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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第三章

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64 オルフェス・リンドラーク

明るい日差しが、ローテーブルを三角に切り取っている。向かいに座った青年が、大きな革に見えるそれをもう一度ひっくり返し、光の中に何かしらの破片がきらきらして見えた。

階下から響く大勢の声が、随分よく聞こえる。

おしり半分腰かけて膝に手を置く僕の傍ら、深々ソファに体を預けたディアンは、退屈そうに窓の外など眺めていた。


「――本物だ」


やっと口を開いたギルマスの第一声がそれで、首を傾げた。


「えっ、偽物だと思ってたの?」


それで、こんなにまじまじと観察していたのか。

何か良くなかっただろうかと悶々としていた僕は、少し拍子抜けてその顔を見上げた。


「へらっとすんじゃねえ! 当たり前だろがぁ! ドラゴンの翼を若造が持ってくるなんざぁ、百発百中でニセモンに決まってるわ! おかしいだろが、なんで本物なんだよ?!」

「そ、そんなこと言われても……。襲われたんだもの」

「ドラゴンに襲われたら死んでるわ!」


それも説明したじゃない?!

一生懸命話したのに、全然聞いてなかったんだろうか。

むすっとへの字口をして、テーブル上の手紙を指さした。


「お手紙、ちゃんと読んでよ! 僕だっていっぱい説明したのに! あと、ギルマスさん、森は放っておいていいの?!」

「いいわけあるかよ! だから今下で対策してんだろうが!」


うん、だからギルマスさんは行かなくていいのかなって。


「……おい、俺はいらねえだろ。帰るぞ」

「いるよ?! 当事者でしょう!」

「ふわふわ説明じゃわかんねぇんだよ! 『ヴェルさんって大っきくて強いんだ♡』じゃねえんだ。ディアン、てめえが補足しろ!」


立ち上がりかけたディアンをソファに押し戻し、ギルマスのあんまりな言いように頬を膨らませた。

僕、もっとちゃんと言ったよ!!


「魔素災害でバークドラゴンまで出て来たってだけだろ。で、たまたまそいつがいたから、逃げられた」


めんどくさそうにそいつ、と手紙を指したディアンに、ギルマスさんが大きな息を吐き出して手紙を手に取る。


「嘘だろ……バークドラゴンよりもコッチの方が驚愕なんだが。俺には『オルフェス・リンドラーク』って書いてあるように見える」

「……そう書いてあるよ??」


一体何を言ってるんだと顔を見合わせた僕たちに、ギルマスさんはもう一度深く溜息を吐いた。



「――じゃあ、師匠によろしくね」


首に掛けたカバンへ手紙とお金と、おやつを入れてヴェルさんに託した。

お金は、バークドラゴンの素材代金だそう。あんな破片だったのに、すごい額になってびっくりだよ。

ヴェルさんが一声鳴いて飛び立つと、音もない羽ばたきで、ぶわり、と空気の塊が押し寄せる。

見る間に高く舞い上がっていくヴェルさんを見送って、大きく手を振った。


「るっ!」


しばらく追うように一生懸命飛んでいたグリポンが、名残惜しそうに戻って来た。

師匠とディアンは全然仲良くならなかったけど、グリポンたちは仲良しで一安心だ。

少し離れてこちらをうかがっていた青年が、ヴェルさんを追うようにこちらまで駆けてくる。


「あれが……ペタルグリフ……! 翼の王者……!!」

「ほらね! ヴェルさん、大きくて強くて、綺麗でしょう?!」


合ってるでしょう。

目を輝かせているギルマスさんを、師匠にも見せてあげたい。いや、師匠はしょっちゅう見ていたのかな。

師匠は貴族の中では『選書の魔法使い』だけど、冒険者の中では『Sランクのオルフェス』なんだね。まさか、ギルマスさんが師匠のことを知っていると思わなかった。


遠く上空で悲鳴が聞こえる。そして、何かが墜落するのが見えた。

多分、ヴェルさんがいるから、飛行系の魔物が町までやって来ない。狂気に冒された体でも、捕食者への本能的な恐怖は残るんだろうか。


「マジでいるのか……あの森に」

「そうだってば。でも、もう冒険者として活躍はできないよ。あと、行っちゃダメだよ、すごく嫌がるから」

「あー、そうだったな。ギルドに知らせてねえくらいだしな」


まだ森の方を見ているギルマスさんが、残念そうに息を吐き出した。

一応、ギルドからのお返事とか必要だろうと思って、門の外でヴェルさんに待っていてもらったのだけど……ギルマスさんがどうしてもついてくるって言うから。ディアンは来てくれないのに。


「ギルマスさんはこのまま、森に討伐に行くの?」

「行くかよ?! 散歩みてえなノリで言うな! つうかバークドラゴンがいねえなら、俺が出張るまでもねえだろ」


ギルドでは冒険者による討伐隊が組まれて、特別依頼に賑わっている。てっきりギルマスさんも行くものだと思っていた。


「ギルマスさんは、あのドラゴンに勝てるの?」


少しびっくりして見上げると、彼は少し瞬いて、フンと鼻を鳴らした。


「バークドラゴン程度なら、パーティ組みゃイケんだろうよ」

「す、すごい……!」

「ふはっ、いいぞお前、もっと褒めろ。気分がいい!」


……そう言われると、なんだかなあ。

得意満面のギルマスから視線をずらして、人のいない街道を見た。

今回の魔素災害は小~中規模クラスなんだとか。森の外へ大量の魔物が溢れる、というところまでは来ていないから、森付近の街道封鎖ですんでいる。


「僕が、もうちょっと早く気付いて、報せていたら……」

「おう、そのことで聞きてえな。なんでそもそも、気付いた」

「だって、魔石が……。あ、そもそもどうしてギルドで注意しなかったの?」

「魔素災害の発生が分かりゃ苦労しねえわ」


でも、魔物の脅威度が上がっていると話していなかっただろうか。

その時点で、魔素災害注意報なんてあればよかったのに。


「魔物の脅威度が上がることなんざ、ちょいちょいある。ボスクラスが出て、統率された時なんか特にな。他所から別の魔物が森へ入っただけでも、生息域が移動して脅威度が上がることもある」

「そっか……。でも、魔物は魔力蓄積・変動型だから、魔石の大きさは指標になるでしょう?」


何言ってるか分からん、とディアンみたいに眉根を寄せたギルマスさんが、僕の背中を押して町へ方向転換した。


「道すがら詳しい話は聞こうじゃねえか。ひとまず、ディアンに託されてんだ、お前を無事届けねえと」

「ディアン、そんなこと言わないでしょう」


くすっと笑うと、ギルマスさんは少し肩を竦めて『どうだか』と片頬を上げた。

だったら、ディアンがついてきてくれればよかったのに。もしかして、既に討伐隊に入ろうとしているんだろうか。


「ねえ、僕も討伐隊に入れるの?」

「入んな。せめて攻撃避けられるようになってから行け」

「でも、もしディアンが行くって言うなら僕だって……」

「アイツはチビ共を止めるために行ったんだろ」

「あっ……」


以前ギルドで、ディアンに声をかけていた少年を思い出した。

そうか。それで、用があるって言ったんだ。

じゃあ僕も、教会の子たちに声をかけに行かないと。


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― 新着の感想 ―
ヴェルさん、大っきくて強いだけじゃ無くて、なんかかわいい(^_^) グリポンも頑張れ!
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