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◆書籍化進行中◆【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第三章

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81 初野営

目的地付近に到着したころには、すっかり夕方になっていた。

『てめえと歩いたら日が暮れる』なんて朝方ぶつくさ言われていたことが、本当になってしまった。

だけど幽霊茸は夜行性なので、都合がいいと言えばいいよね!

歩き通しの上にスライムとの戦闘(?)も経て、僕は結構へとへとになっているけれど、そんなことは微塵も気付かれないよう背筋を伸ばして歩いている。


「ねえ、そろそろ野営の準備をしないの?」

「あっちだ」


……何が? 噛み合わない会話にしばし首を傾げ、野営の場所かなと見当をつける。そうか、野営するにも適した場所があるんだろう。

とはいえ、この辺り一帯は僕の背丈に近い草が生えていて、僕の視界は非常に悪い。テントを張るには草抜きから始めなきゃいけないかも。

溜め息を吐いて足を止めた時、微かな音が聞こえた。


「あれ? これ……水の音? 川かな?」

「るっ!」


高く飛んだグリポンがディアンの代わりに返事して、頭の上に戻って来た。

近くにあるんだね。

そう納得して早々、プツリと地面が途切れたように草がなくなった。


「わあ……こんな綺麗に境界線ができるんだ」


あと一歩踏み出せば、そこは石と砂の領域。草の領域から、ぴょんと跳んでその境界線を飛び越えた。

着地した足の裏が、想定外の感触を踏む。

簡単にバランスを崩した僕の腕を、ディアンが捕まえた。


「いちいち転ぶな!」

「僕だってそうしたいんだけどね?!」


ありがとう、と姿勢を戻して足元を確かめる。

さっきまでのびくともしない大地とは、全然違った。細かな砂でできた地面は、ぐずぐずと柔らかい。

奥には、湖と見紛うような大きな川が、静かにとろりと流れていた。

川って、こんなに大きいのがあるんだね。森に流れるものとは、随分違う。

遡って上流を眺めても、果ては見えなかった。

すごいね、と声をかけようと見やれば、ディアンの背中がとうに離れていて慌てて追いかけた。


「待ってよ! おいて行ったら、僕食べられちゃうよ?」

「自分で警戒しろ! 見通しがいいだろうが」


言われて、なるほどと見回してみる。

おそらく増水する影響なんだろう、川のそばは広く砂の地面が広がって隠れる場所がない。

魔物が居ればよく見えるね。まあ……僕らの姿も丸見えだけど。


「じゃあ、ここで野営なの? 川、大丈夫?」

「雨が降らなければな」


そっか。どっちのリスクを取るかって話だよね。

ふむふむ頷いているうちに、ディアンはさっさとテント一式を取り出している。


「待って待って、僕が手伝うから!」

「お前が……?」


胡散臭そうな顔にしっかり頷いて、得意満面で地面へ手を添えた。

力仕事はできなくても、こういうことなら!


「いち、に、さんっ!」


気合一発、ぐっと土の魔力を高めた。

微かに振動が伝わって来る。

ブブブ、と震えた地面がゆるりと溶け広がるように、滑らかに均された。 


「手伝うってそういう……」

「地面が滑らかじゃないと、辛いでしょう?」


ちっちゃな小石でも、背中に当たるとすごく不愉快だよね。

テントひとつ分均した地面は、切り抜いたように美しい。

いい仕事した、とにっこりディアンを見上げた。


「……お前、野営って何か知ってるか?」


じとり、と睨まれて唇を尖らせる。


「し、知ってるよ?! でも、できる範囲で快適さを追求してもいいでしょう?! 翌日のパフォーマンスに影響するよ?! 創意工夫も必要だよ?」

「どこが創意工夫だ、力業だろが」


確かに、とは思いつつ、素知らぬ顔をしておく。

さっさとテントを組み上げていくディアンの手際は見事なものだ。

すごいね。手慣れているっていうのは、こういうことだ。


「ディアン、カッコイイね」

「うるせえ! 手伝うなら、これを手伝え! そっち持て、引っ張ってろ」

「う、うん。あっ!」


舌打ちしないで?! 無理でしょ、ディアンの力で引っ張ったら、僕ごと引っ張られるよ?!

あっちを持ってこっちを押さえて、散々舌打ちされながらも、あっと言う間にテントが出来上がっていく。


「もうできたよ! 完成だね!!」

 

わあー! なんてディアンの分も喜んで拍手していると、魔物避けを点けろと小袋を投げて寄越された。

灯した魔物避けは、確かここに……。

テント出入口の上、専用フックへ引っかけようと伸びあがっていると、グリポンが手伝ってくれた。

これで、完璧。


「ねえ、あとは?」

「飯でも食って寝てろ」

「えっ? 寝ていいの? 幽霊茸は?」

「まだ早い」

 

荷物をごそごそしているディアンは、既に石パンを咥えていた。

石パン、そのまま食べるのは初めてだ。

いそいそ取り出したのは、僕の指3本分くらいのスティック状になった、硬い棒。

穀物粉や何やらを固めて乾燥させたオーソドックスな保存食だけど、非常に硬いので、僕はもっぱら水に浸けてから切ってスープに入れていた。


魔物避けの下、ぺたんとお尻を下ろして空を見上げた。

夕焼けから薄闇に変わり始めた空が、グリポンの淡い紫から藍へ、そして色のないグレーに変わっていく。

不思議だね、さっきまでいろんな色をしていたものが、黒へ変わっていく。

光がないと、どうして全部黒に見えるんだろうね。


立ったまま石パンをがりがりやっているディアンを見上げて、くすっと笑った。


「ねえ、今なら僕もディアンみたいな髪色に見える?」

「る……」


思案気に見比べたグリポンが、難しい顔をする。どうやら、見えないらしい。

だけどもう少し暗くなったら、きっと同じだ。


「ディアン、こっちにおいでよ! ほら、クッションもあるよ」

「……なんであるんだ」


そりゃあ、持ってきたから? 呆れ顔をしたディアンが、溜め息を吐きながら隣へ腰かけた。

ガリ、ゴリ、静かな水音をかき消す音が頭の中にわんわん響いて、あんまり場違いでくすくす笑った。

ちら、とこちらを見たディアンが、何も言わずに食べ終わった手を舐める。


「幽霊茸って、僕でも捕まえられるんだよね?」

「……無理じゃね?」

「ええ?! 攻撃してこないんでしょ?! だから僕、この依頼に同行してるんじゃないの?!」

「スライムに負けるとは思わなかったからな」

「負けてないけど!!」


はっ、と鼻で笑われて、悔し紛れに石パンをがしがし噛んだ。

幽霊茸は、深夜に浮遊し始める浮遊植物の一種らしい。それを採って来るのが今回の依頼。

難しくはないのだけど、夜は魔物も活発になるし、野営する以外に方法がないからDランク以上向けの依頼になるんだそう。

つまり、ディアンにとっては朝飯前の依頼で……僕のための依頼ってことだ。


こっそり端正な横顔を眺めて、きゅっと唇を結んだ。

……頑張ろう。

もうすぐ見えるだろう星を待って、僕はもう一度空を見上げた。 

 


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― 新着の感想 ―
いやいやディアン、背中にあたらないのは安眠に大きく影響するよ。そして質の良い睡眠は冒険者活動にプラスでしょ。ここはルルアが正解だね。
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