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◆書籍化進行中◆【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第三章

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78 ギルドへの貢献

「――なるほどな。魔素災害にそんなカラクリがあったとは」


顎に手を当てたギルマスさんが、ふむうと唸って紙束を見つめた。

それ、まだ結論しか読んでないでしょう。

結構な量があるのに、渡したその場で読み始めたギルマスさんに苦笑する。

腰を据えて読まないと難しいよ。


「カラクリ、でもないけど……。でもどうしてかな、みんな知っていることだと思ってたのに」

「こういう、稀にある、みてえなもんは特に残りにくいな。なんせ、冒険者なんざ経験を頼りに動くもんだ。本なんか読まねえし、自分で経験しねえと信じねえのもいるからな」

「それだと、経験した時に割りと死んじゃうけど……」

「そういうこった」


ああ……なるほど。

ついと視線を逸らしたディアンに苦笑する。

ディアン? そういうことだから、ちゃんと人の言うことも聞こうね?

あとは冒険者稼業って、長く続ける……というか続けられる人がそう多くもない。だから口伝が途絶えちゃうのかな。


自然と、ギルマスさんの手にある紙束に視線が行った。

僕たちは早々に返って来た師匠の手紙を持って、ギルドにやってきている。

あれは手紙というのか、もはや論文と言えばいいのか。

師匠、暇なんだなと思わずにはいられない。

つまり、体調も良さそうで何よりだ。


「あーー、で? 魔石と魔物、魔素災害の関連が分かったとて、日々の魔石の大きさを全部把握するなんざ無理じゃね? 窓口担当だって都度変わるしよ。毎回調査依頼したところでなあ……金もかかるし」

「1パーティの調査規模じゃあ、誤差が出ちゃう気がするよ。今回みたいに直前になれば、分かるだろうけど」


そんなに難しいことじゃないと思うのだけど。

今までがどんぶり勘定すぎるだけで。

多分聞き耳を立てているだろう隣の商人さんへ視線を送ってみると、少しだけ知らないふりをして、諦めたように苦笑した。

この人は確か、大きな商会の責任者代理だったはず。


「……参ったな。まあ、難しくはないでしょうよ。我々は日々やっとりますでしょ? 商品の質や量ちゅうもんは、経過と傾向を記録して追うモンですから。でないと大損しますからなあ」

「マジか。そんなめんどくせえことを? 大体、ウチでそんな記録つけて誰が見るんだ。……お?」


無言の視線が三対、ギルマスさんに突き刺さる。

交差するように、ギルマスさんの視線が商人さんに突き刺さる。

……うん、ギルマスさんが見るという選択肢はないよう。


「あんたらが、今後もギルドで働いてくれりゃあ万事解決だな! 作るか、商人枠!」

「きっと、商人さんもそれを考えてくれていたんでしょう?」


だから、さっき知らんふりしたんでしょう。

くすっと笑うと、彼も肩を竦めて笑った。

 

「いやあ、ぼうやには参りますな。しかしウチも商人、恩ある相手にゃ誠意を尽くしましょ。分かりました、これは我らの交渉材料として取っておくつもりだったんですがねえ」


頭を掻いて苦笑した商人さんが、ギルマスさんに向き直る。


「やりましょうか、ギルドと商人の共闘!」

「共闘か、いいじゃねえか!」


大人が二人、がっしりと握手を交わす。

さすが商人さん、ギルマスさんのツボをつく言葉選びが上手だ。

このギルドでうまくいけば、もしかすると他のギルドでもそういった多職種連携が始まるかもしれないね。

話が弾み出した二人を見上げていると、ふいに体が浮いた。


「な、なに?!」

「で? 今のもコイツの手柄だよなぁ? 貢献度すげえことになりそうだな?」

 

猫の子のように掴み上げられ、2人の間にぐいとねじ込まれた。

同じ高さになった目と目が合って、へらっと笑う。

そっか、これもランクアップポイントに加算されるなら、とても助かる。なるほど、こういうのが強請るってことか、なんて感心した。


「抜け目ねえな。ま、いいぜ。コイツはランクを上げた方が価値がある。諸々すっ飛ばしてEにはしてやれるだろ」

「えっ! いいの?!」


ぱっと目が輝いたのが分かる。

じゃあ……ディアンはCランクだから、Eランクなら引率範囲内!! 

最初のおでかけ――じゃなかった、野営練習から既に一緒の依頼を受けることができるよね?!


たまらずバタバタ無駄な動きで喜びを放出した。

もう、どうしてぶら下げてるの! ディアンと分かち合いたいのに!


「それ以降の追加ポイントは、要検討だな。戦闘に不安がありすぎるからな」


え……Eランクにしてもらう以上のポイントがもらえるの? とは思ったものの、懸命にも口をつぐんでおいた。

代わりに、心外だと拳を繰り出してみる。


「僕、強いよ?!」


僕は以前、笑われたことを根に持っている。密かにカッコイイポージングを練習しているんだから。

シュシュっと風を切る拳に、ギルマスさんが溜め息を吐いて、商人さんが微笑ましい顔をした。

やめて、ほっこりしないで?! 溜め息の方がまだ心に柔らかい。

 

「……あの、ホントに強いから」

「安全な場所なら、な? ディアン、安全に頼むぞ」

「俺に言うな」


それは……違うとも言い難い。僕の方が間違っているのかと思えて意気消沈した。

しゅんと力を抜いたら、垂れさがった洗濯もののようで、我ながら情けない。

とりあえず下ろして……。


やっと地面に降り立って項垂れていると、ギルマスさんがふと思案気な顔をした。

ルルア、と呼ばれて見上げた視界の中、にやりと悪い笑みを浮かべる。

 

「え? ……なに?」


目の前に、ディアンの手がある。

そして、ギルマスが大笑いしている。


「目も閉じねえじゃねえか! どーーすんだよこのドンクサ!!」

「あのですねえ、君は商人としての才能があると私は思いますよ?」


商人さんになぜか慰められている気がして、拳になったディアンの手を広げてみた。

手の中に、ぎゅっと丸めた紙玉が二つ。……いつ?

目を丸くしてディアンを見上げる。


「せいぜい、守れよ。分かってんだろうな」


満足そうに笑ったギルマスさんが、今度はパパっと何かを取った仕草。そして、側のゴミ箱へ手の中の紙球を放り投げた。

……いつ? 僕、全然見えないかもしれない。


「……魔法の腕はある」

「ディアン……ありがとう!」

    

ぼそっと聞こえた声に感涙せんばかりに振り返った。

だけど、やっぱり感謝の抱擁は顔面を掴んで止められたのだった。


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