世界の趣味が悪すぎる2
ギスギスとした空気に苛まれながら、黒髪の少年は赤いシチューを口に運ぶ。
目が笑ってない母と冷や汗を垂れ流している父。
普段とは違う食卓に黒髪の少年は困惑していた。
何があったのかと黒髪の少年は首を傾げながら、シチューにスプーンを沈め、魚の目を見なかったようにさらに沈める。
「あなた、あの子はウィルジス王子の付き人の筈です。何故姫様の誕生日に出席出来ないのですか?」
「うむ……こちらから断らせてもらうしかなかったのだ……」
黒髪の少年の父親は小さく唸るように黒髪の少年の母親に返す様子に黒髪の少年は首を傾げる。
「姫様は神に選ばれた」
黒髪の少年と黒髪の少年の母親はその言葉に息を飲んだ。
「」
言葉が出ない。
息子である黒髪の少年と仲の良い少女の運命に黒髪の少年の母親は涙が流れそうになった。
神が求める贄。
この世界に生まれる嫌われる外見を持った子が選ばれるというソレは神の世界に連れていかれ、二度と現世に戻ることはないという。
黒髪の少年の母親は自分の息子の恋心を知っている。
人とは明らかに違う価値観に悩み、身分差に苦悩し、それでも諦めきれず、せめて友として側にいることも。
そんな黒髪の少年の思いすら、踏みにじるような儀式。
神の元へと旅立たせるという建国以来から続く王族が定期的に行う神との契約。
自分達がどうにか出来る問題ではないと知り、黒髪の少年の両親は項垂れる。
黒髪の少年は席から立ち上がると駆け出した。
苦悶の表情をした照明に照らされる街道を駆け抜け、神事が執り行われる丘を目指す。
一歩一歩進める足が遅く感じる。
和やかな街の様子に苛立ちを感じる。
そして、こんなに大切だったのに何もしなかった自分に黒髪の少年は嫌悪を感じる。
会いたい。
話したい。
想いを伝えたい。
黒髪の少年は自分の気持ちに気付き、歯を食い縛り、足を前へ前へと出して進んでいく。
あなたが好きです。
ただその想いが黒髪の少年を動かしていた。