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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第三章

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62 猛毒

「――勝手な……!! あれのどこが、『穏やかな最期』なの! そのために僕を拾ったんでしょう、僕に魔法を教えたんでしょう! 僕のせいで覆されたら、僕は一体、何のために!!」


制御を離れた魔力が、渦を巻いて周囲をざわつかせている。

魔法を使えない身にも感じる、凄まじい魔力量。溢れだすその圧迫感で、呼吸しづらい。

きっちり正座して俺を睨み据える瞳は、穏やかを象徴するようだったあれとは別物のよう。

……怖ぇえ。

こいつ、怒ったらこんな怖ぇえのか。

とうに逃げたヴェルを恨みながら、ビリビリくる圧から視線を逸らす。


「……うるせえな。念願叶うのが、ちっとばかり早まるだけだろが」

「嘘! 分からないと思う?! 師匠の『願い』は、そっちじゃない! 『穏やかな』の方でしょう!」


バシッと打ち返された言葉に、つい呻いた。

……そう、なのか。

言わなかっただろうが、そんなこと。

早く最期が来ればいいと、そう言っていただろうが。

俺だって、そう思って。


「どうせ、死ぬことに変――」

「何でもすぐに諦める! どうせ死ぬんでしょ! じゃあもっと頑張ったらいいじゃない!」


ぼたぼた泣きながら、ルルアは喉が破れるんじゃねえかと思うほどに声を上げた。


「短いなら、その分頑張らなきゃいけないでしょ! いっぱい、いっぱいやりたいことをして、あれも、これもまだやりたいと思いながら目を閉じてよ!!」

「……っ」


睨みつける視線から目を伏せて、僅かに苦笑した。

……勝手言いやがる。

じりじりと、胸が灼ける苦しさに息を吐く。

やっぱりコイツは、残酷なヤツだ。それが、どんなに――。


「今、僕はそれを感じてるからね?! ずっと、ずっと感じてる! 師匠がいなくなった後も、ずっとだからね!!」


は、と息が止まった。


「……知るかよ。てめえが勝手に」

「そう、だから……僕も知るかよ! 僕は、師匠に楽しいことを話す。お土産を持って来る。治療の可能性を探す!」


ガキが……。

俺を苦しめる猛毒が、その柔らかく小さな手で注がれる。

濡れてもぎらつく瞳が、ひたと俺を見据えて離れない。


「おい、ルルア……」


ふいに聞こえた第三者の声に、ルルアがハッと我に返って振り返る。


「そろそろ、そいつ死ぬんじゃね? 俺はいいけどよ」


嘘のように、スッと魔力圧が消えていく。

ぎゅ、と唇を結んだルルアが、俺を見て無言でほろほろ雫を落とした。


「……もう、二度と許さないから!」

「……」

「返事をして!」

「…………おう」


飛びつくようにしがみついたのをかろうじて堪え、後ろへ手を着く。

やかましく響く泣き声の外から、『貸しだ』と小さく聞こえて舌打ちをした。




以前は考えられなかったほど、たくさんの具材が入ったスープ。

ほどけるほどに煮込んだお肉なら、きっと食べられるだろう。


「クア!」

「うふふ、ヴェルグラースさんも待ってね」


前脚を踏みかえ踏みかえそわつく幻獣が、大人しく尻をついて座った。

これが、ペタルグリフ。

猛禽と猛獣を掛け合わせたような頭部に、獣の身体。

鳥と言うよりもドラゴンにも似た前脚に、獣の脚。

堂々とした体躯に、古代魔法文字を操る知能をもつ、美しい幻獣。

傍らを飛んでは、鍋に引きよせられていくグリポンとは、確かにあんまり似ていないかも。

ふわふわ毛並みに頬を寄せ、くすっと笑った。


「ねえディアン、ヴェルグラースさんのお家を作ろうよ!」

「は? 俺?」

「土魔法がメインにはなるけど、重い木を使ったりも必要でしょう?」


大きな三角耳をピピッと動かして、ヴェルグラースさんが期待に瞳を輝かせる。

僕が来た頃には既になかったけれど、元々彼の家は庭にあったらしい。

家の中に入ってもらうには、少々手狭なので今日の夕食は外! 

ソファやテーブルを持ち出して、みんなで食べるんだ。


「獣は獣らしく庭で寝てりゃいい。嫌なら帰れ」

「クルルァ!」


フン、と鼻を鳴らす師匠は、相変わらず素直じゃない。

僕、師匠がそんな風に誰かと話しているのを、初めて聞いたよ。

対等、っていうのはこういう感じなのかな。


「とりあえず、食っていいか」

「いいよ!」


待ちきれなくなったディアンの声に返事すると、みんながそれぞれ器へ向かった。

大きなお肉を思い切って頬張ると、あっと言う間にほどけて顎を肉汁が伝う。

はふっと熱い息を吐いて、しっかりスープを吸ったお肉の柔らかさを味わった。


「うわあ……おいしい……」


さすがに、塩漬け肉ともゲルボのお肉とも違った。

噛みしめることもできずに、とろける歯触りが惜しいくらいで。

角の取れた根菜も、スープの色に染まってほくりと崩れる。

痛かった喉が、徐々に柔らかく潤っていく。

おなかがほくほく温かくなって、じんと目が痛い。

ほっぺが、まだぱりぱりしている気がする。


また目をこすろうとして、その手がビンと弾かれた。

痛いんですけど! むっと見上げても、ディアンは素知らぬ顔で肉を頬張っている。

なんだか、変な感じだな。師匠と僕と、師匠とヴェルさんと、ディアンと僕と。みんなでごはんを食べている。

ガツガツ気持ちよく食べるディアンとヴェルさんを見ながら、ちびちびスープをすすっている師匠に目をやった。


「師匠、器に入ってる分は食べてね?! お肉もスプーンでほぐれるから!」

「……」


不服そうな顔をするものの、さすがに今日は空腹感があるのか、大人しくお肉をつついている。

師匠が、まだあれだけ動けたことにビックリだよ。ひとまず、僕はほぼ寝たきりだった病床の師匠よりも鈍臭いことを知った。


じっと師匠を見張っていると、ずしっと片手が重くなった。

え、と目をやればいつの間にか具が増えている。


「ディアン?! 僕、自分で入れられるよ!」

「てめえもそのくらいは食え」

「た、食べるよ?! でも、ほら、今日はスープ以外にも色々あるから……」

「色々、も当然食うな?」

「え、う、うん……」


ちらちらテーブルの上と、お椀山盛りのお肉を見て汗を垂らす。お腹はすいているけど……でも、僕のお腹はディアンみたいに大きくないんだよ!

ふいに浮かんだ古代魔法文字に、思わずヴェルさんを見てにっこり頷いた。

これはいい。ディアンは読めないから、こっそり――。


「ヴェル、甘やかすな。俺には食わせるくせに」


はん、と師匠に鼻で笑われ、項垂れる。

じゃあ、師匠もちゃんと食べてよ?!

若干頬を膨らませながら、勢いよく頬張ってみせる。

ぴくり、と眉を動かした師匠が、対抗するようにがぶっと頬張った。

僕らの頭上には、鍋から漂う白い湯気が、ふわふわ夜空に浮かんでいた。

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