世界の趣味が悪すぎる3
ようやく丘に辿り着いた黒髪の少年は姫の水色の衣装を身に纏う姿に声を失い足を止めてしまう。
この世界では評価されないであろうレースを贅沢に使われたドレスを着た姫。
特殊メイクを施さず、ただ紅を差しただけの姫。
光の中で金糸のように煌めく髪が風に揺れ、小さく笑みを浮かべる姫。
黒髪の少年はその笑みにふらふらと誘われるように姫の元へと歩き出す。
「……やはりあなたは来てくれた」
姫の口から出てきた今にも消えそうな言葉。
燐光のような光が姫にまとわりついていく。
そして指先から消えていく姫。
「」
名前を呼ぶ。
黒髪の少年。
「」
名前を呼ぶ。
忘れたくなくて、喉が張り裂けんばかりに。
「」
名前を呼ぶ。
誰かも分からない大切だった人の名前を。
「」
名前を呼ぶ……悲しくて悲しくて嗚咽混じりに。
「うわぁぁぁぁぁ!」
神像の前で意味も分からず、ただただ悲しくて泣き叫ぶ黒髪の少年がいた。
名前も顔も思い出せない誰かが消えたような喪失感と何も出来なかった自分に対する怒りから喉を張り裂けんばかりに声をあげる。
そんな少年は、老婆の姿をした神像は暗い笑みを浮かべていた。
この世界は趣味が悪すぎる。
だけど……。