんだが。
それも、かなりの豪邸なんだ……。
大豪邸だ。
それにしても、2階のどこに行くんだろうか?
「嘉久様のお部屋で作業するのですか?」
私の質問に、義久がぐるんといきおいよく顔を向けたてきた。
「お、俺の部屋?ちっ、違うけど……っていうか、俺の部屋……璃々亜、俺の部屋に入りたいのか?」
めちゃ驚いた様子の嘉久。
あ、違うんだ。
2階といえば、誰かの個室があるのかと思ったから聞いてみただけなんだけど。
なんだ、その動揺の仕方は。
さては、あれだな?
お坊ちゃまとはいえ、男の子だし、いろいろと見られたくないあれやこれがあったりするわけだな?
いわゆる、大人への階段的なやつ。
ぐっふっふ。
任せなさい。
わたくし、やばい本の隠し場所センサーには長けてますよ?
何と言っても、私自身がやばい本(BLのかなりなやつ)を、実家では必死に隠してましたからね!
ベッドの下とか、引き出しの奥とか、そんな定番場所ではすぐに親に見つかってしまいますから。
まずは、机の引き出しを二重底にするところから始めましょうか。
薄いBL同人誌であれば、5冊は隠せますよ?
材料及び作り方は簡単です。
ホームセンターで、引き出しの底と同じ色合いの板を買ってきて、同じサイズにカットするだけですからね。ただ、取り出せるように、奥の方に指を入れる穴を開けて奥のがポイントです。
ささ、遠慮せずに嘉久よ、私に嘉久の部屋で宝探しをさせなさい。
……いえ、ごめんなさい。
義久の心が折れるといけないから、やめときます。
いや、心が折れるならまだしも、怒らせたら、破滅が早まる可能性だってあるわけだし。怖い怖い。
「そ、その、こ、心の準備が……いや、その、部屋の準備ができてないから、また今度、な」
義久が変な汗をかいてる。
おお、スマンスマン。
もしや、部屋の準備ってことは、お手伝いさんとかの侵入を断ってたりするパターンなのかな。そりゃ、見られたくないものあるのに、他人に入って欲しくないよなぁ。
男の子らしく、散らかりまくってるってことかな?
兄の部屋はきちっと整えられてるけどなぁ。嘉久はなぁ。
何かに集中しだすと、他のことどうでもいいってなりそうだし。
思い出すわぁ。
都キャプテンが初めて京様の部屋に行った時のことを……。
「足の踏み場もないな」
とか言われてたんだよなぁ。
もちろん同人誌的には「足の踏み場もないな、立ってするのが趣味なのか?」とか言われてふにゃふにゃん。うふ腐だったりするわけだが……。
おっとあかん。
……、無理に嘉久の部屋に行こうとしたら「やめろっ、ちょっ、やめてくれ!入るな!」とかむふふな声録音できそうだな。
そのうち実行したいぞ。今日はやめとくけど。脳内録音は、データ容量無限だからね!いくらでも美味しい台詞は録音できますよ!
ああ、「いつでも部屋に来てもらえるように準備してあるから」って台詞もおいしいなぁ。ぐ腐。
京様ボイスの幼なじみがいて、私ってば幸せものだぁ~。
ニマニマ。
「なんだよ、璃々亜、何がおかしいんだ?」
「え?」
おっと。やばい。
「嘉久様のお部屋に入るのが楽しみですわ」
にこっと微笑むと、嘉久がかーっと顔を赤くして前を向いた。
あれ?
そんなに照れなくても、やばい本を探すのはしないから大丈夫ですよ?
お読みいただきありがとうございます。
今後、話に絡んでくる何かがあります。探して楽しんでみてくださいね。伏線ってやつですね。




