恐怖のファンシーショップ2
黒髪の少年は扉をくぐり後悔した。
そこは一種の異世界であった。
腐敗した今にも動き出しそうなドラゴン、緑色の肌に三目の蝙蝠、人面の亀……。
「何このゲテモノモンスター共……」
「私が子供時代に憧れていたモンスターでございます」
黒髪の少年は呟きにわざわざ返す店主にげんなりしながら、もう一度見渡す。
剣と魔法の世界であるここでは、子供がドラゴンに憧れるようにドラゴンゾンビに憧れる。
腐り落ちゆく肉と骨に憧れ、街中で自作して玄関に飾る家まであった始末だったりする。
病気が蔓延する為今では禁止されていたりする。
逆にクリスタルドラゴンといった全身が水晶で出来たドラゴンは、ものすごく嫌われている。
「すごいな、これは」
ウィルジス王子はドラゴンゾンビのぬいぐるみを手にしながら、感嘆の息を吐く。
まるで美術品を扱うように大事に触れている。
「それにするのか?」
「うむ……他のも見てからにしよう」
二人は棚に置かれたゲテモ……ぬいぐるみを手に取っては棚に戻し、吟味していく。
嬉々とした様子のウィルジス王子と触りたくもなさそうな黒髪の少年が印象的であった。
「なんでぬいぐるみがぬめってするねん」
「最新の布でございます」
「うわっ首が落ちた」
「仕様でございます」
様々な異色のぬいぐるみを手にとりはげんなりする黒髪の少年ときらきらと少年らしく目を輝かせるウィルジス王子に温かな目を向ける店主。
黒髪の少年はゲテモノに多少慣れていて良かったと思いながら、この国のウィルジス王子の妹である姫への贈り物を選ぶ。
その姫は王族に一定の確率で生まれるというこの世界でいうところの不細工である。
整った顔立ち、蜂蜜のような滑らかな金色の髪、青い澄んだ瞳、バランスのいいスタイルに鈴の音のような声。
全てがこの世界にとって醜いものであった。
世界が世界なら傾国の美女となりかねないスペックを持ちながら、この世界ではおぞましいものでしかない。
その為、姫は部屋にこもり白魚のような真っ白な肌を持ち、更に世界に嫌われるようになる。
自分だけの部屋でゴブリンやオークのぬいぐるみに囲まれる日々。
そんな姫の12の誕生日。
黒髪の少年もウィルジス王子も姫が笑顔を見せてくれるものを選びたいと思っている。
ただ黒髪の少年はゲテモノ以外がいいなと考えているが……前世以上に年頃の少女が喜ぶ物など分からなかった。