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召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?  作者: 浅海 景


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20/22

神官長との面談

その日、瑛莉は初めてシクサール王国の神殿を訪れていた。

荘厳という言葉が良く似合う外観はギリシャなどで見られる神殿に似ていて、高い天井と円柱の柱は奥行きと開放感があり、随所に彫られたレリーフは美しく見惚れてしまいそうなほどだ。


(お金かかってるんだろうな)


芸術的な建造物を前に瑛莉がそう思ってしまうのは、出迎えたダミアーノの恰好を見てしまったからかもしれない。

清らかさを示す白いカソックの上には複雑な衣裳を散りばめた黄金色のローブなようなものを羽織っており、その首元や指を飾る眩い宝石の数々は貴金属に詳しくない瑛莉にも高価な物だと分かる。


「本日はお越しいただきありがとうございます。聖女様におかれましては、お元気そうで何よりですな」

「こちらこそお忙しい神官長様のお時間を割いていただき、ありがとうございます」


表面上は和やかに挨拶を終えて貴賓室に案内される。今日は聖女としてのこれからかについてダミアーノと話し合うために神殿に足を運んでいた。


王家と神殿は協力体制にあるが完全に良好とはいえず、権力や利益を巡っての攻防が繰り広げられているらしい。聖女の所属は神殿であるものの、指揮系統自体は王家が有するなど建前上は王家を優遇していることになる。

だが聖女の教育や身の回りの世話などは基本的に神殿が行うことになっており、それを王太子の婚約者とすることで王家が身柄を引き取り、聖女の意向が神殿側に傾きにくいようにとバランスを取った形になったそうだ。


あくまでも周囲の話や神殿と王家の立ち位置などから瑛莉が察した裏事情だが、概ね間違いないだろう。

そう実感したのは第一騎士団副団長であるオスカーとダミアーノの一幕を見てからだった。


「護衛の方はこちらでお待ちください」


ダミアーノの言葉にオスカーがあからさまに不機嫌な表情に変わる。


「私の仕事は聖女様をお護りすることです。常に傍にいなければならないことはご理解いただけますでしょうか?」

「もちろん、騎士様のお仕事は存じ上げておりますが、こちらの貴賓室は中庭側には神殿の護衛がおりますし、この扉以外に出入りすることができません。聖女様の安全は保障いたしますので、どうぞご安心ください」


ダミアーノは穏やかにオスカーの同席を認めない発言をすれば、オスカーはなおも食い下がった。


「それはそちらの見解にすぎません。この方は王太子殿下の婚約者様でもあるのですから、万が一があっては困ります。それとも何か私が随行できない理由でもおありなのでしょうか?」


丁寧な口調だが、オスカーは疑念をともした眼差しを隠そうともしない。


「第一騎士副団長殿のご懸念もごもっともですが、聖女様以外にはお伝え出来ない口伝がございます。大変心苦しくはありますが、代々語り継がれたものを我々の代で破ってしまうことは神に対しても顔向けができない所業となりますので、ご容赦いただけますかな」


侯爵令息のオスカーよりも神官長であるダミアーノのほうが地位も身分も高い。それでも丁重に礼を尽くしたと周囲に見せたため、オスカーもダミアーノの要求を受け入れざるを得ない。ダミアーノが老獪というよりもオスカーの傲慢さや稚拙さの部分が大きいのだろう。


(この分だと帰りの馬車の中でもうるさいんだろうな)


神殿に向かう場所の中でもオスカーは攻撃的な態度を隠さず、瑛莉に苦言を呈したのだ。ジャンかディルクが同行してくれれば良かったのだが、公式な訪問を理由に第一騎士団の騎士であるオスカーが護衛に付くことになった。

瑛莉としても想定外だったが、それはオスカーも同様だったのだろう。



「……大したものですね。ああやって気を惹くのが貴女のやり方ですか?」


馬車が出発し開口一番に告げられた言葉に、瑛莉は首を傾げた。何の話をしているのだと考えようとして無意識に出た仕草だったが、それが裏目に出たらしい。

さらに険のある表情になったオスカーは嘆息交じりに言葉を続ける。


「ヴィクトール王太子殿下からプレゼントを贈られたというのにお気に召さないご様子だったではないですか。まだ正式な婚約者ない貴女の立場からすれば、過ぎたものです。あのように残念そうな態度を見せられれば、殿下も気にされることでしょう」


(いや、でも青系の宝石が似合わないって言ったのはあいつのほうだろう……)


婚約者の瞳や髪色に合わせた宝飾品を贈ることは、互いに親密な関係であると知らしめる意味があると貴族教育の中で学んでいた。だからこそ外出前にヴィクトールから渡された、小ぶりだが鮮やかなサファイアを使ったネックレスに困惑したのだ。

失くしたら弁償かなという考えがよぎったぐらいで、断じて残念に思ったわけではない。


「いえ、以前似合わないと言われた宝石の色でしたから、意外に思っただけですわ」


無駄だろうなと思いつつ瑛莉がそう伝えれば、案の定オスカーは面白くなさそうに鼻を鳴らした。


「ヴィクトール王太子殿下は優秀で穏やかな性格な方ですが、女性に対して優し過ぎる一面があります。心得違いをなさいませんよう、ご承知おきください」

「わざわざご忠告痛み入りますわ」


面倒な会話を打ち切るため否定もせずに受け流せば、それはそれで不愉快らしくオスカーはむっとした表情を浮かべる。早々に相手にしないことに決めた瑛莉は、神殿につくまで目を閉じてやり過ごすことにしたのだった。



「聖女認定以来でご無沙汰してしまいました。王宮では何かご不便などございませんでしょうか?」


ソファーに座りお茶が出されると、口火を切ったのはダミアーノだった。オスカーを遠ざけたのは瑛莉の扱いについて把握するためだったようだ。


(エルヴィーラからある程度報告を受けているはずだけど……)


ジャンからは神殿を利用することを示唆されていたが、ダミアーノを相手にするならばそれなりの対価が必要だという気がした。


「ええ、問題ございませんわ。ご心配おかけして申し訳ございません」


待遇については改善されたため、一旦これは保留にしてよいだろう。それよりも今後神殿が自分に対して何を求めてくるのか、そちらのほうに興味があった。


「それは何よりでございます。王太子殿下も聖女様を気に掛けていらっしゃるようで安心いたしました」


ダミアーノの視線が一瞬探るように胸元のネックレスに移ったが、すぐに穏やかな表情で瑛莉に顔を向けた。


「――早速ではありますが、本題に入るとしましょう。本日お呼び立てしたのは聖女様のお力に関することでございます」



(ここまで強欲だといっそ見事なぐらいだ)


ダミアーノが提案したのは、聖女による救済と称した治癒行為だ。魔王は既に復活しているものの、脅威と呼ぶほどには至っておらず、瑛莉の力もまだ魔王討伐には弱いらしい。


そこで瑛莉の力を強化することを目的に、浄化よりも難易度が高い治癒を神殿で執り行うことで国民への貢献と求心力、さらには瑛莉の能力向上にも繋がると一見良いこと尽くめだと思える。

だが救済には寄付金が必要となり、奇しくもジャンが言った通りその希少性から治癒を受けるにはかなりの金額を負担しなければならない。


(そうなると財力に余裕がある高位貴族や金持ち連中の治癒しか出来ない。そして彼らの治癒を行うことで、神殿は金銭を得ながら彼らとの繋がりを強化することができる)


金儲けが悪いとは言わないが、大事なのは治癒を行う瑛莉本人にそのお金が入ってこないことだ。聖女は神の思し召しによりその力を授かったのだから、無私と慈愛の心を持ってその力を使うことが求められる。

明らかに神殿側に有利な内容なのだが、そう伝えられていると言われれば瑛莉にも反論が出来ない。この国というより世界全体は一柱の神を信仰しており、皆が敬虔とは言わないがそれなりの影響力を持っているのだ。


(宗教と政治について否定的な発言をすることは、戦争に繋がりかねないから注意するよう「先生」が言っていた)


自分の力を使うのにお金を稼げないなんて理不尽だが、仕方がない。ただ瑛莉も唯々諾々と従うつもりはなかった。


「ダミアーノ神官長、治癒を行う上でお願いしたいことがあるのですが……」

「どのようなことですかな?私どももなるべく聖女様のご希望に添えるよう尽力したいと思っております」


にこにこと寛容さを示すダミアーノに、瑛莉は目を伏せて躊躇いながら告げた。


「お恥ずかしいことですが、私はまだまだ未熟で少し自信がないのです。ですからあまり身分の高い方だと癒せなかった時のことを考えると不安で――。もし、可能なら……その、練習台になってくださるような方々がいればと……思ってしまうんです」


「ふむ、力が安定しなければ結果にムラが出てしまう可能性もあり得ますな」


瑛莉に同調するように悩んだ様子を見せるダミアーノだが、頭の中では算盤を弾いているに違いない。治癒効果が低ければ聖女の――ひいては神殿の権威を貶めかねないのだ。


「聖女様のご懸念、理解いたしました。神殿が運営している救護院がございますので、手配いたしましょう」


どのみち神殿の評価に繋がるので多少思うところはあるが、どうせなら金銭的余裕がない人たちを癒すほうが気分は良いだろう。


王宮で飲むのと遜色のない紅茶を頂き、瑛莉はダミアーノとの面談を終えたのだった。

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