76 休日
「――アァ? やるに決まってんだろ! ただ、貢献度がバカ高ぇから、どのくらいになるかはまだわかんねえよ」
「えっ……そ、そっか!」
ちら、と見上げたディアンは、『だろうな』という顔をしている。
分かってたんなら言ってくれても良かったんだよ?! わざわざ強請る必要はないって。
何かあった時のために、と高めていた魔力を霧散させる。
「……圧迫感消えたな? てめえ、なんで臨戦態勢だった?」
「な、なんで分かっ……あっ」
「おいディアン……。お前、もうちょいコイツを躾けとけよ……お前より危ねえじゃねえか」
「俺に言うな」
昨日よりもさらにスムーズになったギルド内で、ギルマスさんが深々と溜め息を吐いた。
すごいな。戦闘に慣れている人って、そういうことも分かるんだね。
バレると思ってなかったもので、申し訳ないことをしてしまった。ちゃんと対応しようとしてくれていたのに。
しゅんと項垂れて頭を下げる。
「ごめんなさい……。僕、もしダメだったら、もう強請――」
ばっしと口を塞がれて、慌ててディアンを見た。
「余計なこと言うんじゃねえ。ああいうのを、マジに取るな」
「え、あれはマジじゃなかったの?」
「ほう……詳しく聞こうか? 何を吹き込まれた?」
わあ怖い。
ぐっと覗き込む好青年が、全然爽やかじゃない顔で笑みを浮かべている。
舌打ちしたディアンが、僕を引きずるようにギルドから脱出した。
「――ごめんね。でも僕、ディアンのことを言ったりしないよ?」
「馬鹿か。お前が言わなくても分かるわ」
なるほど……それは盲点だった。
でも、ひとまず通常以上にランクアップポイントはもらえそう。まさか、こうなるとは思わなかったけれど、結果オーライというやつだろうか。
そのまま2人で町を歩きながら、昼食は買って帰るか町で食べるか、なんて話をする。
ディアンと町を歩くのって、久しぶりだ。
「ねえ、今日は討伐に参加しなくていいの?」
「あんだけ連続で駆り出されたんだ、休みくらいある」
強制徴集だったもんね……。きっと、脅威度が下がっているってことでもあるだろう。
師匠とヴェルさんのことは、ギルマスさんも知っているから、たまに目撃されるヴェルさんも大丈夫そう。多分、普通にヴェルさんに攻撃が向いてるんじゃないかなと思うけれど、ヴェルさん強いからなあ。
きっと、美味しそうな魔物を物色しては持ち帰ってるんだろう。
全然部屋から動かなかった師匠だけど、きっとヴェルさんに言われてお肉を食べているに違いない。ヴェルさん、怒ったらガブ! っとやるから。
ふふ、と笑った僕を見下ろして、いつものように『変なヤツ』と言わんばかりの顔をされる。
「今のは、ヴェルさんと師匠のことを考えていたから! 何も変じゃなくて!」
「……そうかよ」
あれ?
ふいと視線を逸らしたディアンが、思ったのと違った。
てっきり、また師匠の話題で舌打ちでもするかと思ったのに。
少し目を見開いたその表情は、『驚き』だったろうか。
「どうかした?」
「はあ? 何もねえよ」
いつも通りのディアンを不思議に思いつつ、にっこり笑う。
「そっか。ディアン、今日お休みなんだね! じゃあ一緒に町歩きできるよね?」
「……まあ」
「やった! じゃあディアン、今日は僕といる日ね?! パーティなのに全然一緒にいないんだから!」
せっかくパーティを組んで、部屋も一緒なのに、思ったよりも顔を合わせる時間がないんだもの!
こんなんじゃ、中々ディアンも僕に慣れてくれないよね。
……なんでだろう。僕はこんなに慣れたのに。
ちょっとばかり不公平を感じつつ、溢れる笑みをそのままに見上げた。
おや、またじっとり見下ろされている。
「あのね! 今は、ディアンと過ごせることを喜んでるけど?! 分かるでしょう?!」
「……そうかよ」
僕、分かりやすいと言われる気がするけれど。そんなに分かりにくい?
首を傾げたところで、ディアンがさっさとお店に入ってしまった。
え、そのお店に決定?
食べ物のお店には違いないだろうけど、入ったことはない。というより、僕は露天以外で食べたことがない。
「ね、ねえディアン、僕が入っても大丈夫なところ? 僕、お店で食べるの始めてなんだけど」
「は? 入ったことねえ?」
「ないよ。だってディアンとこうして食べることって、なかったでしょう」
そわそわしながら見回した店内は、木製の壁と床、木のテーブルとイスが無秩序に並んでいた。
思ったよりたくさんの人が好き勝手話して、ガチャガチャ、ぎしぎし、色んな音といろんな匂いがする。
視覚も聴覚も嗅覚も、全部で『雑多』を訴えてきている。
「うわあ。なんだか、すごくごちゃっとしてるね……」
つい素直な感想が溢れた時、ふっと吹き出した声がした。
え、と見上げたディアンは、いつも通りの不愛想。そしてぐい、と強制的に顔の向きを変えられた。
……そんなに可笑しかったろうか。
大人しくディアンにくっついて空いた席へ着くと、なんだかてらてらしたテーブルを撫でてみた。
最初は平だっただろう表面は、色んな傷ですごくガタガタしている。しているけど、角が取れて滑らかだ。
どうしてこんな、テーブルをナイフ投げの的にしたかのような傷がつくんだろう。
「テーブル見てねえで、食うもん決めろ」
「あ、うん! でも、どうやって? メニュー表は?」
レストランでは、メニュー表があると書いてあった気がするけれど、テーブルの上には何もない。
「そんな上品な店かよ」
肩を竦めたディアンが、長い指でカウンターを指した。
何を指しているんだと視線を彷徨わせ、立てられているボードを発見した。
なるほど、あそこに書いてあるのがメニューか。
「あの、ディアンは何を……?」
「肉とパン」
何それ、と思ってもう一度見たら、本当に書いてあった。
分かりやすいけども。
「じゃあ、僕もそれで……」
言い終わる前に、ディアンが周囲に視線をやった。
途端、お盆にいっぱいお皿を乗せたお兄さんが飛んできた。
「はいよ! 注文は?」
勢いに驚いていると、じっとディアンがこっちを見ている。それを見たお兄さんも、じっと僕を見る。
「あっ?! え、ええと、肉とパンを!」
「俺も」
「はいよぉ、『肉とパン』、2ぁつー!!」
でっ……かい声。
振り返ったお兄さんが厨房へ叫んで、厨房からも怒鳴るような声が響いてくる。戻ってから伝えるんじゃないのか。
僕、こんな大きな声聞くことがなかったから。
びりびりするような声に首を縮こめ、元気に立ち去るお兄さんを見ていた。
「……怖ぇのかよ。垂れてる耳が見えんだけど」
「え?! 怖くないけど! びっくりしただけ」
耳ってなに。
むくれて見上げたディアンの橙は、いつもより少し、柔らかい気がした。
選書魔法、現在火木土更新ですが、次回から火土更新に変更予定です!
もふしら:3日ごと(2日空き)
デジドラ:日曜
選書魔法:火土
という感じになります~!
あんまり更新多くても……読むのも大変じゃないです??
つまり……全部読んでね!!(笑)
*繁忙に合わせ更新ストップすることもあるかもです。




