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子守の一日

 どうもー、はいお久しぶりです、もう一つ新しく書き始めたのが悪かったんでしょうねはい、書こうと思えませんでした。

 天井付近の窓から建物の中に光が入り午前中でありながら薄暗い部屋を弱く照らしだす。

 木で出来た古ぼけた茶色い机の上に薄い布地で白いハンカチを両手で広げて乗せてその上に出来立てと湯気を上げて主張するコーヒーを置き、コーヒーと一緒に置かれていた銀色の小ぶりのスプーンで中をかき混ぜながら冷ます。


 黒い波を作り自分で回すスプーンを見ながら考えるのはあの少女の事に他ならない、ティム自身いかにあの時浅はかな行動を取ったのかは十二分に理解していて、自身が頼んだ依頼が終わったら極力関わらないようにしようと心のなかで力強く誓いを立てていた。


 (強いっていうのはまぁ良い、良くはないけど問題はそこじゃない………)


 自分から見て立ち振舞は文句の付け所もなく完璧、礼儀作法を癖の領域に至るまで身に染み込ませていて、上流貴族で優秀な者ならあの年頃ならばさほど珍しくはないのも事実ではあるが、それはそのこと一つに集中して教育を受けていたらという前提が入る。

 威風堂々として、完全に自分が上で当たり前だという自覚もある、かといって他人を蔑ろにしたり貶したりせず、むしろ思いやりがあり他人を自分とは違うということを本当の意味で理解しているようにティムは感じ取った。


 (………どう考えても厄ネタ、それも今まで関わった中でとびっきりの)


 あの年で完全に自分という個を完成させているという事が異常だがそれだけならば頭を抱えるほどの問題ではない。


 (最低でも公爵、でもそこじゃないだろうなぁ…全く面倒なことになりそうだよ)


 一度だけ物心がついた頃に女王ディアヌを見たことがある、今でも忘れないほど鮮明に刻まされたがカリスマとも言える力を感じ取った。

 紅白が入り混じったドレスで向こうもティムと同じく小さい子供であったがその力強い瞳には自分の姿が写っていなかった事を思い出すと口元に苦笑を浮かべて懐かしげに虚空を見つめる。


 ふと机の上に置いてあるコーヒーに視線を走らせると冷めて白く儚げに上がっていた湯気が色を無くして冷たそうなコーヒーに気付き慌てて口の中に含むが思った通り温くなっていて味の濃さから顔が渋く変化する。

 渋った表情をしたまま机の上に置いて懐からタバコを取り出して口元に加えると右手でライターを取り出して火を付けて一息吸ってライターを懐にしまうと目を閉じたまま頭の中で物事を整理しようと頭脳を回転させ始める。


 ディアヌの威圧とも言える雰囲気と似ている物をリティからも感じ取った、ディアヌ程荒々しく攻撃的ではないが、重みがありその分凄みがある様な力を。

 あれは人を寄せ付けて自分の意見を押し通らせる力、駄目押しとでも言うようにクロウベルはティムの依頼を政治的な理由からギルドに通せないことを看破している。

 政治に精通して礼儀作法を完璧にこなし、人を寄せ付ける魅力を持つ、ここまで揃えば答えは否が応でも一つにならざるおえない。


 (………王族、だよなぁ…これって下手しなくても国際問題なんじゃ―)

 「何か考え事か? 良ければ力になるが」


 急に前から聞こえた声に息を勢い良く吸い込み、タバコの煙で盛大に咽て机の下に顔を向ける、顔を赤くさせて咽る中背中からは大量の冷や汗が流れ始めるのを感じながら口からこぼれ床に落ちたタバコを左足の茶色い革靴で思いっきり踏みにじってから呼吸を整えて恐る恐る顔を上げる。

 無駄に可愛げのある笑顔を見て顔が引きつるのが解り表情を整えようとするが頬がつり上がったまま動かないのでティムはそのまま厭味ったらしく返事をして誤魔化す路線に変えた。


 「やぁリティ、いきなり声をかけるなんて人が悪いね」

 「すまない、そこまで過激な反応をするとは思わなくてな」


 悪びれている様子もなく、一応謝罪をしたとまるわかりな態度に苦笑をして合わせるとクロウベルはティムに向かって口を再度開き問いかける。


 「所で何か悩んでいたように見えたが、私の手は必要か?」

 「明日の依頼の事さ…っと、そう言えば昨日の依頼での料金半々だったよね、細かいようだけど貰ってない分渡してくれないかな」


 クロウベルが魔鉱石を取り出した所で難なく話をすり替えることに成功してティムは落ち着きを取り戻して自身の魔鉱石も机の上に置く、リティの魔鉱石とティムの魔鉱石が光り輝いてお互いに金額が変わったことを確認するとクロウベルは魔鉱石を布袋に入れたように見せかけてリティの元へと飛ばす。

 その様子を見守っているとクロウベルが依頼書が貼ってあるボードの方に行こうとしたので素早くクロウベルの左腕を掴みその動きを阻止する。


 クロウベルは顔をティムの方に向けて訝しげな表情を一瞬作り、戻すと薄く笑みを浮かべて口を開く。


 「なるほど、確かに私が選んでばかりというのも味気ない…適当に見繕って貰えるのはありがたいな、感謝しよう」

 「違うそういうことじゃない、取り敢えずもう一度座ろうか」


 そう言うとゆっくりと優雅に座るティムにクロウベルは茶色い椅子に座って表情で疑問符を浮かべながらティムの言葉を待つ。

 

 「実は明日の依頼の下ごしらえで忙しくてね、今日はそれを言うために君を待っていたんだ」

 「………あぁなるほど、私一人で事を済ませると色々と不便だろうな…ならばそこらにいる者達を誘うとするか」

 「………なんだかごめんね」


 そう静かに口元から漏らすとコーヒー代を机の上に置いて足速にその場を後にするティムを見届けるとクロウベルは辺りを見回し暇そうな人物を探しているとギルドの受付に目が行った、今日はナセルリアではなく如何にもやる気なさ気な男性で背中に手を入れてかきむしったまま今しがた依頼をこなしてきたであろう男性に声を掛けた。


 「あー…なんの御用で?」

 「…あまり飲み過ぎるなよ」

 「ああそうだな、今日は良い天気だ」


 男性は疲れた様にナーガの尻尾を十二本机の上に並べギルド員は袋の中にそれを入れて男性に報酬を渡すと右手を軽く額に乗せて奥に戻っていく。

 いつもの事ながら呆れながら見送ると周りを一通り見回す、真っ昼間の時間帯だからか男性の視野で確認できる範囲で開いている席は無いのでそのままギルドから出る為に踵を帰すと何者かに手首を握られた。


 驚いてそちらを振り向くと表面上は可愛らしい笑顔を浮かべる少女が目に入った、その顔を見て数瞬惚けるがそれが誰なのかを思い出すと体全体から汗が流れだし少し前に引いた額の汗も再活動を始める。

 手を振り払おうと腕を動かそうとするが少女の握力が強すぎて動かすことが出来ない、そのか細く白い腕でそれほどの握力を出せることに驚愕しつつ男性は顔に似合わない怯えたような表情を少女に見せる。


 「そう怯えるな、少し貴様に頼みがあるだけだ…迷惑はかけん」


 そう青く澄んだ目を閉じて優しく微笑む少女に男性は抵抗を弱めて少女に向かい未だに怯えが見え隠れする態度で対応する。


 「………一応は信用してやる、同僚だしな」

 「…そこまで怯える要素が思いつかんのだが、良かったら教えてはくれないだろうか」


 そう首をかしげながら聞くクロウベルに男性はただでさえ疲労を感じている体に鞭を打ちながらクロウベルの座っていた席の近くに座る。

 未だに納得の行かないような顔をしているクロウベルに男性は言い寄れない恐怖を覚えながら見つめる。


 (こいつ…なんで自覚が無いんだ? アレだけの事をしておいて)


 近くで力を放っただけなら男性もそう恐怖はしない、問題はその後の振る舞いにある。

 クロウベルの方に男性は視線を向けるが至って自然体であり嘘を付いている様子もなく本当に身に覚えがない事が見て取れた。


 「…お前ケルベロスの尻尾を大量にナセルリアに渡してたろ、あれだよあれ」

 「………あの程度の事でこれか、私がGランクだから問題が生じたようだな」


 自分の言っている事をズレた意味で受け止めたクロウベルを見て男性は軽く右手で頭を抱える、右手の籠手から伝わる冷たさに幾分か冷静さを取り戻すと男性はクロウベルに口を開く。


 「あのなぁ…それ以前に一人であれだけのケルベロスを殺すってお前、怖がられるに決まってるだろ」

 「………もしや、強い部類なのかケルベロスは」

 「強いも何も獣の魔物の中なら一番目か二番目に厄介な奴だろ、それを一人で四十三匹? イカれてるとしか思えないね俺には」


 魔族の常識としては魔物は等しく弱者の部類で、ドラゴンもスライムも等しく同じ範囲内であり。魔族になりさえすればスライムでも強者になりうる存在は多い。

 自分と周りの者の価値観の違いにようやく気付きだしたクロウベルは静かに独り言を始めようとするが男性が席を立とうとするのが見えたので無言で腕をつかむ。


 「これは私の数少ない友人から聞いた話だが、私から逃げることが出来る確率は平行世界の全てが同じ時間帯で崩壊する確率と同等らしい」

 「…ようするに無理だって言いたいんだな」


 例えが壮大過ぎて現実味がわかないがその例えが大袈裟なものでは無い事は理解出来た、眼の前の少女から逃げ出せる光景が思いつけない。それは少なくとも男性の知っている人物の中では不可能だと解る程度には貫禄が伝わる。


 (まぁそれだけじゃないけど、どう見ても厄ネタ満載だからなぁ…)


 気品ある立ち振舞に自然と出る上から目線の発言、そこだけでも誰にでも上流階級の生まれだと悟ることが出来る、そして常識外とすら言える実力、それを行っているのが年端もいかない少女というのも懸念に拍車を掛ける。

 触れてはいけない厄介者、それが一日でメイジスの猛者が集うギルドで得たクロウベルに対する認識。当然といえば当然だが問題は本人がそこまで自覚していない事だ。


 「そう言えば、新人いびりのような物はないのか? 少しばかり興味があったんだが………」

 「普通は初日、遅くても一週間以内にはあるぞ、普通だったらな」


 そう聞くと花が咲いたような笑顔を浮かべる少女に男性は冷ややかな目線を投げかけ、思いついたように口を開く。


 「というか、お前ダリアからすでに歓迎されてなかったか?」

 「あれはそう言った類のものでない、話でしか聞いたことがないが陰湿な物なのだろう?」

 「…お嬢さんは実際されたらどうする気で?」


 そう男性が問いかけるとクロウベルは笑いを堪える様に顔が俯き、体を数回微妙に揺らすと顔を上げて男性に晒す。

 顔が崩れていて普通ならばみっともない表情になっているが持ち前の愛らしい顔が相重なり可愛らしい表情になっているだけですんでいた。


 「すまない…お嬢さんと来たか………問の答えだが決まっているだろう? 振りかかる火の粉は振り払うのが礼儀だ」


 そう楽しそうに可愛らしい声で発言するクロウベルに声と内容の落差に肩を落とし疲れたような動きを見せるがそれを気にする者はなく、男性の眼の前のクロウベルは男性の動きの意味を深く理解しようとしていないし周りの者は二人を見てはいるがそこまで一々気にしていない。


 「それで頼みの内容なんだが………貴様も知っているだろうが私はGランクだ、だから貴様の依頼に連れて行ってはくれないだろうか」

「タイミングが悪かったな、ついさっき終わらせたばかりで今日はもうお仕事終了だ」

 「なに貴様は立っているだけでいい、全て私に任せておけなんら問題無い」

 「………正直に言ってやろうか、お前と関わり合いたくないから嫌だ、絶対にな」


 そう言うと酒を頼む為に給仕に声を声をかけようとした所にクロウベルが懐から黒色のサイコロを出して机の上に置く、それを見て男性は鼻で笑いクロウベルに口を開く。


 「はっ、何出してんだよ賭け事で巻き上げようってか? 俺はギャンブルはしない主義でね」

 「サイコロの出目で勝負しようではないか、ルールは単純出目が多いほうが勝ち…なにサイコロを振るのも、順番も貴様が決めればいい、10回で1回でも貴様が勝てば私は今後一切貴様に話しかけん…が、変わりに私が勝てば今日一日は私に付き合ってもらおう」

 「………よく言う、イカサマする腹だろ、俺は魔導には疎いんでわかんねぇからな」


 今はもう廃れた物だが昔人間がしていた賭け事での勝負、クロウベルも経験があり単純なものだったので持ちかけたが男性にしてみれば初めて聞いたもので、万が一にも敗北がありえるので煙に巻こうと返し刀を放つ。

 実際にイカサマなどするようなタイプではないと解っているが関わりたくない為そう言うと遠巻きに見ていた一人のやせ細った男性が二人に近づいていく、その姿をみて男性は自分はこの勝負から逃れられないことを悟った。


 (チッ! やっぱいるよなぁそりゃ、俺も他人なら傍から見て腹抱えて笑ってるだろうし)

 「ちょっと聞いてたんだけど面白そうなこと話してるじゃ無いか、俺も入れてくれないか? こう見えても魔導には自身があってな」

 「おお!! ならば私がイカサマをするかどうか確かめていてくれ、そのような愚行を犯すはずないがな」


 すんなりと、まるで初めから打ち合わせをしていたかのように事が進み男性は頭を抱えてサイコロを見つめる、黒を主体として穴の部分が白色で出来ていて見た目は個人的に好きな物だが、男性にはそれを上回るほどにそのサイコロが憎らしく思えた。

 すいません今年から私生活が忙しくなるのでたまにしか投稿することが出来ません。


 もう一つの方にも力を注ぎたいのでご理解いただきたく存じております。

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