表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

ラストクレジット

作者: エプラパー
掲載日:2026/04/30

映画やドラマが終わる時、私たちは必ず一つのものを目にします。画面の下から上へと流れていく、無数の名前。スタッフロール、あるいは『クレジット』と呼ばれるものです。そこには、その作品に関わったすべての人々の名が刻まれています。主役から、照明の助手、イラストレーターなど……。

では、もしも。あなたの『人生』という名の作品にも、エンディングが用意されているとしたら? そして、そのクレジットが流れ始めた時、物語は本当に完結するのでしょうか……

高木正雄の人生は、一言で言えば「下書き」のようなものだった。

地味な商社で定年まで波風立てずに勤め上げ、数年前に妻の和代に先立たれてからは、話し相手といえばテレビの中のコメンテーターくらい。大きな不幸はないが、特筆すべき幸福もない。


「俺の人生、なんだったのかな……」


深夜、独り言が冷えたワンルームに落ちる。その時だった。

古びた砂壁の裾から、ぼんやりとした白い光が這い上がってきた。


『小学校1年時・隣の席 河村智子』

『自転車を直してくれた近所のおじさん 田中吾郎』


「……なんだ、これ」


正雄は目を擦った。壁を、文字が下から上へと静かに流れていく。それは映画の終盤に流れるエンドロールそのものだった。


名前が流れるたび、セピア色に褪せていた記憶が、4K映像のような鮮明さで脳裏に再生される。

河村さんに消しゴムを借りた時のゴムの匂い。田中のおじさんの油まみれの手の温もり。

正雄は気づいた。地味だと思っていた自分の人生という映画に、これほど多くのキャストが関わっていたのだということに。


二日目の夜。クレジットは中盤に差し掛かる。

『最愛の妻 高木和代』

その名前を見た瞬間、正雄の視界は涙で歪んだ。和代と過ごした30年間が、走馬灯のように駆け巡る。

「和代、俺もすぐに行くよ。もうすぐ終わるみたいだ」


三日目の深夜。文字の流れる速度が上がった。

『かかりつけの医師 佐藤栄一』

『最後に言葉を交わしたレジ担当 伊藤健』

正雄は姿勢を正し、ベッドの上で深く息を吐いた。いよいよだ。最後に自分の名前が出て、画面が暗転した時、すべてが終わる。


『主演 高木正雄』


その文字がゆっくりと天井へ消えていった。

正雄は満足げに目を閉じた。静かな幕引きだ。映画館を出る時のような、寂しさと清々しさが混ざり合った、完璧なエンディング。


だが。

数分経っても、意識は消えなかった。

おかしいと思い、薄目を開ける。

そこには、漆黒の闇の中に、不気味なほど鮮やかな「赤」で、一文だけが踊っていた。


『特報:シーズン2 制作決定! ――今夜、公開』


「え……?」


正雄が呆然とした瞬間、耳をつんざくようなオーケストラの爆音が鳴り響いた。

重力が反転し、猛烈な勢いで奈落へと吸い込まれていく感覚。


「……おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」


眩しい照明の下、誰かの叫び声が聞こえる。

正雄は文句を言おうとした。「せっかく綺麗に終わったのに、続編なんて蛇足だ!」と。

しかし、口から出たのは――。


「オギャア! オギャア!」


火がついたような赤ん坊の泣き声だった。

正雄の視界に、自分を覗き込む「新しい両親」の顔が映る。

二人の頭上には、テロップが表示されていた。


『新シリーズ・キャスト:父 一ノ瀬誠』

『新シリーズ・キャスト:母 一ノ瀬里奈』


正雄――いや、一ノ瀬家の長男となった彼は、絶望と好奇心が混ざった産声を上げ続けた。

名作には必ずといっていいほど続編が作られるものです。

しかし、それが前作を超える傑作になるのか、それとも見るに堪えない駄作になるのか……。それは、新しい脚本を手にする、あなた次第なのかもしれません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ