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女3人愉快な旅

 扉が開いた為外の風が室内に入り軽く突風に煽られ文句を言おうと何人かが扉の方に視線を送り、ギルドの中に足を踏み入れた少女を見た途端全員が視線を切って地面に落とす、または何事もなかったように共に座っていた知り合いや仲間と談笑を再開させる。

 太陽を透かして見た青いビー玉の様な輝きを発する目で子ども特有の笑みを浮かべそのさい白い歯を小さな口元から零す。


 殺気に威圧をしている訳でもなく、魔力や気であふれているわけでもないにもかかわらず存在感を全身から発する少女に怒号を浴びせる酔っぱらいはいない、幾ら寄っていても職業柄命のやり取りを常にしている輩、危険を察することぐらいは造作もなくしていせる。

 自然と閉じる扉の隙間から漏れる後光を浴びながらクロウベルは満面の笑みを浮かべてティムの元に向かい対面の席に音もなく少ない所作で座ると口を開く。


 「さて、後どの程度待つことになる?」

 「…リティ、取り合えず落ち着こうか」

 「そう酷なことを言うな、私がどれほど今日を楽しみにしていたと思っている、あぁ心が躍る………Sランクの、それもギルドを通さない依頼…楽しみだ、この胸の高鳴りを鎮めろとは気軽に言ってくれる」

 「うわぁ…思いっきりスイッチ入ってるよ………」


 目に見えて興奮状態にいるクロウベルを見て今日の依頼は無事に済んでも胃を痛めることになるのは確実だとティムは頭に肘をついて頭を抱える。

 王族またはそれに近い地位にいるならばせめてお茶会や社交界というなの腹の探り合いにその興味を向けて欲しいと思い、その後に目の前の少女はそう言った場で自分に敵意を向ける人物に嬉しそうに近寄る姿をありありと想像できた。


 今のクロウベルが浮かべている顔をそのまま当てはめるだけの簡単な作業だ、腹の中に熱を籠らせながら懐からタバコを出すと自然に口元に持って行ったところで目の前に座っているクロウベルが興味深そうに見つめているのを見て慌てて口元からタバコを話して確認を取る。


 「あー…ごめんタバコ気にするタイプだったかな」

 「それがタバコか………物の形というのは移り変わっていくものだというのを実感出来るな」

 「そんな大げさな…アトラスでも同じ形だろう?」

 「向こうでは目にしたことが無い為聞かれても答えられんな」


 そう薄く笑みを浮かべるクロウベルに何故見たことが無いのに形に言及したがそこを追求するつもりは毛頭無いし深く考えるつもりもティムにはない。

 触れてはいけない話題が多すぎてどこがふれられる場所なのかが判断できない、下手に触れて知られたからにはと言われてはひとたまりもない、そう思いながら唇に加えたタバコを懐に仕舞いなおして原因を知りたくない軽い腹痛がティムを襲う。


 雑談一つするのにも神経をすり減らさなければならないティムは速く依頼人がこの場に訪れることを心の中で祈るが一向に来る気配は無く、二人の間に僅かな沈黙が訪れる。

 ティムからしたらこの依頼をこなしたらクロウベルが国に帰るまで自宅に引きこもっているつもりでそのため依頼人に早めの時刻を告げていた。


 通常ならば貴族を早めに呼び出して待たせる等リスクを冒す事は絶対にしない。

 だがクロウベルと天秤に掛けたら話は違う、それを抜きにしても恐らくこれから訪れる貴族よりクロウベルの地位は遥か彼方だとティムは睨んでいるし、ほぼ確信している。


 ティムを見るクロウベルの目の輝きが増す程ティムの瞳から色は失われていく。獣人なら確実に小さな臀部から生えた尻尾が勢いよく音を鳴らしているだろうとティムは眉間をもみながら想像してクロウベルに向けて口を開く。


 「リティ、言っておくけどこれから会う人は貴族だから相応の言葉に態度で接してあげて欲しいんだ………頼むよ、こんな下らないことで罪人にされて刑務所にぶち込まれたくは無いんだ」

 「…失念していた、確かにそうだな…今まで通りに接するのは幾らか不味いか、忠告有難く聞き入れよう、助かった」

 「幾らかじゃないんだよなぁ…」


 頭を抱えていた手を1本増やして頭をより深く下げるティム、地位が高すぎて権力を振るわれる側の恐ろしさを理解していないとティムは思い全く信用できない目でクロウベルを見つめる。

 しかし、ティムは9割程絶望的な状況になると踏んでいるが1割程はクロウベルを信じていた、幾ら何でも貴族として相応の振る舞いは教育されているだろうと、それがどれほどか細く脆い紐だろうと吊るされてあるなら掴むしかティムには無い。


 クロウベルの振る舞いを今の今まで流していて忠告していなかった事を土壇場で思い出したティムは言葉遣いの確認をしようと口を開く寸前で扉が開き軽快な足音が室内に響く。

 その音が普段聞きなれた鉄や冒険者が愛用するような分厚く頑丈に施された皮ではなく見た目を追及された革製の靴だという事を理解してティムは引きつる顔をそのままに顔を向ける。


 不機嫌そうにティムとクロウベルの座っている席の前に付き仁王立ちで腰に腕を置いて鼻を鳴らし、ティムを一瞥してクロウベルに目線を送る。

 クロウベルが何か口を開く前にティムは口を開けてこれでもかと脳内をフル回転させる。


 「ようこそイヌカイ様、私は貴女のお父様から先の護衛を頼まれたティム・ラーガンと言います」

 「灯里で良いわ、それよりこいつは? お父様からは1人だって聞いてたんだけどこいつも来るの?」

 「そちらはリティ・ヘルツという方で私が同行を頼みました、アトラスから来ているそうで私も詳しくは知りませんが実力は確かです、追加の金銭もいただきませんのでどうかお許しを」

 「………そう、ちょっとあんた、アトラスから来たっていうけど本当なの?」


 不味い、今ティムの脳内にはその言葉しか思い浮かんでおらずどうにかクロウベルに言葉を発させないよう言葉を選んだつもりだったがアトラスという単語が灯里の興味を引いたことを後悔して額から汗を流し始める。

 アトラスとメイジスは冷戦とはいえ戦争中である、身分のある灯里が行ける場所ではないし他国から入ってくる情報も幾らか偏見が入っている、生の声が聴けるならと気軽に聞く灯里に球のような汗を頬から垂らすティム。


 必死にクロウベルに目配せをするがそれもどこまで効果があるかティムには解らない、灯里の顔を見つめて数秒してクロウベルはゆっくりと口を開いた。


 「ほ、ほほほ本当ですけど………どうかしましたか?」

 「ブッ!?」

 「キャア!? ちょっとティム貴女何を吹きだしてるのよ!!! 服にかかったら弁償しなさいよ!」

 「大丈夫ですか…?」


 そういって静かに席を立って優しい手つきで背中をさすり始めるクロウベルにティムは風を切りながら勢いよく振り返り見つめる。

 お前は誰だ、その言葉を必死に飲み込みながらあからさまに心配していると言う顔付きをするクロウベルに笑いがこみあげてきて呼吸がまともに行えず手のひらを口元に置き盛大に咽始める。


 一体どっちが素なのか解らず余りの衝撃に落ち着かせるため胸に手を置き瞳を閉じて深呼吸を行うティムをいぶかし気に見ながら灯里は口を開く。


 「…ちょっと大丈夫なんでしょうね、聞いた話だと厄介なのが来るかもしれないっていうじゃない」

 「だ、大丈夫です! ティムさんはすっごく強いんですよ!!! 私はその…あんまりですけど」

 「いやいやいやいや、君は何を言っているんだ」

 「えっ…私変な事言いましたか?」


 本当に解らないと言いたげに小さく首をかしげて目を丸くするクロウベルを全身の毛が逆立つ思いで観察し、ふと視線を感じてそちらに目を向けるといかつい鎧を着た男性と視線がぶつかる。

 瞬間首が折れるんじゃないかというほどの勢いで顔を反らしてギルドから出ていく背中に思いっきり怨念を込めて睨みつけると顔をひきつらせたクロウベルが灯里に向けて口を開く。


 「あはははは…ティムさんはちょっと疲れているのかもしれません、昨日はアカリ様の為に色々と準備をしていたみたいで」

 「疲れてるって…まぁ良いわ、仕事をしてくれるんなら文句は無いもの、それじゃあ早速行きましょう? ここにとどまっている理由が無いわ」

 「その通りです、一刻も早くこの仕事を終えなければ………」

 「………本当に大丈夫なんでしょうね」


 ティムは立ち上がると目で灯里に視線を送るともう一度鼻を鳴らし灯里は外に向けて歩き始める。

 その後ろをティムとクロウベルは追いかけるがその時クロウベルがティムに向かい嫌らしく口元を釣り上げたのを見てティムは深いため息を漏らして頭を抱える。


 演じろとは言ったが最早原型が無い、実は二重人格なのではないかと疑りながら顔に力を入れて思慮に更けるティムの心を知らず灯里は前を歩きながらクロウベルに問いかける。


 「ねぇリティ、アトラスとメイジスのここが違うっていう所なにかない?」

 「そうですね…一つ言うなら皆良く汗をかくなぁとは思います」

 「はぁ? 汗?」

 「アカリ様、リティは少し変わってる子なんです感性が特殊と言いますか」


 訝し気に後ろを振り向いたアカリと不思議そうにティムを見つめるクロウベル、今なお汗を増やし続けるティムを見て妙に納得したアカリは不思議そうに首を掲げて前を向いて馬車が待っている町の門に向かう。

 それを見たティムは何か勘違いをされたと思うがそれでこの場面を乗り越えたのなら安い買い物だと思いリティ自身の隣を歩くを見下ろす。


 どういう意味かと聞きなおして汗をかくような目にあわされたら溜まった物ではない、そう思いながらティムは少し屈みクロウベルの耳元に口元を寄せると前に届かないほどの小声で囁く。


 「何かアカリ様が喜ぶような話題はないのかい?」

 「そうは言われてもな、私自身余り詳しくは無いんだ………あぁ、一つあったな」

 「待った、どういう話かまず僕に話してくれ」

 「私とて分別ぐらいは弁えている、問題のある話ではない」


 クロウベルの認識で問題が無い、これほど信用できないものがあるのか。

 少なくともティムは1人で群れのケルベロスを討伐してみせる化物基準等信用できるはずが無く何とか聞き出そうと奮闘するが「任せておけ」とクロウベルは呟き小さな花弁のような顔に男気溢れる笑みを宿し、瞬時に目じりを下げて小動物の装いをすると前を向き口を開く。


 「あのっ、違うっていう訳じゃないんですけど…気性が激しい人が多いなぁとは思います………あ! 決してアカリ様がそうだというわけじゃないんです!」

 「良いわよ取り繕わなくても…それにしても気性が激しいねぇ、アトラスの人って皆貴女みたいにオドオドしてるの?」

 「あははは…私はちょっと特別というか………」

 「でしょうね」


 全く参考にならないと思う灯里に大胆不敵の間違いだろうと思い二枚舌を器用に扱うクロウベルに肝を冷やすティム、そしてリティの真似に愉悦を感じ始めているクロウベル。

 3人共違う方向に思いを馳せる中ティムはクロウベルに依頼でどう動くかを打ち合わせをしようかそれども本人の好きにさせた方が良いのか迷いながら黒く大きな門に近づいていく。

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