空を飛ぶ
「…あいつ今何してるのかな」
ヤチナ帝国東方に位置するニブル山脈、山脈の中にとある小さな集落があった。
裏山の林を抜けた先にある村を一望できる小高い丘に少女は寝っ転がっていた。
「またなんかと戦ってるんだろうな~」
少女は腕を広げ大の字になる。
草のにおいや土のにおい、鳥のせせらぎや虫の羽音、自然が大地が身体を満たしてゆく。
「しさいさま、ここでなにしてるの?」
少女が自然の香りを堪能しついると、
目の前に小さい顔がひょっこりとあらわれた。
村の子供だ。
確か名前はセトだったかな。
セトは茂みの中から少女を覗きこんでいた。
少女は、んーっと伸びをすると、起き上がり言った。
「自然のにおいを吸っていたんだよー」
「しぜんの、におい?」
「そう!自然のにおい」
こうやって横になるとーと少女は言うと、また腕を広げ大の字になる。
セトも真似して腕を広げ大の字になる。
「土のにおいや葉っぱのにおいするでしょ」
「する!!」
セトは嬉しそうに答える。
「つちのにおいする!!」
「これが自然のにおいだよ!」
「しぜんのにおい!いいにおい!!」
「どう?気持ちいい?」
「うん!」
二人してしばらく横になっていると、セトがなにかを思い出したように、突然大きな声を上げた。
「どうしたの?」
少女がセトの方を向く。
「さっき、シーナさまにしさいさまをみかけたら、おしえてくれっていわれたんだった!」
「私?」
「うん。しさいさまーってよんでた!」
「ならいかなきゃな!!」
言いながら少女は立ち上がると、大きく腕を広げた。
すると少女の背中から純白の鳥のような翼が生え始める。
純白の翼が人並みに大きく大きく生えてゆく。
「はねっ!はねっ!しろいはね!しさいさまからしろいはねがはえてる!」
セトが嬉しそうに叫んだ。
やがて翼が生え終わると少女はバサッと翼を閉じた。少女が翼を閉じると、あたりに純白の羽根がふわりふわりと舞う。
そして少女はセトの方へくるりと回ると言った。
「私はこれから、シーナのところに行くけど、あなたも一緒に飛びたい?」
「うん!!」
少女はにっこりと微笑むと手招きをする。
「じゃあ私に抱きついて」
少女が腕を広げると、セトが飛び込んできた。
ぎゅっと腕が腰に回されるのが感じられる。
少女はセトを両手で包み込む。
「じゃあ、行くよ!」
少女は翼を伸ばし、雲ひとつない大空へと飛び立った。
丘には、少女の白い羽根だけが残っていた。