73 意外と役に立つ
「クミードのツノ12、ツメ32、ジジエ毛皮5、あ、これもクミードのツノ3――」
「はい、はい――」
「こっちもジジエ毛皮15ぉ!」
「はい!」
次々読み上げられる素材とその数。その記録くらいなら、誰でもできる。
手が足りなくて、山積みになっている雑多な素材を、どんどんカウントして10を区切りに収納袋やカゴやらに仕分けていく。
残念ながら、僕は素材の分類できるほど詳しくないので、記録係に徹している。
討伐隊はグループになっているらしく、それぞれのグループごとの素材数で報酬に差が出るのだとか。
こうして分担すれば、結構早いものだ。
「な、なあ、どんどん言ってるけど大丈夫なのか?! グループごとのトータルがいるぞ?! また最初から計算とか勘弁してくれよ?!」
「まあまあ、大体わかるだけでも助かるから! いつものことだ、夜中じっくりやり直せば……」
「それが追っつかねえから、こうなってんだけどなぁ」
遠い目をしたギルド員さんたちが、乾いた笑みを浮かべる。
「記録はちゃんとしてあるから、確認も時間かからないと思うよ?!」
記録が間違ってるかどうかは、ひと目で分かるのだから。
「それがなぁ……細かい計算が面倒で……ん?」
同じく別グループの記録をしていたギルド員さんが、僕の記録を覗き込んでキョトンとした。
「なんだそれ? お、お前……俺らの話聞いてた?! 数を数えるんだぞ?!」
「はあ? ま、まさか記録してねえのか?!」
慌てて駆け寄って来た面々が、僕の記録を見て顔を青くする。
「マジか……やっぱこんなチビにやらせんのが間違ってたか。ギルマスぅ~~!!」
「数え直し、か……」
魂が抜けそうな顔をされてしまって、僕も大慌てする。
「か、数えてるよ?! どういうこと? ダメなの?」
「ダメだな……お前それ、ただのチェックじゃねえか」
「数えるってのはな、ジジエ毛皮が全部で何個あるかわかんねえと――」
「当たり前だよね?! ジジエ毛皮はトータル46、Aグループ12、Bは18、Cは16!!」
合ってるよね?! と振り返って袋の数を目視する。うん、大丈夫。
「え……合ってるのか? なんで?」
「お前、もしかして恐ろしい記憶力があるとか? けど、俺らがわかんねえと……」
「僕、そんな特殊能力ないよ?! 普通に記録して――え、みんなこんな風に記録してるの?」
ふと覗き込んだギルド員さんの記録を見て、目を丸くする。
そこには、『~の毛皮』項目の横に、ひたすら数字が並んでいる。あの、これだと後で見直す時に大変では……? 桁数を間違えちゃいそうだし。
「あの、僕はこう習ったよ? 四角って4つの線でしょう? こうして……1、2、3、4、最後に一本」
シメの一本をきゅっとナナメに引いたところで、覗き込んでいた面々が息を呑んだ。
「完成した四角2個で10個だから――」
「「「うおおお?!」」」
「うわあっ?!」
突如身体が浮いて、僕は大喜びするギルド員さんたちに胴上げされた後、担ぎ出されたのだった。
「マジか……これなら、計算できねえヤツも即戦力じゃねえか?!」
案外知らないものなんだなあ、と僕は他人事のように考えながら、興奮するギルマスさんとギルド員さんを眺めている。
ひとまず、この方法をみんなが採用してくれたら、素材関連の効率は大分上がりそう。僕、別の部署を手伝った方がいいのかな。
「お前、他になんか持ってねえのか、こういう裏技」
いつの間にか素材担当班の面々がいなくなり、僕は一人、ギルマスさんに詰め寄られていた。
「全然裏技じゃないよ?! 他って言われても……あ、でも」
「お? マジか? なんかあんのか」
「う、ううん。そういうのじゃないんだけど、気になっていることがあって」
「違ぇのかよ」
ギルマスさんはあからさまにガッカリ顔をしながら、一応僕の言葉を待っている。
「えっと、見当はずれなのかもしれないけど……でも、人手が欲しいんだよね?」
「見りゃ分かんだろがよ! 全員フル稼働してんだろ!」
「そ、そうなんだけど。だから――もっと外注したらどうかなって」
「外注? 掲示板見たろ? 依頼できそうなことは出してんだろ。依頼出す間も惜しいくらいだわ」
や、やっぱり的外れだったかな。僕が考えるようなことは、とっくに誰かが試しているに違いない。
ちょっと小さくなりながら、一応、最後まで伝えておく。
「そうだよね……。僕、外にいっぱいいる商人さんにやってもらえばいいかなって。だってあの人たち、きっとこういうの捌くのも得意そうだから……。逆依頼なんかもあれば、効率いいかなと思って」
ぱちり、とギルマスさんが瞬いた。
「商人……。逆依頼……?」
「うん、商人の団体さんはまとめて色々請け負えるだろうけど、個人だったら『自分はこういうことができますよ』って表示してもらえれば、即戦力になる場所もあるかなって」
だって、街中のお店は長蛇の列だし、ギルドだって。
まさに、今、外に出ることもできない商人さんたちは、資源なのでは。
冒険者さんじゃないから、このギルドで依頼を受けたりしないのでは。
そして彼らも、滞在費用などに困っているのでは。
「それを、ギルドが主導してやってくれたら……と思ったり」
「…………」
まじまじと僕を見たギルマスさんが、もう一度、ぱちりと瞬いた。
「――早ぇえ……」
「すげえ……」
呆けたように見つめるギルド員さんに、商人さんたちが綺麗な営業スマイルを向ける。
「それは、まあ。我々の得意分野ですから」
「ああ、それとこちらの在庫管理担当はどなたです? こちら、あと三日で切れますから――」
僕は知らなかったのだけど、ギルド員さんは基本的に元冒険者さんなんだとか。
支払いの計算、書類の処理、依頼者とのやり取り……生粋の商人さんに、勝てるはずもなく。
ギルドを出れば、長蛇の列だった串焼き店の客が、どんどん捌けている。青筋をたてて客とやり取りしていた店主さんが、呆然としていた。
「皆さん支払いの用意はいいですか? 5人目のあなた、出しておいてくださいね! ううん、小銭を出すのは億劫ですよね? 私も面倒なので、この際やっちゃいましょう! 串3本で銀貨1枚!!」
「お、おい! そんな勝手に……」
慌てる店主に、商人がにやりと笑ってしいっとやった。
「え? なら3本買う!」
「4本は損じゃねえ?! なら、6本だ!」
「……え」
僅かな値引きで、あっと言う間に販売数が跳ねあがっていく。
「……やべえ……金が積み上がる……これが、王都の商人……」
「店主さん、頑張って焼いてくださいね?」
にんまり笑った商人さんに、店主がぞくりと背筋を震わせたよう。
う、うん。何も悪いことはしてないしね!
僕、結構役に立ったんじゃないかな。
うふ、と笑って足取りも軽く教会への道を辿った。
お金はもらったけれど、ランクアップの点数をもらってないことは、すっかり忘れて。




