53 実力のほど
お財布の中身とにらめっこしながら師匠へのお土産を選び、乏しくなってきた資金に慌ててギルドへ向かう。
だって、何より魔物避けがいるよね。高級品ではないけれど、安いものでもなかったはず。
息を弾ませながら大きな扉を開いて中へ滑り込み、何でもない顔をしてカウンターへ向かった。
心臓はドコドコ音をたてているけれど、背筋を伸ばして澄ました顔をキープする。舐められるから、きょろきょろしていたらダメなんだって。
カウンターに手をかけて伸びあがれば、ギルド員さんがにこりとしてくれた。
「査定ですか? 薬草かな?」
「ええと、これ……魔石をお願いします!」
「まあ、とっておきね。ゴブリンかしら? しっかり貯めたのね」
貯めた……? もしかして1体ずつ倒したと思われてるのかな。
魔道具を使ったギルド員さんが『ゴブリンね』と呟いて秤に魔石を乗せた。
サラサラと何かを書きつけると、トレイに紙とお金を一緒に乗せて差し出してくれる。
うーん。本当だ、思ったよりも少ない。中々割に合わないものだ。だから、ディアンもわざわざ討伐しようとしないんだな。
どうも、巣を叩く時などでなければ、ちまちま討伐するには向かない魔物らしい。
じいっとお金を見つめる僕を見て、お姉さんが苦笑した。
「あんまり無茶を考えちゃダメよ。コツコツやらなきゃ。無茶したら死んじゃうのよ?」
ギルド員さんの真剣な表情に、ぱちりと瞬いた。
すごいな、この人は見ず知らずの僕のことを、心配してくれる。温かい人だ。
大丈夫、知ってるよ。僕、死んじゃうところだったから。でも、そんなことは言わない方が、きっといい。
にこっと頷いて、別のことを尋ねた。
「そっか……そうだね! じゃあ、ゴブリンの次はみんな何を討伐するの?」
「そうねえ、タテガミマウスかしら? でもあなたにはゴブリンも早いと思うわよ? パーティメンバーがたくさんいるならいいんだけど……ゴブリンだって、何体も一緒にいることがあるのよ?」
実際たくさんいたな、と曖昧に笑ってお礼を言っておく。
さっそくギルドの椅子に腰かけ、タテガミマウスを調べてなんとも言えない気持ちになる。
タテガミマウスってあんまり素早くもないし、単体で生活するみたいだし……どう見てもゲルボより弱そう。1対1なら、僕多分ゲルボに勝てるんじゃないかな。怪我はするかもしれないけど。
チャラ、と鳴ったタグを引っ張り出して、刻まれた『F』の文字を眺める。
僕って、どのくらいの実力だと見込めばいいんだろう。ギルド員さんの言う通り、無茶したら死んじゃう。
戦闘って難しい。魔法が当たれば一撃で倒せても、当たらなければ意味がないんだよね。
後ろから飛びつかれたら、僕……普通の犬にも負けそう。
「おや? 我がギルドの期待の星くん、センチメンタルな顔してどうしたのかな?」
「あっ……ギルマスさん、こんにちは!」
好青年の顔をしたギルマスさんが、にっこり微笑んで隣に座り、僕を覗き込んでいる。
荒っぽい時の方が活き活きしていたから、なんだかよそ行きの顔をされているようで変な感じだ。
「悩み事かな? ディアンとうまくいってない? 他のパーティを紹介――」
「だ、大丈夫! ディアンはとっても優しくて頼りになるよ!」
言った途端、ぶふっと吹き出したギルマスさんが、顔を隠して震えている。
「ディアンが、優しい……ね。君の方がずっと頼もしいよ。ぜひあの不安定ガルガルボウヤを支えてやってよ」
「んふっ!」
今度は僕が吹き出して、慌てて口を押さえた。
カッコいいディアンも、ギルマスさんからすればそんな風に見えるんだ。
「ディアンは、支えなくたって強いと思うよ?」
「そうかなあ。俺にはちょっとバランス崩したら、真っ逆さまに見えるよ。どう転んでも君側に転がるように、コントロールしてやってよ。あれも、有望株だからさ」
「僕側に……?」
どういう意味かと首をかしげると、ギルマスさんはさらっとウインクを寄越した。
「そ。君がディアンのパーティメンバーでいれば、それでいいってこと」
さっきの内容と繋がらない気がするけど? でも、それでいいなら簡単なこと。
僕、パーティを抜けたりしないもの。ディアンが嫌がっても……多分もう、以前みたいに離れる選択はできない気がするなあ。きっちり懐いてしまったもの。
たとえ僕が諦めても、僕の犬成分が、決して彼を忘れてはくれないだろう。
ふふっと笑みがこみ上げる。
困ったなあ。僕、自分の犬成分が結構好きだ。
「……可愛いなオイ。なんでお前、そんなふわふわしてんだ。冒険者やらせたくねえな」
急にドスのきいた低い声になって、重い手ががしりと頭に乗った。
こっちの方が、ギルマスさんって気がする。
「ええ……僕、ふわふわしてるの? 僕は、冒険者やりたいよ?!」
「まーギルマスだからな。止めねえけどよ。もったいねえ、な」
「僕、全属性だよ? 冒険者やらない方がもったいなくないの?」
「そうなんだよなぁあ~~! ギルドにとっちゃ宝なんだよ、お前」
宝、なんて言われて嫌なはずがない。
えへへ、とはにかんで笑うと、わしゃしゃ、と頭をかき混ぜられた。
「……それで? ディアンのことじゃなきゃ、何悩んでたんだよ」
ぐちゃぐちゃになった髪を撫でつけつつ、何か悩んでいたっけ、と思い起こしてハッとする。
質問するのにこれ以上ない適任者が、目の前にいるじゃない。
「ねえギルマスさん! 戦闘の実力って、どうやったら分かるの?!」
「はあ? そんなもん戦闘すりゃ分かるだろうが」
「それじゃあ実力を見誤った時、死んじゃうよ?!」
「よく分かってんじゃねえか」
笑ったギルマスさんが、ついて来いと立ち上がった。
「どこに行くの?」
「裏手だ。試験やら指導やらで使う場所がある」
感心しながらついていくと、なるほど、外にいくつか区切られた広場がある。
何もない広場もあれば、的がある小さめスペースまで、訓練施設のような雰囲気だ。
「ここで、何をするの?」
「見せてくれんだろ? 実力。ひとまず、魔法の腕はどんなもんだ? 攻撃魔法は何が使える?」
「全属性の基礎だけなの」
「……」
そこで胡乱な目をされる意味が分からないのだけど。
小首を傾げていると、目を細めたギルマスさんが腕組みをしてくいっと顎で奥を指した。
示された先には、的が並んでいる。撃ってみろということかな。
的へ向き直ると、ふわっと魔力をまとう。
的を壊しちゃうと悪いから、力加減が難しい。
「僕は放つ――」
土、火、水、風。
土のつぶてがバチバチっと音を立てて着弾。次いでゴッと燃え上がった炎が即座に水の圧力で消え、最後に風の刃が大きく的を抉った。
思ったより深く入った風の刃にひやりとしたけれど、大丈夫、的はまだ無事だ。
「基礎魔法は、こんな感じ!」
ホッと安堵してギルマスさんを振り返って、あれっと思う。
……ものすごく、無表情だ。
ちょっとくらい、褒めてもらえるかと……。
少し残念に思う僕の後ろで、ガランガランと的が崩れ落ちる音がした。




