第13話 璃々亜の部屋にはテレビがないらしい
「お帰りなさいませ、敦也様、璃々亜様。ご主人様よりメッセージを預かっております」
玄関を入ると、およそ45度の角度でメイドがお辞儀で出迎えてくれた。
今朝のメイドと同じ人だ。他にまだ見てないけど、この家にはメイドは一人なのかな?
まぁ、貴族じゃあるまいし、着替えや身支度なんか自分でするから一人で十分だとは思うけど。他に、運転手さんと料理人はいるようだし。
もしかすると、親に秘書みたいなのとか付き人みたいなのとかいるかもしれない。
っていうか、両親が何者なのか、確かめないと……。今日みたいにうまく乗り切れることばかりじゃないはずだし。
「父からメッセージ?」
お兄様は、メイドから受け取った紙をすぐに開いて声を出して読み上げた。
「璃々亜、入学おめでとう。璃々亜の晴れ姿を見られないでとても残念だったよ。明後日には日本に帰るから、お祝いをしよう。父」
チャーンス!
「お兄様、お父様は今どこで何をしていたのでしたかしら?」
不自然じゃないよね?大丈夫だよね?
「ああ、今はヨーロッパを回っている。今日はミュンヘンあたりにいるはずだ。珍しいね、璃々亜が父上の仕事に興味を示すなんて」
「えっ?」
急に尋ねるとか、やっぱりまずかったか?
いいわけ、いいわけ、えーっと……。
「わ、私の入学式なのに日本にいないのが残念?」
しまった。疑問形にしちゃったよ。
「璃々亜……」
お兄様が、そっと私の頭に手を置いた。そして、遠慮がちにゆっくりと撫でた。
「今まで言葉には出さなかったけれど、寂しかったんだね……」
あ、いや、お兄様、ごめんなさい。ただの言い訳なので、寂しくなんかないですよ?
「これからは、璃々亜が寂しくないように、もっと一緒にいよう」
ギョエー!まさかのシスコン加速宣言!
とんだ流れ弾だぜ!
「あ、いえ、さ、寂しくないですよ?あんなに忙しいお父様が、わざわざお祝いをしてくださると言うのですから」
あは、あは、あははは、はは……。
乾いた笑いを残し、あわてて階段を駆け上がる。
私の部屋って、確か一番奥から3番目の扉、だったよね?
コテコテと彫り物のしてある白い扉には、立体的な薔薇のついた陶器製のネームプレートが引っ掛けてあった。
「璃々亜の部屋」と書いてある。よく見れば、他の部屋にもそれぞれプレートがかけられているではないか!何て親切な!
後ろから兄が階段を上ってくるのが見えたから、屋敷探検は今度にしよう!
部屋の中に入り、ふかっふかのベッドにダイブ!
うお、前世の習慣がっ。制服がしわしわになっては、お嬢様らしからぬ。
魅惑的なふかふかお布団ちゃんからしぶしぶ立ち上がると、制服を脱ぎ部屋着に着替え……。
「部屋着?」
ど、ど、ど、どれが部屋着でしょう?
ジャージ、ジャージ、ジャージ……。
ジャージがありませんっ!
無いのはそれだけじゃなかった。ジーパンどころか、ズボンが1本もない。すべてスカート!何、そのこだわり……。
だが、それはまだいい。問題は……。
「テレビがない!」
オタ品が無いのは仕方がないよ?
同人誌とかBL小説とか漫画とかアニメのDVDとかゲームとか、フィギュアとか等身大抱き枕とか、ポスターとか、ドラマCDとか……。
だが、テレビが無いというのはどういうことだ?
12畳ほどある部屋には、ドレッサーと勉強机とベッドと、百科事典やぬいぐるみなどが並んだ本棚しかない。
なんということだ……。テレビが無い理由はなんだ?
1、この世界にテレビがそもそもない
2、親が子供の部屋にテレビを置かない教育方針
3、璃々亜が今までテレビに興味が無かった
3なら、おねだり一つで導入可能だろう。
2だった場合は、根気よく説得するか……。寂しいからとか情に訴えるって手もあるな。ヒヒヒ。
しかし、もし1だった場合……。
「どうした、璃々亜?」
「テレビが」
「え?」
突然話しかけられ、思わず思考が口から漏れ出した。
しまった、今はお兄様と昼食を取っていたんだった。いきなりテレビとか、驚くよね。
もしこの世界にテレビが無かったらなぞの言葉なわけだし。
「ああ、何か気になる番組でもあるのかい?食事が終わったら、一緒にシアタールームへ行こう」
シアタールームか!金持ちめ!
いや、違うんだ、違う、シアタールームで見るテレビと、自室で見るテレビは違うんだよ!
私は自室でテレビが見たいの!CM中に、ぱちぱちとチャンネル変えまくりたいの!
家族に内緒で、こっそり深夜アニメとか見させて~!!
気がついたら、午後はたっぷりお兄様の映画鑑賞に付き合わされた。
モノクロのフランス映画。さっぱりわからなかったよ。
フランス語聞いても分からないし、字幕は英語だった。
どーなってんだ、この世界!
「面白かったね。とくに主人公が生き別れた姉に会って」
おお、流石お兄様。しっかり字幕が読めていたんですね!
っていうか、あのボインは彼女じゃなかったのか。姉だったのか。
「Le livre que vous m'avez donne etait le soutien de ma vie. Non, l'existence vous a appeles m'a maintenu en vie.と言う場面はよかった」
(作者注 日本語訳:あなたが僕に下さった本が、僕の人生の支えでした。いいえ、あなたという存在が、僕を生かしてくれたのです。)
ブッ。お兄様の口からフランス語が……。
何、このチート兄……。
「あふれんばかりの兄弟愛……。本当にすばらしい作品だった」
トクトクと兄弟愛のすばらしさを語りだす兄。
やべぇ、映画の余韻でシスコンパワー増大中だ。
適当にうなづいて、さっさと部屋に戻った。




