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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第三章

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69 追われる背中

 みんな、真剣だ。

 普段、真面目とは言い難い子たちだけれど、みんなおしゃべりひとつない。

 僕が邪魔にならないように、衣擦れの音だけを響かせて教室内を歩く。

 そうだよね、可能性っていつだってわくわくするものだ。


「る」


 何をしているんだ、とくりりと首を傾げたグリポンに『しーっ!』と人差し指を立ててみせる。

 これはね、魔力操作の基礎中の基礎だよ。

 まずは、魔力を感じるところまで。


「あ……分かった、かも」

「なんか、ある。これ、合ってる?!」


 一人の声をきっかけに、次々に華やかな声が上がり始める。

 ほっぺを真っ赤にしちゃって、目なんかつやつやの蜜漬けみたい。

  ついつい僕の口元も緩ませながら、賑やかになった教室内をゆっくり巡る。

 そろそろ、みんな大丈夫そうかな? と思った時、1人がべそをかきかけているのを見つけて、ローブを翻した。


「どうしたの?」

「……わかんねえ。どの魔石握っても全然、わかんねえ」


 くしゃり、歪めた顔に僕の方が目を潤ませてしまい、慌てて瞬いた。


「最初はそういうものだよ。魔石がちょっと小さいから、分かりにくいんだ。でも大丈夫、僕の魔力が分かったんだもの」

「でも、今わかんねえもん」


 すっかり唇を尖らせてしまった子が、小さいディアンみたいで自然と頬が綻んだ。

 僕より少し小さな手をとって、しゃがみこむ。

 机に並んでいるのは、四属性の魔石。属性に固定された魔力が、たっぷり内包されている。

 今日は、これを握って魔力を感じ取る、という趣旨になっている。ここには自分の魔力を判定する器具はないから、基礎をやりながら、判定もしてしまおうという魂胆だ。


「俺、属性ないの? 魔法使えないの?」

「属性がないってことはないよ。それは全属性を持っているってことになるから」


 ふふっと笑ってもう一方の手も取ると、そうっと少しの魔力を流す。

 不貞腐れていた顔に、ほわりと赤みが灯る。ほら、これだけで感じ取れるんだもの。魔力を流す抵抗だって少ない。

 途端、方々からブーイングが巻き起こった。


「ずるいー! あたしも後でやって!」

「俺も!」

「じゃあ、後でみんなでやろっか。毎日コツコツ魔力操作するのが大事なんだよ。それができないうちは、こうして外から回すの。誰かができるようになったら、友達同士でできるね!」


 魔力を流す回路は、太ければ太い方がいいから。

 自分たちでできるようになる、と聞いたみんなが、いっそう魔力感知に熱を入れ始めた。

 一方、また俯いてしまった子に、ひとつ魔石を握らせる。

 その上から、僕の両手で包み込んだ。


「感じてね? 分かるから」


 むっすりしながらも、素直に頷いた子に、ふんわり笑みを浮かべる。

 じっと包み込まれた手を見つめる顔は、真剣そのもの。

 への字に突き出した唇も、きっと気付いてない。


「えっ……あ」

「捕まえた?」


 ぱっと上げた視線が、頼りなく揺れて、そして、徐々に強い光を帯びていく。

 もう、大丈夫だろう。

 そっと手を離せば、一瞬眉を下げ、そしてきりりと上げた。そう、さすがだ。


 カッコいいな、と思う。

 そう、さすが、だよ。

 ここの子たちは、みんな目指す背中を見て大きくなっている。

 きっと、この子たちの最強は、ずっとただ一人。


「分かる、出来た!!」

「ね? 大丈夫でしょう。じゃあ、他のも試してみて。自分と相性のいい属性は、きっと違いが分かるから」


 大きく頷いた子は、ほっぺどころかお顔ごと真っ赤にして、次の魔石に飛びついた。



 お昼だよ! と大きな声で呼びに来たミラ婆さんが、わらわら教室を出て行こうとする子たちを見守りながら、僕に歩み寄る。

「それで……ちょっとでも、誰か魔法使えそうかい?」


 遠慮がちに尋ねるのがらしくなくて、僕はにっこり笑った。


「うん! ちゃんと、みんなの属性が判明したよ」

「そりゃあ……! そうかい、良かったよ」


 ははっ、と笑いながら、ミラ婆さんはそっと目尻を拭った。

 そして、はたと動きを止める。


「えっ。みんな? え、みんなって聞こえたような?」


 戸口からこちらを窺っていたみんなが、ぴかぴかの笑顔で僕とミラ婆さんを見る。

 僕は、お辞儀の勢いで思いっきり頷いて、思いっきり大きく笑った。


「そう、みんな!」


 僕とみんなを交互に見たミラ婆さんが、ぱくぱく、と口を開けたり閉めたりして。

 みんなは、ビックリ作戦大成功とばかりに、わあっと一斉に声を上げて笑ったのだった。



「――あ! ディアンお帰り!」

「あぁ」


 ちょうど僕が昼食を終え、部屋の扉に手を掛けたところで、廊下にその姿が見えた。

 裾をなびかせ駆け寄る僕にめんどくさそうな顔をして、ぐいと顔面を押しのけられた。なんで?!


「お前、距離が近いんだよ」

「普通だよ?!」

「普通じゃねえわ! 誰が俺にそんだけ近付いてんだよ」

「ミラ婆さん?」

「説教ババアと他を一緒にすんな!」


 そうだよね、ミラ婆さんはディアンの特別で……。そっか、みんなはもう一人の最強も知ってるんだ。

 そして、ディアンの最強はミラ婆さん? うふふっと笑えば、何も言ってないのに額を弾かれた。


 むくれて額を擦りながら、さっさと部屋に入ったディアンに続き、ついでにさっとその全身を確認しておく。なんだかもはや、癖になってしまった。

 今日も怪我はなし、と頷いて口を開く。


「今日はね、みんなに魔力感知の練習をしてもらったんだ。ついでに属性がざっくり分かるようになってるから、ディアンも後でやろうね」

「あー」


肯定なのか否定なのか分からない返事をして、ディアンは汚れた服を脱ぐ。森へ行っていたんだろうか。


「森はどう? まだ規制解除まではかかりそう?」

「まだかかるだろ。ただ、通常より早いだろうな」


チッ、と聞こえた舌打ちに首を傾げ、ああ、と笑った。

どこに師匠が関わっているのか、語られるよりもよく分かる。まあ今回は、師匠というかヴェルさんだろうけども。

ひとまず、『嫌なこと』を思い出したらしいディアンの気を逸らすべく、僕の日常に切り替えた。


「それでね、みんなすっごく頑張ったんだよ! 褒めてあげてね?! 今日の授業で全員、属性が判明したよ!」

「なんで俺が……。そうかよ」


 いかにも興味なさげにそう言って荷物を下ろしたディアンが、ピタリと止まった。

 あ、これは来るぞ。


「……みんな?」

 

 そろり、と振り返ったディアン。

 僕はここぞとばかりににんまり笑って、さっきと同じ返事をしたのだった。



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― 新着の感想 ―
ルルアがラキくんくらい お兄さんだったらキャラ的に 初恋泥棒になりそうですよね〜♪ 優しく丁寧な指導と根気強いので… …多分?ひょっとしたら…⁇ ひつじさんのお話はほこほこして 優しくなれるので好…
ルルアすごいね。ほんとに指導者の素質あるんだ!
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