70 属性
「――でね! まだみんな小さいから、きちんと訓練したら魔力も増やせるし、指先に明かりを灯す、くらいはできると思うんだ。残念ながら、全属性の子はいなかったんだけど……」
少し、期待していた。
そうしたら、僕が古代魔法を教えてあげられたのに。選書の魔法使いが、ここからも誕生するかもしれなかったのに。
ちょっと視線を下げたところで、鼻で笑われた。
「孤児に全属性がいてたまるか」
「ここにいますけどぉ!」
憤慨しつつ、相当レアなパターンだったんだなと思う。
だけど、孤児なら魔法について精査する機会がないもの。可能性は眠っていると思うのだけど。
「まあ、誰かが一人、属性がねえなんてことにならなくて良かった」
「ふふ、ディアンもそんなこと言う。言わなかったっけ? 無属性っていうのは、全属性だよ」
「はあ?」
言ったでしょう。古代魔法を使うには、全属性じゃなきゃって。
古代魔法っていうのは、全属性を併せ持って初めて使える、無属性の魔法だもの。
全部を混ぜて、『無』という全く別の魔力にする。
「だから無属性魔法はね、ちょっと普通に使う魔法とは違う感じ。身体の感覚がね、違うんだ。体の中に、別の回路があるような感じで――」
「いい。聞いてもわかんねえ」
意気揚々と説明を始めようとしたところで、ぱしっと口を塞がれた。
じっとり睨み上げても、どこ吹く風だ。
そりゃあ、ディアンは関係ないかもだけど! ここに僕という全属性を使う相棒がいるのに! ちょっとくらい興味を持ってよ?!
むっすりしながら、木箱に魔石を並べていく。
訝しげに見ていたディアンが、これが判定方法だと察したよう。
「それ、俺の属性を見て何になる? どうせ魔法は使えねえのに」
「魔法は使えないけど、訓練の相性とか、装備の相性が分かるよ。何度も言うけど、ディアンは『身体機能強化』の魔法使いだよ」
「それを魔法使いって言うか……?」
だって、魔法を使っているもの。実際、筋力だけを鍛えるよりも、魔法の能力を鍛えた方が効率はいいと思うよ。あくまで『強化』だから、身体能力向上のトレーニングは必須だと思うけれど。
「じゃあ、これを握って……あ、その前に魔力循環しよっか。感覚、覚えてね」
ベッドに飛び乗って、ずいと距離を詰める。何気なく、はい、と両手を広げてしがみ付こうとしたところで、ばしっと顔面を掴まれた。
「ちょっと?!」
「手でいいっつったろ」
「手でもいいけど……ぎゅっとする方がやりやすいのに」
不貞腐れながら、両手を差し出した。微妙に眉間にしわを寄せつつ、ディアンがそれを握る。
「……」
「え、何?!」
うわ、なんて顔をされたら、気になるじゃない?!
「……へにゃってて赤ん坊みてえ」
「それだったら言わなくて良かったよ?! 悪口じゃない!」
僕、結構家事もしていたんだけど。でも、1.5人分にも満たないような家事をこなす手では、ディアンにとっては赤ちゃんなんだろうか。
だって、昨日握ったみんなの手は、僕よりずっと硬かった。そして、ディアンの手は硬いどころかゴツゴツした木のよう。
思わずその手をひっくり返し、まじまじ観察した。
これは、剣だこってやつだろうか。こんな風になるのか……。
「これ、痛くないの? 頑張ったら治るかもしれないけど――」
「治すんじゃねえよ、馬鹿。痛くねえわ。ある方が痛くねえんだよ」
「そうなんだ……でも、こうなるまでは痛いだろうに」
きっと、ディアンだって最初は僕と同じ手だったはず。小さな子が、こんな風になるまで……。
「その時、僕がそばにいたら。痛みだけ取ってあげられたのに」
「その時、お前は赤ん坊だろ」
「違うよ?! ま、魔法はまだ……使えなかったかもしれないけど」
「じゃあいらねえ。つうか、早くしろ」
いらないとか言わない! 渋々両手を取り合った体勢に戻って、顔を上げる。
「……あのさ」
「うぜえ! 何なんだ、早くしろよ?!」
「あの、こっちの方がなんだか……恥ずかしくない?」
「あ?」
だって! 僕ぎゅっとするのは日常茶飯事だったけど、師匠と手を繋いだりしてないもの! ミラ婆さんとか、ローラは手を繋いだりするけれど、あれとこれとは違うじゃない? 保護者っていうか……。
ディアンはさ、僕の友達とか、相棒とか……そういうのじゃない。友達と手を繋ぐのって気恥ずかしいと、初めて知った。
「めんどくせえな?! 何でもいいからさっさとしろ!」
ばっしと僕の手を布団に叩きつけて、ディアンが青筋を立てている。
じゃあ、遠慮なく。
にっこり笑って、その胴をぎゅっとする。うん、これは全然恥ずかしくない。僕のしっぽが揺れている。
長いディアンの溜め息が聞こえた。
「――どう? 感覚掴めそう?」
すったもんだの末に魔力循環して、ディアンは難しい顔をしながら魔石を握る。
端から次々魔石を握って、少し首を傾げた。
「選べねえ。これとこれだ」
「早っ! さすが、日常使いしてるだけあるね!」
ディアンの指した魔石を手に取って、にこっと笑う。
「うん、ディアンは火と水の二属性だね!」
「は? 俺が二属性?」
「そう。魔力量も多そうだし、魔法使いだったら、氷なんかも使えるタイプだね!」
ぽかん、としたディアンは、もう一度魔石を握り直したりしている。大丈夫、間違ってないよ。
「魔力循環の練習をするってことは、魔法の特訓にもなるから、強化系の人も魔法を使えたりするかな? 僕、あんまり詳しくなくて。そういう人もいる?」
「いる。……魔法剣、とか――」
ほんのり、言いよどむディアンに首を傾げた。
魔法剣? 剣の魔法? それとも魔法の剣? いずれにせよ、なるほどと膝を打った。外に放出はできなくても、持ったものを体の延長とすれば何かしらできるのかも。
ここは、また選書魔法で調べておくべきかな。
「ディアン、魔法剣が使えるかもしれないね! 新しい武器だね!」
「馬鹿か……。そんなもん、ごく一部の……エリートだ」
「じゃあ、ディアンがそうだっていうだけじゃない?」
よかったね、と笑ったのに。
ディアンは、ぱちりと瞬いて。そして、なぜか僕の両ほっぺを引っ張ったのだった。




