淑女? の紳士講座
この場面飛ばしてギルドから始めるか悩みました。
淡い光が窓ガラスの割れた隙間から入りクロウベルの顔を照らし睡魔に蝕まれながらゆっくりと瞼を開ける。
体に掛けていた茶色く分厚い布をその場に置いて数回瞼を擦る。
足腰に力を入れて立ち上がってから背を伸ばし、埃や汚れが目立ち割れたレンガから青々しい雑草が生えていてその間にある小さな白い花を避けながら歩くクロウベルはドアが外れた空洞を進み自身が寝泊まりしている建物から外に出た。
体に付いた土埃を手で払いながら歩いていると建物の近くに座ってるスラムの住民たちと視線がぶつかるが合わさった瞬間に視線を反らし地面や空を見上げその場をやり過ごす。
スラムに来て解ったことだが狭い区域に建物が幾つも建てられている為スラム街で太陽の光が届く区域は少ない。まず何かしらの派閥があり力のある者達だけが光の届く場所や建物を独占している。
進めてくれた少年には後で謝礼を払うべきかとクロウベルが思慮を巡らせていると考えていた少年を見かけ気軽に声をかける。
「久しぶりだな、進めてくれるからにはあの建物で寝泊まりしていると思ったんだが…」
「………あそこにいられるのは女だけだ、俺は男だから入れないんだよ」
「ああ、例の派閥とやらか…そうか私は女性として扱われているのか、身なりからすれば少女としてだろうが、こればかりは慣れんな」
「…マジでスラムで住むつもりか」
見上げる少年の顔を皮肉ったように笑うとクロウベルはゆっくりとした動作で首を左右に振り肩についていた白い埃を指でつまみ左手の手のひらに乗せて息を吹きかけ飛ばす。
浮いて遠くに飛んでいく埃を見ながらクロウベルは力を緩めたように眉を下げて先ほどのような嫌らしい笑みを止めて薄く笑う。
「この場で何時までも立ち止まっている訳にもいくまい、私には既に成すべきことはないが…どうやら後始末は残っている様だからな」
「だったらこんな所にいずに自分の仕事をしに行けよ」
「ふむ、以前幼馴染に言われたことがある、アンタは歩く速度が速いし寄り道が多くてついていけないと」
言葉には出さないが少年にはその友人の気持ちが良く分かった、スラム街に寝泊まりするような非常識さにそれを実行してしまえる実力。
何が目的なのか解らないが少女が懐かしむ様に、また楽しそうに話している姿からは負い目を感じている様には見えない。という事はその幼馴染の忠告をまともに受け取る気はないと行動で表していると少年は察した。
表の活気ある物音が薄暗い裏に届く、見えない壁を意識しながら少年はその壁を易々と粉砕する少女を見上げ言葉の続きを黙って待つ。
「そしてこうも言われた、だから勝手に散歩して来てと…私は今散歩をしているんだ、家に帰るころにはあれの怒りも落ち着いていることだろう」
「待て、もしかしてお前、喧嘩して帰れないからここに来たのか?」
「物のついでで立ち寄らせてもらった、何中々の余興だ」
「喧嘩でスラムに逃げ込むってどんな相手なんだよ」
目の前の少女が逃げ出すような人物に興味は湧くが深く踏み込むことは無い、曖昧にほほ笑むクロウベルが口にしないのならばそのまま流すのみ、藪蛇で痛い思いをするのはごめんだと少年は思い小さく舌を鳴らした。
少年からしたらクロウベルは今までかかわったことが無い相手でなおかつ非常にやりづらい相手であった。どのような嫌味も威嚇も意に介さず軽く受け流していてそれは何も自分に対してだけではない。
クロウベルに手を出そうとする住民は多かった、多かったが今は誰もいない、殴りかかった大男の拳を掴んで笑いながら徐々に力を込めて潰した女に手を出すような馬鹿はいないしいたとしても長生きできない。
次は誰だ、そう楽しそうに可愛らしい声で笑いながら周りを一瞥した少女に住民は直感した、こいつは迷い込んだ獲物ではなく、居場所を探して堕ちてきた化物だと。
直接見てはいなかったがその事後現場を見た少年は顔から色と共に熱を落とした、踏んでいた地面に落ちて赤黒い痕跡に奪われてしまったのかと思うほど濃い血液が散乱しており地面に滴り落ちた後が続いていた。
クロウベルを見上げる少年の目を見て少女は恥ずかしそうにほほ笑み瞼を瞑りゆっくりと小さな唇を開けた。
「一昨日の事を思い浮かべているな? 私も大人げないとは思っている………出来れば忘れてはくれないだろうか」
「…ここじゃあ日常茶飯事だ、ただ見た目との差が激しいのがな」
「いかんな、血の気が多いのは自覚しているんだがどうも治らん…敵意を抱かれるのはそうそうなくてな、こう………滾ってな」
クロウベルを知る者からしてそれは当たり前の常識、戦うという選択肢を取った時点で敗北が決まっているような化物に敵意を抱く方がどうかしている。
しかし、だからこそクロウベルは敵意をぶつけてくる存在を追い求めていた、過去に挑んできた人物を懐かしく思いながら空を見上げるクロウベルに少年は顔を歪ませてクロウベルの進行方向に視線を向けるとこちらに向いていた幾つかの目が視線を切って地面に落とされる。
「…今日は用事ないのか、俺と話してるなんてよっぽど暇なんだな」
「予定はある、むしろ今日の予定が楽しみで仕方がない」
「…そうだな、凄く良い笑顔だしな」
「私を口説くならもう少し経験を積んだ方が良い、こう言っては何だが私を狙うのは骨が折れるぞ?」
骨は骨でも首の骨だろう、少年はそう思ったが口から出さずに不愉快そうな視線を向けてクロウベルを非難する。
照れた様に柔らかく、冷たい微笑を浮かべるとクロウベルはスカートから白いハンカチを取り出し少年に向けて射し伸ばす。
フリルが付いていてクロウベルには似合わない代物だが中身を抜けばお似合いだと少年は呆け反応が遅れる、至近距離でかがんだクロウベルの顔が白い靄に覆われ、柔らかい感触を頬が迎えた所で少年は顔を赤くさせてその場を飛びあがりクロウベルから距離をとる。
震える人差し指をクロウベルに突き立てて少年は大声を腹から張り上げる。朝早い町に良く響く子ども特有の甲高い声を聴いて建物で休んでいた鳥が羽ばたき薄暗い空を一瞬さらに暗く染めた。
「な、ななな何やってんだ!!! お前っ、そんな綺麗なハンカチを…!」
「紳士ならば身だしなみに気を払った方が良いぞ? まぁ女性に顔を拭かれるのは恥ずべきことだが…気にするな、お姉さんのお節介という奴だ」
「何がお姉さんだ同い年ぐらいだろうが!!! いや違うそうじゃない! 行き成り顔を拭くな!!!」
「…ふむ」
そう一人納得するとクロウベルは静かに少年に歩み近づいていく、少年はクロウベルに背を向けて走り出そうとするが視界にクロウベルの姿が飛び込み力を込めていた足を無理やり止めて味を地面に滑らせながら体を急停止させる。
極度の混乱に恐怖から体を固まらせる中クロウベルはさらに近づき少年の顔を再度ハンカチで優しく吹き始める。
抵抗をしたところで無駄だと少年は悟り赤く染まった頬で回りを見回す、目がぶつかった人物はその瞬間視線を切り、それを繰り返しているとクロウベルに頬を掴まれ少年は顔を固定されクロウベルの顔を見つめる機会を与えられた。
砂埃があちこちについているがそれでもまだ可憐な姿に妖艶な表情に振る舞いに少年は顔を赤くさせ青色の瞳から目線を切る。
「なに落ち着け、こういった世話には心得がある」
「………そういえば前にも似たようなことを言ってたな、本当に俺みたいな奴とかかわりがあったのかよ」
「かかわりも何も………いや、そうだな深いかかわりがあった」
「…なんだよ気になるな、自分だとか言うなよ?」
その言葉を聞くとクロウベルは目を丸くして少年の顔を拭く手を止めて見つめる、胸の鼓動を速めて見つめ合う事数秒、クロウベルは大声で腹部を抱えて笑い声をあげる。
先ほどまでの雰囲気が吹き飛びその姿がクロウベルの素なのかと少年は思い冷めた目でそれを見つめて小さく息を吐いた。
「なんだよ無駄に猫被ってたのか」
「ハッハッハッハ!!! そ、そういうな…私も中々柵が多い身だ………しかし、やはり人間とは面白い…私を貧民の出と疑るとはな」
「はいはい無いと思ってたよ! それでもう気は済んだか?」
「妥協点だな…が、女性に注意をされている様ではいかんな」
そういうとクロウベルは少年の両手を掴み優しくハンカチを手渡す、驚き手を振り払う少年にクロウベルは微笑み後ろを向いて路地から出ていく。
スラムに居て体を汚すのは当たり前で幾ら取り繕っても無駄だと思いながら少年はハンカチをポケットに押し込む。
投稿が少し不安定になるかもしれません、というのも軽い学園恋愛の話を投稿しようかなって思っています。
話数はそこまで考えてません、本当に少しだけって感じで…まぁラブコメ苦手なんでどうなるか解りませんけど良かったらそっちも読んでください。