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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第三章

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57 出発

大きなカバンは、必要ないんだ。

僕には、とっておきの収納カバンがある。さすがは師匠の弟子、でしょう?

もしかして、この便利グッズのせいで、余計に筋力が劣っているのかもしれない……なんて思わないでもないけれど。


「えげつねえ……」


皮のバッグに必要なものを次々詰めていると、ディアンがものすごく引いている。


「なにが?」

「収納量。超高級品じゃねえか」

「そうなの? 師匠が作ったバッグだから、皮のバッグ代金しかかかってないよ!」


得意満面で掲げて見せたら、軽く舌打ちされた。

まだ、師匠が嫌い?

でも、選書魔法を見て凄いって思ったでしょう? だから余計に、納得いかないのかもしれないけれど。


「ねえ、他に何がいるかな? ディアンはいっぱい食べるから、保存食は大目にもって行く?」

「行くとは言ってねえ」

「え? でも行かないって言ってないよ」


一緒に行くでしょう? だってもうそろそろ、準備を終えて明日にでも出発しようかと思っている。

びっくり顔の僕に、ディアンはイラついた様子で立ち上がった。

追うように顔を上げて、眩しさに目を細める。

いつの間にか暗くなりつつあった部屋に、燃える橙が差し込んでいた。


「わ……綺麗。ディアンの目みたいだよ! 夕日がきれいだと翌朝は晴れるんだって。ね、明日出発にしようよ!」

「俺の目? 縁起でもねえ」

「もう! 夕日は誰が見たって綺麗で素敵でしょう」


橙の光を受け、細められた瞳が透き通るように光と同化している。これを、ディアンに見せてあげられたらいいのに。誰がどう見たって美しい。

うっとり眺める僕から、すいっと宝石が隠されてしまった。

ゆっくり僕の前を横切って、扉へ手を掛けるディアンに首を傾げる。


「どこ行くの?」

「……飯」

「僕も行く!」


なんでおいて行こうと思ったの?! カバンをほっぽり出して駆け出すと、持ってこいと怒鳴られてしまった。今までだって、部屋に置き去りにしていたのに……。


「いちいち付いてくるな」

「ついて行くよ?! だってディアン、お腹がはち切れそうなくらい入れてくるじゃない!」

「てめえが食わねえからだ」


ついくすっと笑ったのは、誤魔化せたかな。

やっぱり、ちゃんと僕の分は持って来るつもりなんだね。

本当、律儀で優しくて、なのにディアンはディアンにだけは優しくないんだから。

大分ゆっくり歩けるようになったディアンの横で、僕はちょっとばかりもどかしく彼を見上げたのだった。



――ぱちっと、目を開けた。

同じ枕で寝ていたグリポンが、ぴぴっと耳を動かして、ふわふわの羽毛からゆっくり顔を上げる。

しょぼしょぼした目で、むわぁともったりあくびをしてくちばしを鳴らした。


「ふふ、おはよう。ねえ見て、いいお天気になりそう」

「る……」


全然見てないよね、と分かる生返事を返してしっぽを2回振ると、また力を抜いてしまった。

枕で大の字になるグリポンに苦笑しながら着替え、皮のカバンを肩に掛ける。

そして、ふわふわに頬ずりしてすくい上げ、大きなポケットに落とし込む。

さあ、これで出発準備は整った。

隣に、ディアンはいない。


「朝ごはんはね、昨日お願いしておいたんだ!」

「……る」


ほとんど寝ているグリポンが、ポケットの中で温かい。

まだ薄暗い中いそいそ食堂へ行くと、ちゃんとお弁当があった。

ちゃんと、二つ分。

にっこり笑って収納カバンに入れ、意気揚々と門へ向かう。


「ディアンおはよう! こんな朝から鍛錬して大丈夫?」

「……別に」


思った通り、門近くの鍛錬場にいた彼が、汗を拭って剣を収めた。


「荷物、それだけ? 収納カバンじゃないんでしょう?」


軽装すぎない? 剣以外は、腰に取りつけられたいくつかのポーチのみ。

それだと、普段と変わらない。あれ? でもディアンは普段から外へ狩りに出たりするから、そんなものなんだろうか。確かに、野営するわけじゃないもんね。

首を傾げる僕に、ディアンは溜息を吐いて他所を向く。


「……なんで俺が行く話になってんだ」

「ずっとそう言ってるじゃない?! 今から準備するの?! 早く!」


もう! 朝から出発って言ったのに!

ほかほかのディアンを部屋に向かわせようと、力任せに押してはみるけれど。うん、全然動かないね。

黙って僕を見たディアンが、もう一度息を吐いた。


「……てめえが全部持ってんだろ」


ぼそり、小さく漏れた言葉でも、僕はきちんと拾い上げることに成功した。

そして、満面の笑みを浮かべる。


「うん!! じゃあ、行こっか!」

「……」


何か言いたげに唇が少し開いて、結局何も紡がないままに引き結ばれた。

ほら、そうこうしているうちに、完全に日が顔を出してしまいそう。


「迷わず行ければ、半日くらいだよね! 一応調べたんだけどね、僕ちょっと自信なくて。だって知らない森って、全然目印がないんだもの」

「は? 分からねえで行こうとしたのか?」

「だって、ディアンが知ってるでしょう?」

「お前……そんなんで1人、森に入る気だったのか?!」


憤るディアンに、きっぱり首を振る。


「違うよ? ディアンと行くって言ったじゃない。1人じゃないし、熟練者と一緒だよ!」

「このっ……なんで――クソ」


額に手を当ててぐったりしたディアンを、昇り始めたばかりのお日様が照らしている。

じっと、彼を見上げた。

足りないんだろうなあ、僕では。

でも、僕、成長するから。

聞かないよ。聞いても、言ってくれないから。

だけど、言ってくれないなら、僕はしっかり見るよ。

視線が合うたび、わずかに動揺する橙の瞳は、いつか慣れてくれるかな。


段々明るくなっていく周囲が、びっくりするくらい鮮やかな色に変わっていく。

その顔が上げられれば、きっとあの美しい瞳が見られる。

僕は、わくわくしながらその時を待っていたのだった。



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