第125話 相良さんと相原さんは笑ってくれるらしい
昇降口で、声を掛けられて心臓が跳ね上がる。
「ごきげんよう」
にっこり笑って立っているのは、相沢さんと相良さんだ。
こんなに笑いかけてくれてるのに……。本当は、私のこと陰で生意気だとか言ってるのかな……。
胃の奥がきりきりと痛む。
めんどくさい。
人間関係って本当にめんどくさい。
できるだけ、人と接することなく過ごしていきたい。
誰になんと思われていたってかまわない。それが、私の耳に届かなければ。私に直接的に害を及ぼさなければ……。
前世の私は、そう考えて過ごしていた。
同じ趣味の子と楽しく過ごしていければいいやって。
だけど、今は違う。
芽維たんと皐月たんっていう友達を巻き込んじゃう可能性がある。だから、見て見ぬふりをするわけにはいかない。
違う……。もう、巻き込んでるんだ。
私に手紙を見せないようにかばってくれてるんだった……。
それに、忘れてはいけない。ここは乙女ゲームの世界だ。
しかも、私は悪役令嬢のポジション。
乙女ゲームとは縁の薄い私だけど、なろうの小説で読む悪役令嬢の破滅パターンといえば……。
死がトップ。
刺されるだの、自殺するだの、処刑されるだの……死因はさまざまだけど……。
次に、没落。
私自信は、もともとが庶民だから全然平気だけど……。家族を巻き込むのは申し訳ない。
何の落ち度もない家族だ。私を冷遇していじめているわけでもない。優しい人たち。裏で悪事を働いて金儲けをしているようにも見えない……。なんせ、兄は漫画を学校に持っていった人がいると聞いただけで、ルールを守らないとうんぬんと怒りを見せたくらいだ。
あの優秀な兄なら、父が不正を働いていたら見抜くだろう。そして、不正をただすように進言するなりなんなりするに違いない。
……。漫画くらい、学校に持って行ったっていいでしょっ。と、思うんだけどなぁ。
ああ、でも、堕落の一歩?
漫画を持ち込むようになる、そうすると、薄い漫画も持ち込むようになる。
主に、私のような人間が!そして、布教活動に精を出し、いつしか、腐腐腐の世界が……。
す、すいません。
漫画を学校に持って行ってはだめですね。分かりました。
ぐすっ。
てなわけで、破滅フラグを回避するためにも、人間関係のいざこざを放置するわけにはいかないわけです。一人でも多く、味方に……いえ、味方になってくれないとしても、敵にするわけにはいかないのです。
……。
だけど、そんなに、目障りになることしちゃったかなぁ……?
ぐすん。
別に、食堂の提案とか、すごいでしょなんて鼻にかけたこともないよ。むしろ、身を縮めたし。
一般常識テストで満点だったこと?それで、生意気に授業しちゃったこと?……ああ、あれは、ちょっとやりすぎだったかもしれない。
見る人が見れば「こんな問題解けないなんて、愚かですわね!」って態度に見えたのかもしれない……ぶええっ。不可抗力だ!
いや、だけど、相原さんと相良さんは、その後も、3000円のお出かけコース自分たちで考えたりして、あの授業とか別に不満だったわけじゃなさそうなんだけど?
それとも、私たちでも立派な3000円コースを作れるんですわよ!って言いたかったのかなぁ?
それに対して、私、どんな態度とったっけ?
えー、分かんない、覚えてないよっ。
とにかく、二人が不快に思うような態度とっちゃったんだとしたら誤解を解いて謝ろう。
なんとなくムカつくみたいな理由だったらどうしようもないけど、ここらへんのこういうところがムカつくとかなら改善の努力もできるし……。
ああ、胃が……。だけど、逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ。ぶつぶつぶつ。
心の中で某有名なアニメキャラクターのセリフ唱えたらちょっと落ち着いた。
「あの、お時間少しよろしいですか?お話ししたいことがございますの」
二人に声をかけて、食堂へ移動する。授業が始まる前に、ちらほらお茶をする人たちがいる。中には、勉強している人の姿もある。そういえば、放課後も勉強している人いたし、真面目な人が多いなぁ。
っていうか、まぁ、この食堂って便利だよねぇ。
冷暖房完備で、給茶機無料で使い放題。コーヒーや紅茶まで無料だよっ!
小腹がすいたら、自動販売機もあるしね!って、よく見たら、また自動販売機の種類が増えてませんか?
何、あれ?
ハンバーガーの自動販売機だ!
何々、えーっと、ハンバーガーに、チーズバーガーに、照り焼きバーガー、ほうほう、
「こちらでよろしいですか?」
「白川様、何かお飲み物をお持ちいたしましょうか?」
うえっ、ご、ごめん。
私が声かけといて、意識が別に飛んでた。
ハンバーガー>相原さんじゃないからね?違うからね!
テリヤキバーガー>相良さんでもないからね?ち、違うんだからね!
やべぇ。汗。
お礼を言って、緑茶を頼む。
……。
食堂では、勉強組は「食堂」っぽい飾り気のない簡素な机と椅子の場所を中心として座っている。
朝からのんびりお茶組は、ファンシーに飾り付けられた乙女スペースや、オシャレなカフェテリア風スペースや、ゆったりソファでくつろぎスペースなど、各々が好きな場所を選んで座っている。
私たちは、入り口から一番遠い奥まったオープンテラス風の席に座った。室内に、わざわざオープンテラスを再現したという金持ちのバカげた趣……げふげふっ。
私がぼんやりと自動販売機に意識を取られてそのまま奥まで歩いて行った結果なのだが。
テーブルをはさんで、相原さんと相良さんが座る。
とりあえず、目の前の緑茶を一口飲む。
二人は、嬉しそうな顔で座っている。
何で?そんな顔を私に向けるの?
私のこと「いい気になるな」って手紙……あれ、勘違いなの?
でも、筆跡鑑定って……。
同じ封筒や便箋を使っているだけなら偶然ってこともあるだろうけど、筆跡鑑定でほぼ同一人物である確率なんて……そんなの、ありえないよね?
ああ、双子は筆跡が似るという話は聞いたことがあるけど……そもそも、相良さんや相原さんに双子の姉妹がいるなんて話知らないし、もしいたとしても、そんな見ず知らずの人物に恨まれる筋合いはないんだけど……。
……。
「あの……」
確かめなくちゃと思って声を出す。
「はい」
と、本当にうれしそうな顔をしているんだよ。
ああ、これが演技だとしたら、月陰先生も真っ青な演技の才能だよ!「恐ろしい子!」ってあゆみん様にも何度も言われるわ
演技ではないとしたら……あれか!筆跡を真似られたとか?
ないとは言い切れない……。
短い文章だろうから、筆跡を真似るくらいたやすいんじゃ?いや、短くても難しいよね?
待って、この学校は金持ちばかりだよ?プロに頼むうらいのお金は余裕だったりするんじゃない?
何らかの……というか、私に嫌がらせの手紙を書いた罪を、相原さんや相良さんに着せるために、二人の筆跡を真似させた?
あ、うん。その説が一番しっくりする……。
だけど、そこまで手間も金もかけて私に嫌がらせするとか……。しかも、入学して間もないのに……。いったい誰?
あ……。入学間もないって言っても、私の知り合いが一人もいないというわけじゃないよね。
中学のときの知り合い?
強い憎しみを私に持っている人?
やだ、何、それ……。
いないとは言い切れない。
だてに、悪役令嬢なわけではないよね。悪役令嬢らしい人生をここまで送ってきた可能性は高い。誰にも恨まれない悪役令嬢なんて悪役令嬢として失格だろう。
きっと、璃々亜のことだ、これまで、誰にも恥じないような立派な悪役令嬢……なわけあるかいっ!
孤高の女帝だろう?取り巻きもいないボッチが立派な悪役令嬢なもんかっ!
立派な悪役令嬢なら、取り巻き引き連れて高校に入学して、すでに学年の半数は掌握してるわ!
いつもありがとうございます。
ハンバーガーの自動販売機ってほとんどみないから、ちょっと寂しい・・・。
次回、二人と決着です




