第11話 下校 挨拶はやはり「ごきげんよう」らしい
皆が帰り支度を始め、教室から一人、二人と出て行く。
ああ、急がないと!
かばんに配布された資料そのほかを詰め込んで、アパレル娘のもとへ。
呼びかけようとして、はたと首を傾げる。
名前、なんだったっけ?
「し、白川様……」
ありがたいことに、向こうが気がついてくれたので、にっこり笑って話かけた。
「兄に尋ねに行くのでしたら、ご一緒しますわよ?」
っていうか、ご一緒させてくれ!
私が自分の親の職業を尋ねるわけにはいかないから、アパレル娘がお兄様に尋ねるのを聞いて勉強したいんだ!
「あっ、わ、わたく、し、あの、申し訳ありませんでした!」
真っ青になったアパレル娘は、かばんを両腕に抱えると、一目散に逃げていった。
あら、逃げられた。急に学園のアイドル(たぶん)のお兄様に会いに行くなんて、心の準備ができなかったのかな?
仕方がない。
知りたそうだった人はまだいたよね。
確か、医師会会長孫の、えーっと、
「皐月様」
よかった。名前思い出した。
にっこり笑って、皐月さんを見たら、皐月さんは、じりじりと後ずさり。
「ご、ごきげんよう、白川様……」
丁寧に90度の角度でお辞儀をして帰っていってしまった。
ああ、残念。時間が無かったのかな。
「あれだけ、釘を刺しておけば当分大丈夫そうだなぁ」
え?釘?
後ろに、田中くんがいました。釘ってなんだろう?
「あの、璃々亜さん……さっきは、かばってくれてありがとうございました」
田中くんの隣に並んだ芽維たんが、ぺこんって音が聞こえるようにお辞儀する。
かばう?
はて?何のことだろう?
「これからも、友達でいてくださいますか?私、今日の恩は絶対忘れません!いつかきっと恩返しします!」
ん?いったい何のことやら?
でも、恩を感じてくれるのはいいことだ。
もし、私が無実の罪で断罪されたとしても、かばってくださいますわよね?
「ずっと友達ですわ!約束です!」
芽維たんの手をとってぎゅっ。
そうだ、田中くんとも友達になろうと思ってたんだ。視線を向けると、芽維たんが口を開いた。
「こちらは田中くんです。小学校が同じだったの」
「4年生と5年生で同じクラスだったか?」
二人が顔を見合わせて、仲よさそうに過去の確認をしている。
ぐぐぐっ。
やはり、田中、お前も攻略対象か!
破滅フラグ回避のために、近寄らないほうがいいのか……。いや、でも同じクラスだし、すでに芽維たんと仲がいいみたいだから、避けるのも不自然だよなぁ。
と、なれば……
「田中様、お友達になってくださいますか?」
断罪イベントを起こされないくらい仲良しになる。恋愛抜きで。純粋な友達として。
うむ。完璧な計画だ。
「ああ、もちろん、よろしく。白川さん」
田中くんは、スポーツマンらしく、白い歯を見せてニカッと笑った。
少し3人で話をしていたら、教室に人がいなくなっていたので、私たちも帰ることにした。
「ごきげんよう」
周りに合わせた別れの挨拶。言い慣れないと不思議な感じ。
「ご、ごきげんよう」
芽維たん、噛んだ。
うんうん。言い慣れないよねー。「ばいばーい」とか「またね」だよね。
さて。生徒会室でお兄様と合流すればいいのかな?先にロータリーに行けばいいのかな?
廊下に出たはいいけど、どうしたらいいのか分からず途方にくれる。
すると、ポッケに入れたスマホがメールの着信を告げる。
『敦也兄のとこ行こうぜ』
嘉久からだ。メールを確認して顔を上げると、廊下のずいぶん先に数人の女性に囲まれた嘉久の姿が見える。
私が廊下に出るタイミングを見ていてメールをよこしたのか?まさか、近寄らないようにってことで、廊下の端で待機してたとか?
そんでもって、姿を見たから話しかけずにメールをよこしたんだろうけど……。
一緒に生徒会室行ったら、仲いいのばれるじゃろう!このオタンコトマト!あ、これ、オタンコナスの変形版。なんで「なす」なんだろうって、みっちゃんと話してて「とまと」でもいいんじゃないの~ってことで、二人の間で「オタンコトマト!」が流行ったのよね~。
後日、なんで「なす」なのか語源を調べて分かったんだけど……。まさかの下ネタでした。
まずな、その周りの女性徒なんとかしろ!
でもって、生徒会室に出入りするとこを誰にも見られるな!
……。無理だろうなぁ。距離を取っている女性徒の目も、嘉久に釘付けだもん。姿を隠してストーキングする子とか絶対いるだろ。
そんでもって、生徒会室の周りも危険ゾーンだ。生徒会役員目当ての女性徒が人目だけでも見ようとウォッチングしてるに違いない。
ついでに、生徒会メンバーと顔は合わせたくない。どうせ、攻略対象わんさか。破滅フラグ立ちまくる相手どもばかりなんだろうよ。
生徒会長のお兄様と、書記の剣崎徹だけキラキライケメンで、あと普通とか乙女ゲーではありえないでしょう!きっと、副会長とか会計とかもキラキライケメンに違いない。
あ、いや、一人くらいキラキラお姉様かもしれないけど。ヒロインのあこがれる立ち位置的な。悪役令嬢からヒロインをかばう立ち位置的な。
『先に車に行きます。お兄様の様子をごらんになって、メールをくださいませ』
ぽちぽちとメールを打ち、返事を待たずに、嘉久のいるのとは逆方向に廊下を進む。
ご覧頂ありがとうございます。
ブックマーク感謝です。
のらりくらりと日常を過ごす中で、この世界の謎を解くためのキーワードを含むエピソードを入れ込んであります。なるべく説明っぽくなり過ぎないようにちりばめようとするあまり、ぐだぐだと長くなっているという……。
こんな作品ですが、今後ともよろしくお願いいたします。




