恐怖!謁見の間!2
ゆっくりと謁見の間へと続く黒く大きな扉が音を立てながら開く。
謁見の間はまるで現世に生きる人々を恨むような形相を浮かべた亡者が描かれ、謁見の間にいる人々を見下ろしている。
その人々もまるで生きた人の様相をしていなかった。
顔半分に割るように走った切り傷、溶けたような頬肉、穴が空いたような額。
黒髪の少年は悲鳴を上げそうなるのを堪えて、事情を知る者である王の前へと進む。
そして膝をつき、頭を下げる。
「よく参った。そなたの献身は国と神々の元に響いておる」
王の横に佇むまるで幽鬼のように痩せこけた男が声を上げ、黒髪の少年に声をかける。
「未熟な身には勿体無き幸せにございます」
「うむ、特に此度姫様に贈られた技術は素晴らしい物だと王はお喜びである」
今回呼ばれた理由と謁見の間にいる負傷者の正体に黒髪の少年は絶叫と自身の迂闊さを責めるのを堪える。
特殊メイクはこの世界に相性が良すぎたのだろう。
過去にあった自ら傷を付ける行為はその傷が原因で死ぬ人が多すぎた為、現在では法律で禁止されている。
特殊メイクでは自身を傷付けるわけではないため、自分好みの傷をつけれる。
まるで戦場帰りのような切り傷も、修羅場経験のような刺し傷も、裂けたような口も、骨が突き出した肌も。
慣れて来るとまるで生物に寄生されたようにも出来てしまう。
「はっ……この身に余るありがたきお言葉です」
黒髪の少年はなんとか言葉を返しながら、特殊メイクが広まらないようにする方法を模索する。
「うむ、此度の技術は様々な危険がある為に王はそなたから技術を買い取り、王族の特殊技術とする考えである」
その言葉に黒髪の少年はすぐさま頷きそうになる。
ちらりと周りを見渡し、この場に王族や王族の血を引く貴族しかいないことに黒髪の少年は気付く。
「そなたの気持ちは分かる。しかし、あまりに広く技術を公開すると食糧難や外国から魔物に支配されたと思われかねぬ」
痩せこけた男の言葉が重々しく響く。
彼も特殊メイクの技術が持つ危険性と希望に肩が重いのであろう声が少し震えている。
「故に、秘術とさせてもらうが構わぬな」
黒髪の少年は頷いた。
王族の独占に対する抗議などは、黒髪の少年が考えることではない。
考えるのが面倒になったわけではない。
ただ、後を任せただけだと黒髪の少年は不敬な自己弁護を頭の中でする。