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第8話―ん~、destiny―

『ナンバーから所有者の住所は調べられるが……それを知ってどうする気だ?』

「ちょっと個人的なことなんだ」

 小見はスマホを耳に押しあて、電話の相手には見えないと思いつつも愛想笑いを浮かべた。

 市街地で白昼起きた事件から、数日後。

 小見は木下が駆る隼のナンバーをしっかり記憶しており、それを同級生で県警に勤務する友人に伝え、調査を依頼していた。

「調べてやってもいいが、どういう趣旨なのかハッキリ教えろよ。それがきっかけで事件に巻き込まれでもしたら、俺の責任になるからな」

 通話先、県警本部の廊下で壁に背中を預ける小見の同級生は、刈り上げた頭を無造作に撫でると表情を硬くした。歳の割に老けて見えるのは、でっぷりとした体型のせいだろう。

「ちゃんと説明するから、今日中に調べてもらえる?」

「おう。じゃあ昼飯な。チャーシュー麺大盛りとカツ丼。そん時に教えたる」

「おやすいごよう~」

 小見の声は弾んでいた。



「……本当にここなんだよね?」

 県警本部の友人と昼食を済ませ、バイクのナンバーから割り出してもらった所有者の住所へ単身赴いた小見。スクーターから下りると、目の前にそびえる巨大な建物を見上げながら呟いた。

 三国重工本社。

 商社ビルが林立するオフィス街の中心、その中にあって一際高く威容を放つその建物は、世界有数の複合企業として知られていた。

 小見自身も、自宅の家電は三国製を幾つか使っている。 

「どういうこと?この中で暮らしてるの?」

 首を傾げながらも歩道にスクーターを停め、自動ドアの前に佇む守衛に愛想笑いを浮かべながらエントランスへ入った。

 大理石が惜しげもなく敷かれた広大なフロア。高い天井に設置された照明の灯りが、磨きこまれた床に反射して輝き、世話しなく往来する社員の顔を照らし出していた。

「すいません、こちらに木下大河さんって方いらっしゃいますか?」

 エントランス中央、エスカレーター脇。白のスーツにグリーンのスカーフを巻いた育ちの良さそうな受付嬢に訪ねた。

「木下大河ですね?少々お待ち下さい」

 手元の情報端末、キーボードを軽快に叩くと検索をかけ始める。

「……申し訳ありません。弊社には木下大河という社員はおりません」

 目元に悲壮感を漂わせながらも、対照的に白い歯を見せる受付嬢の顔を見つめ、口を(つぐ)む小見。

「そうですか。分かりました」 

 いないと言う以上、更に追及するのもどうかと思い、潔く踵を返す。

「あっ!」

 その視線の先、行き交う社員の中に見覚えのある顔があった。

「ヒモ男!」

「はい?」

 白衣姿の風采の上がらない中年男性と肩を並べ、自動ドアから入って来たのは紛れも無い木下だった。勿論、隣にいるのは三国。

 突然若い女にヒモ男呼ばわりされて目を丸くする木下だったが、ほんの数秒後には目の前の女をどこで見たか思い出していた。

「あぁ、この前スクーターに乗ってた」

 邪気の無い笑顔を浮かべる。

 木下が生来から持ち合わせている天真爛漫な性格が表情に表れていた。

「あなたに聞きたいことが沢山あるの、ちょっと時間いい?」

「それってデート?」

「はぁっ?」

 木下がさらりと発した言葉に怪訝な表情を浮かべる小見だったが、グラスにワインを注ぐように、徐々に赤面し始める。

 先日目撃した木下のケツを思い出していた。

「木下君、誰?」

 三国が眼鏡に指をやり、小見の体を上から下まで舐め回すかのように視線を送る。

「あぁ、この前のゲームセンターの時にいた子」

 あっけらかんとした木下の言葉に、三国は表情を険しくさせた。

 (ゲート)や謎の敵、そして強化装甲服の存在は、極力一般人には知られたくない。

 なんせ姿を消したとはいえ、自社に関係が深い人間が引き起こした可能性の高い事件ゆえに、世間に知られる事となれば、会社のイメージダウンどころか強制捜査に発展しかねない。

「どなたか存じ上げませんが、木下はこれから仕事がありますので失礼します。さっ、行こう」 

 二人の間に割って入ると、三国は木下の手首を掴みエレベーターへと向かう。

「えっ、ちょっと」

 狼狽する小見を尻目に、空いたほうの手を振る木下は相変わらず笑顔だった。



「可愛い子だったね」

 エレベーターの中で両手をポケットに突っ込み、微笑みながら三国を見つめる木下。

「木下君!どういう知り合いかは分からないけど、安易に我々がやってる事を口外しちゃ駄目だよ!」

 柄にも無く声を荒げる三国だったが、『可愛い』と言う木下の表現には、内心同意していた。

「あの子、多分記者だよ」

「えっ?」

「首から提げてたプレートに、それっぽいこと書いてあったし」

「へっ?……」

 彼女の顔や体のラインは注視していた三国だったが、不覚にもそこには目が行かなかった。

「なんで記者が?」

「ん~、destiny(デスティニィー)~」

 三国の気など知らない様子で、陽気に答える木下だった。

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