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召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?  作者: 浅海 景


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矛盾

声を掛けられる前からジャンがずっと物言いたげな視線を向けていることに気づいていた。何の話か見当が付いていたからこそ触れずにいたが、ジャンとしてもそれを察していながらも言わずにはいられないのだろう。


「……今日はもう(しま)いだ。帰っていいぞ」

「どうしてあんなやり方を選んだんですか?副隊長ならもっと他の手段を取ることも出来たはずでしょう?……少なくともあんなだまし討ちみたいな真似をして彼女を傷付けなくても良かったはずです」

「必要なことだったからだ」


そう口にして本当にそうだっただろうかと自問する声が頭をよぎる。


「……わざわざプレゼントを渡したことも?」


らしくないことをしたとは自分でも思っている。下準備のため別行動した際にふと目に付いた髪留めを見て彼女の髪に映えるだろうなと思った。ただそれだけなのに店主に勧められるままに買ってしまったのだ。


エリーが色々な柵から抜け出すために逃亡しようとしていることを理解していたから、一人にすれば行動を起こすだろうと踏んで、誘導したのは自分だ。

それなのにあのタイミングで髪留めを渡したのは、どこかで彼女が留まってくれることを願ってしまったからなのだろう。


ジャンの問いかけに無言を通せば、答えるつもりがないことは伝わったようで、ジャンは嘆息して去っていった。


(矛盾してることぐらい分かってるさ)


エリーは頭の回転が速く判断力もある。普段は猫を被っているが、負けず嫌いな上に気性も激しい面もあったり、好奇心旺盛なところや柔軟な考え方など見ていて飽きない。

清廉潔白な性格ではないが、間違ったことや不正を嫌う高潔さや善良さを感じ取ったからこそ、フリッツに白羽の矢を立てたのだ。


隠していた力を暴くための茶番だとエリーに悟られないように誤魔化すことは可能だった。だが罪悪感と後悔を浮かべたエリーを目にした瞬間、そんな考えは頭から消えた。

彼女だけにそんな重い感情を背負わせたくない、そう思ったのだ。自分で罠にかけておきながら何をやっているんだと呆れながらも、あんな顔をさせるぐらいなら嫌われたほうがましだ。


「本当に何やってんだか……」


部屋に戻った後も気づけば自問自答を繰り返している自分に苦笑して、とっておきの酒を手に取る。こんな状態で飲むのが勿体ないが、それぐらいしないとこの悪循環な思考が止まりそうにない。

封を開けたところでドンドンと扉を乱暴に叩く音が聞こえた。


「うるせえな、誰だよ?!」


小声で毒づいたが、すぐに誰だか思い至って溜息を吐く。こんな訪れ方をするのはあの人しかいない。


「よう、邪魔するぞ」


了承を待たずに部屋に入ってくるサミュエルを止めることなど出来ない。


「何の用ですか、団長」


穏やかに告げようとしたのに刺々しさが混じり、切り替えられていない自分に苛立つ。


「ははっ、随分機嫌が悪いな?お、いい酒だな」


まだ一口も飲んでいないのに、サミュエルはさっさと杯に酒を注ぐと一気に呷る。


「俺の分も残しておいてくださいよ。で、酔っぱらう前に用件を教えてください」

「本当機嫌が悪いな。せっかく可愛い息子の顔を見に来たのに」


サミュエルは大事な恩人だ。貧しい家庭に生まれ、生活のために犯罪まがいのことを繰り返していた自分に武芸の才能を見出し、士官学校に入学させてくれたことからディルクの人生は大きく変わった。


養子の話も度々出ていたが、立派な嫡男がいる伯爵家に自分のような人間は相応しくないとこればかり断ったものの、事あるごとに息子扱いされる。魔物討伐の褒章で爵位を授かった時にも我が事のように喜んでくれた。嬉しくないわけではないが、今回のように触れられたくないことにも遠慮なく踏み込んでくるのがサミュエルだ。


「で、お前にそんな表情させるのはどんな女性なんだ?」


わざわざ自室に来るぐらいなんだから、何があったのか知っているはずなのにそんな質問をしてくるのだ。本人は揶揄っているだけで悪意はないぶん質が悪い。


「警戒心の強い野良猫ですよ」

「ふははははっ!聖女を野良猫扱いするか!なるほどなあ、そりゃお前と相性が良さそうだ」

「は?何言ってんですか」


敢えて名前を出さなかったのに、この会話を誰かに聞かれればお互い不敬罪で処罰されるに違いない。だがディルクはその後の言葉のほうに引っかかりを覚えた。


「昔のお前もそんな感じだったし、似た者同士で理解できる部分も多いだろう。ディルク、お前は何だかんだ情が厚いしほっとけない性分だ」


サミュエルの口調が僅かに変わり、自然と背筋が伸びる。


「こちらの都合で召喚された聖女は哀れだと思う。だがどうしようもないことは誰にでも起こり得ることだ。心を動かすなとは言わんが、線引きは間違えるな」


静かに諭すような声は諫めるというよりディルクを心配してのことだろう。仕える主君の婚約者に懸想しても傷つくだけだと。だがサミュエルは肝心な部分を勘違いしている。


「子供に興味はないですよ。俺はもっと色気のあるミステリアスな女性が好みです」

「ほう、余計な勘繰りだったか。なら年寄りの戯言として忘れてくれ」


まだ現役バリバリのくせに、と溜息をついて二つの杯に酒を注ぐ。

芳醇な香りと味わいの中に微かに苦みを感じるのは、まだ消化できていない自分の感情のせいだろう。


(エリーに想いを寄せるなんてあり得ない。――俺はきっといつか彼女を殺さなければならないのだから)

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