一つの幕開け
主人公であるクロウベルの名前は簡単に決まったんですが、もう一人の主人公であるリティの名前を決めるのに思いのほか時間がかかり驚きました。三日ぐらい悩んだ末決めたのですが、今も違う名前の方が良かったのではなど考えています
少女、リティ・ヘルツは緊張した顔つきで神殿の前に立っていた、アトラス王国、まだアトラスというなの前の頃にできた神話に登場する大剣、グランディア、名も忘れ去られた強大な力を持つ魔王が封印された大剣である、子供のころから聞かされている逸話にも登場する、アトラス王国出身の勇者とその仲間たちが死力を尽くしようやく封印した魔王、勇者は犠牲として右腕を失ったとされ王国の城の前に今でも右腕が取れた勇者の像が立てられている、名前はフェア・ノーテクス・リンベル、人類最強と謳われ、いまだにその域に到達する者がいないとされる人物。
「はぁ、緊張するなぁ………」
リティが何故神殿の前にいるかというとギルドからの依頼だからである、彼女はまだ新米で一週間程前に所属したばかりの新米兵、しかも最低ランクのGからである、ギルドに入る時に面接官から知識に関するテスト、そしてのちに実践でのテストを行うのだが最高でランクBに入ることもできる、実力が上なら入った当初から上に行けるが彼女がとてつもなく弱かった、それゆえにGランクからの所属となった、背中に背負っている新品のアイアンソードの大剣も太陽の陽を浴びて光輝いている。
………ギルドに一週間所属して、使う機会が無かったという事である、今までしてきたものと言えば迷子の子供の案内、犬の散歩、薬の調合やらの誰にでもできる事、最後の薬の調合はギルドに所属している物なら必須と言っても良いだろう、そんなリティに初めて依頼らしい依頼が舞い込んできた、ハイエルフたちの森の中にある神殿の掃除をしてほしい、ハイエルフからの依頼である、ハイエルフと言えば森からは一切出ない事で知られている、エルフは人嫌いが強いとされているがハイエルフはそうでもない、ただあまり他の部族に対する関心が無いだけなのだ、3月から5月にかけてハイエルフは発情期に陥る。現在4月中旬の現在では仕事にならない、それゆえ依頼をしてきたのだろう、しかしハイエルフたちによって守られている森の中の神殿の掃除、誰も好き好んでやるものなどいない、………そのはずだった。
嬉々としてこの依頼を引き受けたリティに対し受付嬢は顔を引き攣らせながら受諾した。
「だ、大丈夫神殿の中にはスライム位いるかもしれないけど、その程度なら私にだってなんとかできる………はず」
今まで実戦経験が無い故にスライム程度にまで怯えてしまう。スライムは有り触れた魔物で苔や真水に対し魔力や長年放置されたせいで命が宿ることから生まれる魔族だが、とても弱く一般人からしたら脅威ではあるものの武装をしたギルドメンバーにすれば取るに足らない雑魚と認識されている。入りたての新米はまず勇気づけることからスライムを殺すことから始まる、そのスライムに恐怖していては勤まるものも勤まらない。
「でも魔王を封印してある聖剣グランディアかー、どういう形をしてるんだろう、見てみたいなぁ………」
そう思いながらひび割れた煉瓦から草が生い茂っているのを踏みつぶしながら前に進むリティ、所何処ろ明るい神殿の中を歩きながら物思いにふける、―――ばれないなら少し触っても良いだろうか、いや触るどころか手に持ち振るってみたい、そう想像させながら中を突き進んでいく。
神殿内を歩いていると天井から柔らかく弾力のある物体が降ってきた、手でつかみ勢いよく前の地面に投げ飛ばすが案の定一般的なスライムのようだ、水はけが悪く湿っており草が生え茂っている神殿内ならいても別段おかしな事は無く、緊張した面持ちで買ったばかりでまだ手に馴染んでいないアイアンソードを突然のアクシデントに対応しきれず震える手で構えるが心配したようにスライムが襲って来ることは無く、スライムは襲うどころか動きもせず静かに震えている。
生まれて役一日か二日と言った所か、スライムは生まれて一週間たたなければ自我をもって動くことができない、だからこの程度のものはただのぶよぶよした98%ほど水分で出来た置物と認識して無視して進んでいく、それでも怖いので胸のポケットに入れてある母親からもらった安い魔鉱石出来たお手製のペンダントを握りながらではあるが、他に道は無く一本道で扉もなくただその大剣グランディアを置くための神殿、見た目はとても大きいが中には一切の無駄がない、だからこそその大剣の重要性を意味しているのではあるが。
「グランディアを見て少ししたら掃除頑張ろうかな」
そう自分に言い聞かせながら進んでいきようやくグランディアを置いてある部屋に付く、グランディアから放たれる神々しさに目を丸くする、こんなものを振るっていた人がいた、しかも魔王と戦ってからは片腕で、フェアという故人を逸話どおりの人だと思いながらそれを間近で見つめる。
「………少しぐらい触っても良いよね?」
そう言いながら彼女はグランディアを掴もうとする、――――彼女は知るはずもない事だが、クロウベルを封印した時の鍵となるものはグランディアを頑丈に縛る光の鎖である。しかしその鎖は今は見ることができない、3000年も経過しているから当然と言えば当然なのだが、運が悪い事に消えたのは昨晩の事で、つまり、今のグランディアにクロウベルを強制的に封印する力は無く、もしグランディアの下に描かれている魔方陣からずらしたらその直後に何の意味も無くなるのだ。
そして当然の様にリティがグランディアを掴み魔法陣の枠から出すとグランディアから何重にも敷かれた六色の魔方陣が飛び出し、あたかたもなく砕け散るとグランディアから青年が白い光に囲まれながら姿を現す。
「………ふむ、ここはどこだ?」
周りを見渡すが身に覚えが無い光景、自身を封印していたグランディアを持つ少女の服装を見るに自身の生きていた時代では身に覚えのないもの、今自身が立っている場所はあまりにも自分とは似合わない神聖な力を感じる、そこで自身の足元に描かれていた魔方陣を見つける、六重に重なっていたはずの魔方陣も今は見ることはできず所何処ろに描かれていた地面に亀裂が走っており見るも無残な姿に変わり果てている。
「そこの人間、ここは何処だ? 土地の名前に国の名前を教えてくれ、後今は何年なのかも教えてもらえたら嬉しいのだが」
声を掛けられて体を震わせるリティ、魔法適性の無い自分にすら目に見えるほど高濃度の魔力を身にまとい膨大な気を感じるその姿、まさに化け物と呼ぶにふさわしいいでたち、赤く短い髪に綺麗なオレンジ色の瞳を爛々と輝かせながら聞いてくる、まるで欲しがっていた玩具をようやく手に入れたような表情で聞いてくるのだ、この瞬間に何度死を覚悟したか解らない程だ、精神的にも肉体的にもこの瞬間だけで激しく落ち詰められ呼吸が荒くなる、その姿を見てようやく化け物は納得が言ったのか軽く笑いながら発言する。
「おお、すまない魔力に気を封じるのを忘れていた、なについさきほどまで封印されていた身だ少しは許してくれ、そして重ねて謝罪しよう、私としたことが自ら名乗らずに願い事をしてしまった」
先程までの力の暴力というなの威圧が煙の様に消え去る、それで呼吸が定まりだしたときに要約気づくが無意識に呼吸が荒くなっていた、そしてこれほどの力をハイエルフたちが見逃すはずもないと思案し助けがくるまで時間稼ぎをしようとも考える、………実際にはクロウベルが封印されていた部屋は結界が三重もしてあるので力が外に漏れることはないのだがリティが知っている事ではない。
そして会話を再開させるため相手の言葉を待つ、――――もしこの時何の迷いもなく逃げ出していたらクロウベルは気に留めなかった、彼は強者に興味があり弱者には微塵もない、自身から逃げ去る者は決して追わず迫りくる者には嬉々として迎え撃つ、そんな男だ、クロウベルは目の前の少女がいかに弱いのか解っていた、まだ魔族の子の方が力を持っている、その少女が自身の暴力的な力を受けて逃げ出さずに好戦的な瞳で見つめてくる、本人に自覚は無いだろうが体は震え足は生まれたての小鹿のようになり目にはいつ涙が漏れるか解らない程潤んでいる、だがこちらの視線を逃がさない、自身の記憶にある中で対峙してきた4人の人間には見劣りするもののその力強い視線を自身に向ける事ができる精神力にクロウベルは若干ながら興味が湧いた。
「我が名はクロウベル・フレイム、嘗て最強にして最恐の魔王と恐れられた者だ、人間貴様の名を教えろ、とても光栄なことだ誇っていいぞ」
それを聞いた瞬間に絶望がリティの胸の中を支配する、自分のせいで封印が説かれたと言っても良い、いやむしろリティのせいなのだこれは、自分が安着な考えでグランディアに触らなければ説かれずに残っていただろう、そして力の差、これを覆させる人物がいるはずもないという絶望、かつて最強と謳われた勇者フェア・ノーテクス・リンベルとその仲間たちが死力を尽くして封印した相手に勝ち得る者がいない、これは絶対と言っても良い事実。
これ以上相手を待たせるわけにもいかないので思考の渦から逃れクロウベルを見る、するとクロウベルは壊れた魔方陣を直しリティの持っていたアイアンソードをいつの間にか手に持ちながら魔術を展開した、それに感じる魔力は膨大と言ってもよく魔力に干渉できない自身すらもあたたかいと思える程質の高い魔力を感じる、手に持つアイアンソードが形を変え聖剣グランディアと瓜二つの形状をし、それを封印されていた場所に突き刺し元の光景に戻していた。
「ふむ、これで問題はあるまい、後はグランディアをこの質素な大剣の形状にすれば良いが………、あまりに勿体ないな」
独り言を呟き続けるクロウベルを見て自身が相手にされていないという事に安堵すると同時に少しながら怒りがこみ上げる、確かに圧倒的な差を見せ付けられたが、だからと言って無視されて納得できるものでもない、弱気なrリティではあったが自分が招いてしまった結果なのでそれを隠し勇気を振り絞り精一杯の威勢を放つ。
「――――私の名はリティ・ヘルツ!!! 私を差し置いて何一人でブツブツ言ってるのよ!グランディアからその汚い手を離しなさいこの化け物!」
自分が驚くほどの大声で、ペラペラと口から出てきた文句を聞き心の中で泣きながら頭を抱えているリティ、何を言っているんだ私は、もっと穏便に話せばいいじゃないか、相手は魔王、それも暗黒期と恐れられた中で最強と言われた存在なんだぞ? 怒らせたら自身の命が散るだけにとどまらず世界の崩壊を招くだろう。
アイアンソードを取られたからか何も手に持つ物がないが、神殿内のひび割れている箇所から瓦礫を持ち何を思ったかクロウベルに向かい振り上げる形で構える、今この状況で自分が何をしているのか信じられないリティはそこでようやく体の暴走を止めることに成功しこちらを目を丸くしながら驚いた顔をで見るクロウベルを見据える。
「―――――クックックックックッ、ハーッハッハッハッハッハッ!!!!! き、貴様その瓦礫は何だ、まさかそのが、瓦礫で私を相手にしようというのか? グランディアを持つ私に挑むと? その瓦礫で? ハッハッハッハッハッハッ!!!」
今から地面に転がり始めるんじゃないかという勢いで腹を抱えて狂ったように笑い出すクロウベルを見て自分の顔に血液が充満するのが解る、鏡があれば真っ赤な顔を見ることができたであろう、体を恐怖からではなく羞恥から震わせ鋭い眼光でクロウベルを睨む。
「中々笑わせてくれる、貴様ら人間は本当に愉快だな、そのような愚行を行う者は初めて見る、しかも冗談じゃなく本気と来た」
笑いながらそう言い放つクロウベルは心の中では感心していた、仮定も結果も最悪という他にない行動だが目の前のリティから恐怖が消えた、自身に勝つ確率が先程まで皆無だったが今の行いだけで可能性がわずかに存在する所にまで持っていったことに感心する。
「気に入った、リティ貴様のその威勢に免じて今しばらく貴様に従ってやる」
一瞬クロウベルが何を言ったのか理解できずに顔から締りが消える、年相応の顔に戻ったがそれから大粒の水滴を目から零しながら泣きだし床に座り込むリティを見てますます興味が湧くクロウベル、本当に何の策略も勝機もなくあれほどの愚行を行ったと思い再び笑いがこみあげてくる、生まれながら膨大な才能に力を持っているがゆえに幼い時から多くの者に襲われた、魔王の息子というのが最もでかいからだろうか、しかしどんなものも油断はしていなかった、無手で挑んで来るものは自身の武術に絶対の自信を持ち、魔術で挑むものは自身の術式に絶対の自信を持っていた、その全てを取るに足らないと考えながら踏みつぶしてきた、雑魚に興味はないと、そう思いながら。
だが目の前の人間の少女は違う、雑魚ではあるがそこら辺にたむろしている雑魚とはどこかが違う、ただの大馬鹿かはたまた大物か、出なければクロウベルを相手にここまで常識から逸脱した行動はとれないだろう、様々な奇跡が巡ってリティは助かったが、運も実力のうちだと考えるクロウベルはそれで良しとはしない。
「ただしこのまま封印はされんぞ私は、今の世に興味が湧いた、どれ程の強者がいるのか、どれ程までに世界が変化したのか、文明はどうなったか、私にはとても興味がある」
「そ、そんな、話が違う………」
さっきまでの威勢は何処に行ったのか元の気弱な性格に戻ったリティを笑いながら見つめるクロウベル。
「そこでだ、私はグランディアの中に戻る、そして貴様は私にグランディアを通して世界を見せてくれ」
今度も思考停止になるリティ、一体何を言っているのか理解したと同時に年相応な様子で慌てだし落ち着きが消える、そんなリティの百面相を楽しそうに見つめるクロウベル。
「ふむ、利益が無いのが不満か? 貴様が絶体絶命の状況に陥った時は助けてやっても良いぞ?」
それは正に悪魔の誘惑、これ以上ない強者が自分を守ってくれるという事実、恐らくだが目の前の男はくだらない嘘をつくような人物ではない、魔王と言われていた身ではあるがそう感じる、何より嘘をつくメリットが無い、だが、だがだ、魔族の手を借りて良いのか?自分はギルドに所属しており、協会まで徹底していないが魔物を殺すことを生業にしていると言ってもおかしくはない、そんな自分が魔族の手を借りて良いのか? だが未だ目の前にこちらの答えを待ち望んでいるクロウベルを放っておく方が問題だとも言えることは間違いない、ならば自分にどこまでできるかわからないがいっその事目の届く範囲に置いておいた方がまだ幾分かマシではある。そう判断するとクロウベルを睨みながら質問する。
「い、良いですよそれで…でも聞きたいことがあります、何でそんな事を? 私を脅し、または殺してしまえば貴方はそんな面倒なことせずに自由な身のはずです」
そう聞くと楽しそうに笑いながらこちらを見てくる、対面してそう時間が経っていないがよく笑う魔族だ。
「先程も言ったが私は貴様を気に入ったからな、それと私をそこらの恥知らずと一緒にしてもらっては困るな、何にあれ貴様が私を封印から救ったのは事実だ、その恩には報おう。」
ただただ笑いながらそう言い放つクロウベルに対し無言で返すしかないリティだった。
読んでくれてる人が増えすぎてビビってます………こんな駄文をよく読んでくれて嬉しいと思うのと同時にこれから精進しようとも思っています