恐怖のメイクアップ4
美少女が笑顔を浮かべながら、傷痕造りをするという状況に黒髪の少年は何とも言えない気持ちになる。
口から裂けたように走る傷痕。
手のひらと手の甲に傷痕を張りまるで貫かれたかのような傷痕。
元が整っているだけに痛ましいと黒髪の少年は内心思いながら、苦手な鏡を恐る恐る覗く姫を見守っていた。
自分の今までの姿と違ったソレに姫は驚き、何度も瞬きをして、鏡を取り替えて再確認したら、自然と笑みを浮かべた。
口が避けた姫の笑顔に黒髪の少年は恐怖にひきつった笑みを浮かべてしまう。
そんな黒髪の少年の様子に姫は気付くことなく、様々な角度で鏡を確認した後、黒髪の少年に顔を近付ける。
「こんな素晴らしい物があるなんて知りませんでした。感謝します」
まるで口付けをするように近い姫に少年は動悸が激しくなるのを感じた。
無論、恋のドキドキではなく、恐怖のドキドキである。
まるで口裂け女が「私、綺麗?」と聞いてくるような状況だなっとどこか落ち着いた思考が黒髪の少年に浮かぶ。
「姫様、少々近いです」
「あら、ごめんなさい」
黒髪の少年の言葉に姫はすぐに体を離すと少々ドレスを整える。
はしたなかったと姫は羞恥し頬を赤らめていた。
「このような素晴らしい物を紹介して頂き感謝します」
仕切り直すように姫はそう言って小さく笑う。
「姫様にお喜び頂き、騎士として嬉しく存じあげます」
黒髪の少年はメイクがなければな~と思いつつも姫に言葉を返す。
そしてお互いに似合わない言葉だなとどちらかともなく笑いだした。
黒髪の少年はこれからも姫の為になる知識があれば、使っていこうと思いながら、メイドに何かしら話かけている姫を見守る。
きらきらと目を輝かせ、どんな傷が似合うか話し合う女性という猟奇的な様子から目を反らすように。




