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猫と三日月のゆるふわ事件簿  作者: 藤烏あや@『死に戻り公女は繰り返す世界を終わらせたい』発売中


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プロローグ

「待って……!!」


 黒猫に向かって声をあげた少女――三日月(みかづき)柚子(ゆず)は全速疾走をしていた。

 矢絣(やがすり)柄の着物が乱れることも厭わず、脇目も振らずに草木を掻き分ける。

 高く上った太陽が水たまりを輝かせているのを視界に入れ、柚子は飛び跳ねて避けた。

 また走り出そうとするが、藍色の袖が木の枝に引っかかってしまう。

 一瞬のロス。

 その隙は逃げる黒猫にとって十分な間であった。

 するりと黒猫が生い茂る草の中へと入って行く。


(逃げるのが上手いって本当ね……!)


 視界から上手く隠れてしまった黒猫に舌打ちをしたい気分だ。

 目を凝らし、顔を出すであろう場所を予測する。


(そう簡単に逃がさないんだから)


 身を低くして足を進める。

 わざと音を立てながら追えば、黒猫は予想した場所からひょこりと姿を現した。

 後ろに迫る柚子を振り返り、ぎょっと金の目を見開いた黒猫は光が差す方へと逃げていく。

 柚子はかかったと口角をつり上げた。

 いきなり光の強い場所へ出てしまったからだろう。黒猫が一瞬硬直する。

 その隙を見逃さず、柚子は手を伸ばした。


「捕まえた! ……へ?」


 両腕で抱きしめたはずの黒猫がいない。

 そして――突如、浮遊感が柚子を襲う。

 ようやく明るさに慣れた目が捉えたのは、荘厳な帝都の町並みだ。


「ひゃああ!!!?」


 来るであろう痛みに耐えるため、ぎゅっと目を閉じる。

 しかし、一向に覚悟していた衝撃がこなかった。

 頭を守るように丸まっていた柚子は、恐る恐る目を開ける。

 生きていることに目を瞬かせていれば、上から声が降ってきた。


「大丈夫かい?」


 低すぎず、耳心地がいい男性の声だ。やけに色っぽくて、背筋がぞくぞくしてしまう。

 驚きのまま顔を上げ、柚子は固まってしまった。

 金色の双眸と視線が絡む。月のように静謐(せいひつ)で、だがどこか危うげな輝きを瞬かせる瞳。

 横抱きにした柚子をのぞきこむ仕草は優しげで、陽光を弾いて艶めく銀髪が美術品のような輪郭をなぞる。

 誰もが目を奪われる容姿に、柚子は呼吸も忘れて見惚れていた。

 薄い唇がゆっくりと弧を描く。


「えーっと、大丈夫、かな?」

「へ、平気です」

「よかった」


 同じ問いを投げかけられ、柚子は我に返った。

 慌てて頷けば安心したような言葉が紡がれ、そっと降ろされる。

 地面を踏みしめ、柚子はほっと息を吐いた。

 大きく脈打っていた心の臓が、穏やかになっていく。

 観察するように眺めていた青年に、柚子は頭を深々と下げる。


「助けていただき、ありがとうございました」

「うん。今度からは気をつけるんだよ。あんなところから落ちたら死んでしまうからね」


 指を差された方を見上げれば、5.5間(10メートル)ほどの崖がそびえ立っていた。

 そこでは青々と枝を伸ばした木々が風に揺られている。

 柚子の顔から血の気が引いていく。

 たまたま彼が通りかからなければ、柚子は間違いなく三途の川を渡っていただろう。

 今になって恐怖がこみ上がってきて、膝を震わせる。


「ほ、本当にありがとうございました! なにかお礼を……って、あれ?」


 柚子が振り返ると、そこにはもう誰もいなかった。

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