第40話―電撃的ライトニング―
アスファルト上に深々とラインを刻みながら、圧倒的速度で迫り来る攻撃。
いかに強化装甲服が木下に超人的能力を授けているとはいえ、回避は不可能だった。
再び盾を前面に押し出し、その場で膝をつく。
コンマ数秒。
盾の中心へ十文字に加わる衝撃。
「ぐっ!」
裂かれたアスファルトが木下の体を境にして、左右から上空へ向け盛大にめくり上がっていく。背中のバッテリーから盾へ電力が供給され、再び電磁装甲が発動した。
『木下君!もう一度喰らったら盾がもたないぞ!』
電撃が弾け、舞い上がったアスファルトの破片を突き抜けながら、さらに細かく粉砕していく。
研究所のモニターに表示される盾の耐久力数値が、ゲージの半分以下まで急激に下降していた。それとは対称的に、画面を凝視する三国の心拍数を上昇させる。
『これは!?』
木下のヘルメットに仕込まれたカメラが記録した映像。映し出された画面を確認した三国は言葉を失う。
鎧武者が刀を抜き放った瞬間。刀身から激しい電光が煌めいて見えた。
『電撃?そんな……あの鞘に刀身を収めて、強烈な電撃を帯電させて撃ち出していたのか』
刀身から放たれた電撃と、盾から放たれた電撃。
防戦一方の木下には分が悪い。
二度に渡る鎧武者の攻撃は、確実に木下を追い込んでいく。
想像を絶する電撃による攻撃は、盾で防いでいるにも関わらず、耐熱、絶縁処理されたスーツの表面を焦がし、溶融させた。
鎧武者による二度目の“居合い”攻撃は、木下の体を更に後方へ弾き飛ばす。
「ってて」
道場は街の中心部から遠く離れた僻地にあった。
敷地の外には一面田んぼが広がり、人家は遠目にほんの数軒灯りを見受けられる程度。
次第に強くなる雨足が、周囲の景色を霞ませていく。
アスファルトから農道の畦道へ、転がりながら体を叩きつけられる木下。耳元で聞こえた三国の声で、敵の攻撃、その正体を知った。
「道理で攻撃が見えない訳だね。居合いの電撃なんて」
相変わらず呑気な台詞を吐く。
(前に戦った魔法使い。あいつの放った電撃は遠距離からだったし、発動させるまでの動作も緩慢だったから避けたり反応出来た。でも鎧武者の居合い抜きはとてつもなく速い。原理はわからないけど、ジグザグの放電じゃなくて真っ直ぐ正確に襲ってくる──どうする?)
ぬかるんだ土の上から体を起こし、周囲を見渡す。
鎧武者の姿がない。
「消えた?」
道場と田んぼを隔てたアスファルト上には、砕けた土塀の残骸が散乱しているのみ。
雨足は更に激しさを増し、騒々しい音を立てながら路面を叩き始めた。
「うっ!」
突如として木下の後方、田んぼの泥が不自然に隆起していく。
降り注ぐ雨を浴びながら、鎧武者が姿を現した。
木下との距離、およそ5メートル。
完全に虚を衝かれ、背後をとられた。
(あっちゃー)
首を返しながら、木下は胸中で驚嘆の声を漏らす。
泥水を撒き散らしながら、鎧武者は左右の腰に提げた大小の太刀、その柄へ手を伸ばした。
『き、木下君逃げろ!』
悲鳴に近い三国の声。
鎧武者が必殺の居合い抜きを放つのは容易に想像出来た。
一瞬でも速く回避行動を取らなければ、直撃は免れない。
だが、木下の行動は逆だった。
「はぁっ!!」
気合いと共に、ぬかるんだ畦道を蹴り飛ばし跳躍する。その動きに微塵の迷いも無い。
体を真横に寝かせながら、空中へ全身を躍動させていく。
「うおぉっ!」
開いた脚の突き出された方向。
木下の踵が、鎧武者が握る左右の刀の柄へ叩き込まれた。
抜きかけた刀身が鞘へ押し戻され、溢れ出した電撃が内部で暴れ出す。
電光が目映く輝き、雨中の闇夜に煌々と照らし出されていく互いの姿。
両手を封じられた鎧武者は、思考が停止したのか微動だに出来ない。
その頭上。
開いた両脚はそのままに、木下は左腕を掲げ渾身の力を込めて叩きつけた。斜めに打ち下ろされたのは盾。本来ならば防御のための装備だった。
しかし、殴打の衝撃で電磁装甲が発動する。
鎧武者の頭部を中心に強烈な電撃が発生し、周囲に降りしきる雨を伝う。
全身を覆う真紅の甲冑は、田んぼの泥水と雨に濡れ、電流を余すことなく伝導させていく。
のたうちまわりながら五体を痙攣させ、田んぼの中へその身を崩した。
青紫の放電は一瞬で収束し、1000万ボルトの強烈な電撃によって感電した全身から、もうもうとした黒煙を立ち昇らす。
「あららー、ドリフのコントみたくなっちゃったね」
攻撃の直後、後方へ跳躍しながら微笑む木下。アスファルト上に着地すると、キョロキョロと周囲を見渡した。
その背後では、田んぼの中に消えた鎧武者が形を崩しながら塵になっていく。
「あったあった」
先ほど自らがぶち破り破壊した土塀の残骸から、静かに和泉守兼定を掴み取ると、斜めに振り下ろす。
糊のごとくまとわりつく水滴が弾かれた。
しかし、降りしきる強い雨が再び刀身を濡らしていく。
雨は、強くなる一方だ。




