恐怖のメイクアップ3
「……こんにちは」
ドアから顔を半分覗かせた少女と黒髪の少年は相対していた。
光を浴びてきらきらと強すぎない光を反射させる滑らかな金色の髪。
蜂蜜のような滑らかさで少女が動く度にさらさらと揺れる。
青色の瞳は影を落としたことで、彼女らしい色合いを醸し出していた。
柔らかそうな頬に小さな唇。
そして白磁のように白い肌。
その姿に黒髪の少年は惚けそうになる。
黒髪の少年は姫の美貌に慣れることはないだろうなと内心苦笑する。
「こんにちは、今日は誕生日プレゼントの準備に来たよ」
黒髪の少年の言葉に姫はきょとんと目を丸めて首を傾げる。
姫の動きに合わせて髪が流れる。その姿に黒髪の少年は動悸が激しくなるのを感じつつ、顔が赤くなってないといいなと思った。
「ちょっと特殊な誕生日プレゼントだよ」
そう言って右腕の袖を捲って、ポケットから取り出した傷痕に見えるように塗装を施したでんぷん糊を貼り付ける。
姫はその様子を目を丸くさせて凝視する。
「こういう風に傷痕っぽく見せるものが今回のプレゼントだよ」
そう言って腕を姫に近付けると姫は恐る恐る腕に触れる。
白く細い指が傷痕をなぞり、姫はきれいと小さく口にする。
耳を鈴音のような声が通り、黒髪の少年は苦笑いを浮かべる。
「作り方は簡単だから、一緒に姫様のも作ってみようか?」
黒髪の少年の言葉に姫の目は翳りが消え、澄んだ目で少年を見上げる。
黒髪の少年は頬が赤くなるのを感じた。
姫と共に黒髪の少年はメイドから中庭へと案内される。
優しい日差しと涼しい風が流れる中庭には様々な色合いの食虫植物があふれ、甘い匂いがただよっていた。
黒髪の少年は頬をひきつらせながら、ゴブリン部隊とどちらがマシなのか悩んでしまう。
中庭に設けられた、椅子に座る姫と黒髪の少年。
姫は目を輝かせながら、少年が取り出した壺をみる。
「これがでんぷん糊ね」
次にいくつもの赤い塗料を机においていく。
「肌につけたでんぷん糊が乾いたらこれで塗装するよ」
そう説明しながら、姫の指にでんぷん糊をつけてもらい、しばらく肌の様子を見守ることにする。
そんな二人を長年姫を見守ってきたメイドは優しい目で見つめていた。