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恐怖のメイクアップ1

黒髪の少年はベッドに寝転がりながら、姫のことを考えていた。

どうしたら姫に笑顔になってもらえるか。

どうしたら姫にこの世界を好きになってもらえるか。



美しさと醜さが入れ替わった世界。

前世の美的感覚を持ったままの黒髪の少年には馴染めないそれが原因で両親には迷惑をかけた。



病気になれば贈られてくるラフレシアやハエトリソウといった植物やゴブリンやオークを模したぬいぐるみ。

それから前世でも一切理解出来なかったクトゥルフ神話的な人物画や風景画。



熱に魘され、目が覚めると幾十ものおぞましいモノが自分を囲んでいる恐怖。




三歳の頃に風邪で寝込んで目が覚めたら、嫌になるほどリアルなゴブリンのぬいぐるみ部隊に囲まれて悲鳴をあげてしまったことがある。

その際、黒髪の少年の母は、怖かったのね~と言いながらゴブリンを一体掴み、黒髪の少年の目の前で動かして慰めようとした。

どう見ても食料を目の前にして涎を垂らすゴブリンにしか見えなかったので黒髪の少年は顔をひきつらせるしかなかった。



嫌なこと思い出したな~と呟きながら、黒髪の少年は木剣を掴むと外へ向かった。



両親を喜ばせる手段が浮かばなかった黒髪の少年は、ただ強くなることを望んだ。

美醜の違いなど関係ない剣の世界。

命が前世に比べたら軽い世界であることからも、剣を学ぶのは両親に喜ばれた。



真っ直ぐ降り下ろす。

揺れることのない切っ先が線を描く。


剣道のような凛とした美しさではなく、命を容易く奪う鋭さを感じさせる美しさがそこにはあった。


命が軽い世界だからこそ、命を奪う術は洗練されていく。



ゴブリンというこの世界のアイドル的な立ち位置にいる魔物を躊躇なく殺せる黒髪の少年は異端でありながら、護国の剣でもある。

繁殖力が高いのに雌が生まれないゴブリンは他種族……特に人間を襲う。

村から娘が消えたらゴブリンを疑えと言われる程に被害が多いながら、ゴブリンを殺す覚悟を持つ民間人などほとんどいない。


そんな世界でゴブリンを躊躇なく殺せる黒髪の少年は護国という意味では、凄まじく評価されながら被害にあうことのない貴族達には嫌われていた。



前世でもあった動物保護団体による過剰なバッシングに近いなと黒髪の少年は思っている。


何度も木剣を降りおろした黒髪の少年は額の汗を拭うと、茜色に染まる空を眺めた。



さて誕生日プレゼントとどうするかと黒髪の少年が考えようとした時にたまたま深い傷痕の残った腕が目につく。



これならいけるかも知れないと黒髪の少年は笑みを浮かべた。

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