恐怖のお茶会!4
ガタガタとナイフを持つ手を震わせる黒髪の少年。
まるで殺人を強要されてる善良な一般人のような心持ちでナイフをケーキに突き刺す。
刺した場所から溢れ出るストロベリージャムの甘酸っぱい匂いとケーキから立ち上る甘い匂い。
黒髪の少年はごくりと唾を飲み込み。
ナイフをそのまま下へと走らせ、溢れるストロベリージャムを気にせず、別の場所にナイフを入れることで綺麗に切り取る。
皿に流れたジャムを少し付け、ケーキを口にする。
ケーキの優しい甘さと苺の甘酸っぱさが混じり、丁度いい味になる。
まだ湯気を放つほどの焼きたて故の美味しさに思わず笑顔を浮かべそうになるが、黒髪の少年は今にも死にそうなぐらい青い顔をしていた。
黒髪の少年の前には切り取られた場所からだらだらと赤いジャムを垂れ流し、苦悶の表情を浮かべる生首のようなケーキ。
せめて半分は食べないとと黒髪の少年はナイフを持つ手に力を入れて覚悟を決める。
自分が持つ剣ではまるで歯が立たず、最終的に何本もの剣を鈍器のように使い潰して討伐したドラゴンと戦った時よりも恐怖で背中を汗が伝う。
せめて半分、せめて三分の二となんとか食べきった黒髪の少年は真っ白に燃え尽き、口から霊が空に昇っていくようであった。
「美味しかったですね」
口をハンカチで拭いて、姫はそう言って笑う。
少しからかいを含んだ声色に黒髪の少年は嵌められたと小さく呟く。
「誕生日の件でしょうか?」
「はい、勿論です」
笑顔で肯定する姫に黒髪の少年はぐったりとする。
「せっかくおめかしして出るのに騎士がいないのはどうかと思いますよ」
頬を膨らませ、私怒ってますと言いたげな姫に黒髪の少年は罪悪感を覚えながらも今日食べたケーキより、王宮料理人が腕を奮った食事の方が危ないのが分かるので参加出来る気がしない。
姫の誕生日パーティーに参加するには、未だに少し位が足りないので不参加となっている。
「自分はウィルジス王子様の騎士ですよ」
黒髪の少年は罪悪感に苛まれながら、なんとかそう口にする。
「……そういう意味じゃないですよ」
小さな声で姫はそう言う。
その言葉を理解しつつ、身分の差があるために黒髪の少年は何も言わずただ苦笑いを浮かべた。