言い過ぎた夜に、まだ帰れる気がした
掲載日:2026/04/04
山裾から海まで広がる夜景は、今日の自分のことなど知らずに輝いている。
自分が惨めに感じた時は、いつもここに来る。
「何で、あんなこと言っちまったんだ……」
展望台のベンチに座り、ポケットからタバコを取り出して火をつける。
火がわずかに揺れた。
吐き出した煙が、眼下の夜景を一瞬隠し、そのまま冷えた空へ溶けていく。
今までにも何度もあった。
それでも今回は、ダメな気がした。
「思ってもいないことを口にしたな……」
——いや、それは違う。
首を振る。
駅が見える。
今日もそれぞれの場所へ帰っていく人たちが、やけに遠く感じた。
深く息を吐く。
煙が、さっきよりも雑に揺れた。
胸ポケットのスマホが震える。
薄暗い中で、画面が淡く光る。
「さっきはごめん」
それだけだった。
(俺も言い過ぎた。ごめん)
打ちかけて、指を止める。
(言葉で傷つけたのなら、言葉で謝ろう)
タバコを見る。
まだ少し残っている。
ほんの一瞬だけ迷ってから、それを消した。
まだ帰れるかもしれない場所へ、歩き出す。
夜景は変わらず、何も知らないまま輝いていた。




