第10話 自己紹介タイム2 璃々亜の二つ名は意外と有名らしい
「両親は両親で、私は私ですから、私自身のことをお話させていただきますわ」
と、前置きする。
知らないことなんて話せないからね!
「あらやだ、あなたのご両親もろくなお仕事されてないのですわね?」
「庶民が庶民同士仲良くしてるってことだろ」
くすくすと今度は私に対して笑い声が起こる。
「人に言えないような相当恥ずかしい仕事なんだな」
ムカッ。
人に言えない恥ずかしい仕事ってなんだ?
前世で私は従業員が10人にも満たない小さな会社でOLやってたけど、その仕事を恥ずかしいなんて思ったことないよ。
そりゃ、給料は低いし、時々辞めたいって思うこともあったけど、でも恥ずかしいなんて思ったこと一度も無い。
自分で働いて得た金で、誰にも迷惑かけずに趣味にお金かけたたんだよ。どこが恥ずかしい?
「仕事に貴賎はないと教えられたことはございませんか?自分で“1円”も稼いだことのないあなた方が、一生懸命家族のために働いてくださる人のことを悪く言う資格があると思いまして?」
ちょっと低めの声が自分から出てびっくりする。
あっ、しまった。
つい働く大人目線で、高校入学したばっかのくそがきどもお説教モードスイッチが……。
「そんなことも分からない自分を恥じたほうがよろしくてよ?」
あ、やばい。なんか言葉遣いが悪役令嬢っぽい。
だ、だって仕方がないじゃないかぁ~。お嬢様的口調がこれしか思い浮かばなかったんだもんっ。
「なんだとっ、俺が馬鹿だって言うのか!」
激昂した男子生徒が立ち上がった。確か、国会議員の息子。
あー、ごめんごめん、怒らせようと思ったんじゃないから、落ち着け。
他にも何人か、私を睨みつけてる。
どうしよう。
「西郷様、お座りなさい」
男子生徒の斜め前の席の女性徒がたしなめた。アパレル会社社長の娘だ。
助けてくれたの?ありがとう……
って、めちゃ睨まれてる~!!
「ご両親を恥じていないならば、言えますわよね?」
その言葉に、医師会会長の孫が続けた。
「そうですわ。立派なご両親のお仕事を教えていただけますか?」
ちょっと、待って、それ、無理っ!
さーっと青ざめた私に追い討ちをかけるように、アパレル娘が教室を見回しながら言う。
「皆様も、知りたいですわよね?」
やだっ。
この団結力怖いっ。
心配そうに私のことを見ている田中と、涙目になっている芽維たん以外そっとうなづいてるもん。
ってか、田中、おまえ、いいやつ。ともだちに、なる。
家族で知っていることなんて、一緒に朝食を食べる時間もないくらい忙しい両親と、2学年上に生徒会長の兄がいることくらいで……。
はっ、そうだ!
「知りたければ、兄に聞いてくださればよろしいわ」
丸投げぽいっ。
「は?あなたのお兄様など、存じ上げませんわ」
「そうよ、それで逃げられるとでもお思い?」
アパレル娘と医師会会長孫がほぼ同時に立ち上がった。
「それは失礼いたしました。兄を知らない方がこの学園にいらっしゃると思わなかったものですから。先ほど入学式で生徒会長として挨拶していたのが兄の、白川敦也です。私は妹の白川璃々亜と申します」
「し、白川様っ?!」
アパレル娘が叫び声とともに、椅子に倒れこむようにして腰を下ろした。ガタンと大きな音を椅子が立てる。
あれ?腰が抜けてないですか?大丈夫?
流石、攻略対象キラキラ兄パワーです。
「あ、あ、あ、あなたが……ま、まさか」
医師会会長孫が、ひざをがくがく震えさせ、机に手をついて体を支えている。
そこまで驚かせるようなこと言いましたか?
「孤高の、女帝……」
ぶっ。
その二つ名、どこまで広がってんの!
「え?あの方が?」
「噂じゃ、髪型が……」
ひそひそ声、聞こえてるよ!
縦ロール伝説、どこまで広がってんの!
「あー、自己紹介も終わったようだな。明日は、クラス委員や係を決めるから、今日の自己紹介を参考に考えておいてほしい。では解散」
って、先生、めちゃマイペースに、何事も無かったように締めましたね?
もしかして、毎年、この学校の自己紹介タイムってこんな感じなんっすか?日常っすか?
短編のつもりで気軽に書き始めたんだよ?本当だよ?
もう10話だけど、短編予定だったんだよ?
そろそろ短編の範囲をこえつつあるんじゃないかって自覚はある。




