第106話 嘉久がずっとそばにいてほしいらしい
「璃々亜の班は、ネズニーはどういうコースで回るんだ?」
今日、お昼休みに皐月たんが作ったコースを見せてもらった。
まずはショップで耳など、気分を上げるグッズを購入。轟君はそこで本来はお土産として売っている食べ物を食べ歩き用に購入。
アトラクション3つ、売店、アトラクション3つ、パレード、昼食、胃がかき回されないアトラクション3つ、売店、アトラクション3つ、売店、アトラクション3つ、パレード。
というような計画だったと思う。
移動はキャラクターとのグリーティングや人気の食べ物購入を含めたコース。
細かいことは、覚えてないよー。完全にお任せしちゃった。
ネズニーシーは残念ながら今回はやめました。
「ネズニーランドを中心に回りますわ」
「そうか、ネズニーランドを回るのか。ふむ。なるほど。ネズニーランド班とネズニーシー班にわけて巡回すればいいか」
ん?
「嘉久様は、どちらを回られるのですか?」
トイレめぐりはやめたんだよね?
「順番に回れるだけ回る!」
順番?なんの?
人気の順?
スリルがあるアトラクション順?
まさか、園内マップの番号順?
なんと、計画性があるようなまったく無計画な!
それでネズニーを楽しめるとでも?
私たちの班の爪の垢でもせんじてのましてやりたいよ!
普段は待ち時間が長いアトラクションを優先したり、スリルがあるアトラクションがだめな人に気を使ったり、先輩方に人気だったアトラクションをピックアップしたり、人気のパレードやグリーティングポイントを組み込んだり、お勧めグルメも忘れない!
そんな私たちのやる気を少しは見習え!
……ごめん。私も前日に何も考えていなくて、つけ耳案でごまかした口だった……。無計画な嘉久を笑えない。
「目標は、完全制覇だ!」
うおっ。
京様ボイスで目標は完全制覇とか……。あうーん。それに似た台詞がバスケの王子様にもあったよぉ。
ああ、もちろんBL的同人誌では「完全性派」とか書かれてたりするけどね!
その同人誌では、都キャプテンがややSなキャラクターで描かれてて「京、目標だって言ってただろう?全性派って。それって、女性も男性もって意味なんだろう?」とかなんとか迫っちゃってさ。ノーマルだった京を×××して調教とか……あったなぁ。ぐふふ。腐。
おっと、いけない。
しかし、いくら並ぶ時間が必要なくても、ネズニーランドとネズニーシーを1日で回りきれる?
まぁ、せいぜいがんばってください、同じ班の人……。
夕食後、兄は生徒会の仕事を持ち帰っているということで早々に部屋に引きこもった。
「璃々亜……。だ、大事な話があるんだ」
嘉久と二人、のんびりと食後のお茶を飲んでいると、嘉久が椅子に座りなおして姿勢を正した。
大事な話?
「なんですの?」
話の先を促しても、嘉久はじっと私の顔を見たまま口を開かない。
話があるといったのは嘉久なのに、まるで私が何か言い出すのを待っているようだ。
いったい何なのだろう?首をかしげると、嘉久は少し顔を赤らめて、首を小さく横に振った。
「今日の朝……の……」
ああ!
そういえばそんなこともあった。
学校では他人のふりして近づくなといっておきながら、私の方から近づいていっちゃったんだよね……。
もしかして、人には禁止しておいて自分は守らないとかって怒ってる?
ああ、うん、そりゃそうだよね。
いくら、コース提出期限が差し迫っていて急を要するといったって、メールでこっそり呼び出して忠告することもできたわけだ。
何もあんな大勢の面前で言う必要はなかった……。
そう、あんな大勢の前で……。ああ、なんてことをしてしまったんだ……。
覆水盆に返らずとはよく言ったもんだ。
だが、汚名挽回、名誉返上って言葉もある。
あ、いやまてまて、違う違う。名誉挽回、汚名返上だ!って思ったそこのあなた、50点。
辞書を引け!実は汚名挽回は誤用説が1976年ごろから広まっただけで、本来は誤用ではないのだ!ふははははっ!
って、そんな豆知識どうでもいい。
とにかく、あの一件は何とかする方法を考えよう。人のうわさも75日っていうから、75日くらい過ぎたら忘れてくれるかな?ちょうど中間テストとかでうやむやになるんじゃない?
「ありがとうな……」
え?
「あ、いえ……」
まさかお礼を言われるとは思っていなくて、返答に困る。
嘉久の目は、まっすぐ私を見ている。
強い目だなぁと思う。
目に力がある。強い意志がその目に宿っているのだろうか。
「俺……自分でも分かってるんだ。周りが見えなくなるって……」
そうですか。自覚があったんですか。
「直そうと努力はしているが……」
まぁ、直らないでしょうね。
かわいそう?だけど、それだけ集中力がすごいって言うことだと思う。
芸術家とかが、食事を忘れて2日くらい制作に没頭するようなものだよね?そういうのって……直そうと思って直るものじゃない気がする。むしろ、直してしまったら、創作意欲の方が枯渇しそうだ……。
あ、嘉久は芸術家じゃないか。
「社会に出てからも……父の会社を継いでからも、この悪い癖が出るんじゃないかと思っている……」
悪いことばかりじゃないとは思うけど。
でも、部下にとったら、迷惑極まりないよねぇ。
つっぱしる社長。それについていこうと残業やらなんやら無理させられ……。ああやだ!
ワンマン社長のわがままに振り回される哀れな社員たち。ブラックだ!ブラック企業だ!
って、いいことないじゃん!
だけど、嘉久のその集中力を発揮すれば、株を100倍にしたように、企業には益をもたらすんじゃないかとは思うよ。社員の犠牲の下に……。
ああ、やっぱりブラックだよ!ブラック!
「璃々亜……。俺が暴走したら……、また今日のように止めてほしいんだ……」
ひゃーっ!何それ?
私を、ブラック企業へ誘ってるの?
唯一社長の暴走を止められる社員として働けと、そういうこと?
……。
社長秘書?
ちょっと素敵な響きじゃない?
それ、確約してくれるんなら、破滅ルートになっちゃっても就職には困らない?
いや、破滅ルートになったら、その確約すら破棄されちゃうか……。それに、もしかして……。
周りの見えない嘉久社長の秘書なんて、24時間働けますか?って宣伝文句じゃないけど、そんなの求められたり?
付き合いきれるか!
「その、ずっとそばにいてほしい……俺のそばに……」
断る!
「嘉久様、また、周りが見えていないですわよ?よく見てください。学園には優秀な人たちが集まっています。将来、嘉久様の右腕として働いてくださるような方もいらっしゃると思いますわ」
嘉久がうっと、言葉に詰まったような顔をする。
「み、右腕……あ、璃々亜、そういう意味じゃな……」
は?
あー、うん。そうか。学生のうちから仕事のパートナー探すのも変か。
「よいお友達ができるとよろしいですわね!」
にっこりわらうと、嘉久は顔を背けた。
「と、ともだ……ともだちか……」
壊れたレコーダーのようにぶつぶつ友達友達とつぶやいていますが、大丈夫でしょうか?
私は、部屋にもどりますよ?
いつもありがとうですです。
嘉久の告白スルー!
っていうか、そんな言葉じゃ分からないよ!




