66 留守番の間に
いいアイディアだと思ったんだけど……危なくないし、確実にみんなが出られなくなるし。
こんなにたくさんの氷を作ったのは初めてだけど、氷魔法は結構得意な方。だって、日常で使うでしょう?
室内にいた子たちまでみんな出て来て、きゃっきゃ言いながら氷を撫でている。
「ルルアって本物の魔法使いだったんだ……」
「すげえ……大金持ちになれるじゃん」
大金持ち? と首を傾げたら、呆れた視線が返ってきた。どうやら、氷魔法というのは珍しい系統に入るらしい。しかも、日常に有用なものだから、需要も高いのだとか。そうだよね、暑い日にとても重宝するもの。
これ、切り出してキッチンに運べば、お肉の保存にいいかな……なんて考えていたところで、今度は矢継ぎ早の質問攻めが始まった。
「ルルア、他にも魔法使えるのか?!」
「なんで魔法使えんのに、教会にいんの?」
「俺は? 俺も使える?!」
一気に詰め寄られて、一気に壁際まで追い詰められてしまった。
あの、みんな力強いんだけど。僕このままだと、プチリと壁の染みになってしまわない?
「これ! 何やってんだい。ルルアが潰れるよ!」
ひょい、と持ち上げてくれたのは、ミラ婆さん。ぶつぶつ言いながら離れた子たちに、安堵の息を吐いた。
渋々解散しようとする子たちへ、慌てて声をかける。
「みんな、そんなに魔法に興味あるの?」
「あるに決まってんだろ!」
即答で返って来た返事に、思わずにっこり笑った。
それなら、僕と同じだ。
「え、えっと、魔法のことなら、色々教えられるんだけど……」
「おや、本当かい? これだけのことができるんだものねえ。じゃあもし、よかったらだけど――」
遠慮がちに口にしたミラ婆さんに、僕は満面の笑みを浮かべたのだった。
――ディアンを追いかけて部屋へ戻ると、扉を閉めた途端、肩から力が抜けて大きく息を吐いた。
「ちょっと、疲れちゃったかも。僕、ディアンの代わりをしようと思って緊張しちゃってた」
カッコ悪いかな。もう少し、ディアンの爪先くらい堂々としていられたらいいのに。
どさっと無造作にベッドへ倒れ込んだディアンが、じろりと僕を見る。
「馬鹿か。あんだけ魔力使って疲れねえわけあるか」
「あっ……そっか」
……そんな目で見なくてもいいのに。だって、緊張しているのだって事実だったんだから!
そう言えば、ディアンの方はチビッ子冒険者たちは止められたんだろうか。
「僕、みんなが言うこと聞いてくれなくて、しょうがなく物理的に止めたんだけど。ディアンはどうやって止めたの? いつもどうしてるの?」
フン、と鼻で笑ったディアンが、片手で僕の頬を潰した。
「物理的に」
えっと……それ、僕は真似できないやつな気がする。
喧嘩はしてないよね?! その顔を覗き込み、怪我はないようだと安堵した。
「でも、ディアンは優しいね。わざわざ止めに行くなんて」
「うぜえ。そんなわけねえだろ。あいつらが森へ行って帰ってこなきゃ、俺が駆り出されるからに決まってんだろ」
「ふふっ、そうなんだ」
言ったら怒るから、だから言わないでおく。『優しいのも大変だね』なんて。
「その冒険者の子たちは、僕にはどうしようもないけど、教会の子たちは食料確保がメインなんでしょう? だったらお肉はいっぱいあるもの、しばらくは大丈夫だよね?」
森が落ち着くまでは、しばらく異常を来した魔物を狩る必要があるらしい。その間、みんなが満足するだけのお肉があれば、しっかりお留守番できるんじゃないかな。なんせ、僕とディアンで狩った魔物の数は相当なものだ。
「あ! そうだ、僕ミラ婆さんから魔法についての知識を教えてあげてって言われてて。じゃあ、このお留守番期間にそれができればいいよね?!」
「魔法……? 考えなしのガキ共だぞ、すぐさま使える知識じゃなきゃ、聞きやしねえ」
「うん、だから実用的なのと、実際魔法を使えるかの実践でどう?」
「は……? 使えるわけねえだろ」
「どうして?」
ミラ婆さんにも苦笑されたけど、僕はそれが不思議だ。
なぜ、使えないと思うの?
「あの人数がいるんだもの、使う方法を知らないだけで、使える子はいるんじゃない? ねえ、ディアンにも試してみていい?」
「何を」
「僕の、魔力を流すこと」
ぐいっと逞しい腕を引き、その体を引っ張り起こした。一応、許可を得るポーズはとっているけど、僕は勝手にやる気満々だ。
「ディアンは体の強化に使ってるから、魔法は使えないと思う。でも、強化レベルを上げるのがスムーズになるかもしれないし、上手になるかも」
「……だから、何すんだよ」
「ディアンは、何もしないよ。じっとしてて」
真剣な顔で見上げ、不審そうなディアンに頷いて見せる。
……そして、こんな機会じゃないとできないことをしてやろう、と密かに笑う。
逃げないようにゆっくり手を伸ばし、そうっと力を込める。
「……おい」
「しぃっ、じっとだよ」
思わず笑いそうな顔が見られないように、さらにぎゅうっと抱きしめた。
ミラ婆さんと全然違うな。しなやかな、力強いいのち。
ぐっと身を逸らせようとするのを許さず、わざと勢いよく魔力を伝えた。
「――っ! 熱い……?」
「動かないでってば。僕から、ディアンに。そしてディアンから僕に。任せて、ちゃんと循環させるから」
「……」
そう難しいものじゃない。相手は、僕と同じ生き物だもの。
小さい頃、師匠にやってもらったのを思い出す。
指の先まで温かくて、気持ちがいい魔力。師匠の病が重くなって、もう随分やっていない。
ディアンの強張った身体が、ゆっくり解けていくのが分かる。
ね、すごく心地よくて、安心するでしょう。
「ほら、熱くないでしょう?」
「……おう」
素直な言葉に、くすりと笑った。
きっと、お母さんのおなかの中はこんな感じ。
安心で、安全で、守られている。
どうしてだろうね、他人の魔力ですっぽり包まれるからだろうか。隅々まで委ねるからだろうか。そんな風に感じるのは。
そっと体を離して見上げると、鋭い橙の瞳が、今は柔らかく緩んで温かい。
「どう? 魔道具でも『魔力慣らし』ってやるでしょう? それと似ているかな。外から魔力を通して、魔力の通りをスムーズにする感じ」
「……わかんねえ。けど」
ディアンはまるで幼い少年のように瞬いて、まじまじ己の両手を見つめた。
「けど?」
「なんか、すげえあったけ……」
顔を上げたディアンを見つめ返して、僕はゆっくり、慎重に微笑んだ。
バレないように。
ディアンが、防御を忘れていることに気付かないように。
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