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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第三章

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53 実力のほど

お財布の中身とにらめっこしながら師匠へのお土産を選び、乏しくなってきた資金に慌ててギルドへ向かう。

だって、何より魔物避けがいるよね。高級品ではないけれど、安いものでもなかったはず。

息を弾ませながら大きな扉を開いて中へ滑り込み、何でもない顔をしてカウンターへ向かった。

心臓はドコドコ音をたてているけれど、背筋を伸ばして澄ました顔をキープする。舐められるから、きょろきょろしていたらダメなんだって。

カウンターに手をかけて伸びあがれば、ギルド員さんがにこりとしてくれた。


「査定ですか? 薬草かな?」

「ええと、これ……魔石をお願いします!」

「まあ、とっておきね。ゴブリンかしら? しっかり貯めたのね」


貯めた……? もしかして1体ずつ倒したと思われてるのかな。

魔道具を使ったギルド員さんが『ゴブリンね』と呟いて秤に魔石を乗せた。

サラサラと何かを書きつけると、トレイに紙とお金を一緒に乗せて差し出してくれる。

うーん。本当だ、思ったよりも少ない。中々割に合わないものだ。だから、ディアンもわざわざ討伐しようとしないんだな。

どうも、巣を叩く時などでなければ、ちまちま討伐するには向かない魔物らしい。

じいっとお金を見つめる僕を見て、お姉さんが苦笑した。


「あんまり無茶を考えちゃダメよ。コツコツやらなきゃ。無茶したら死んじゃうのよ?」


ギルド員さんの真剣な表情に、ぱちりと瞬いた。

すごいな、この人は見ず知らずの僕のことを、心配してくれる。温かい人だ。

大丈夫、知ってるよ。僕、死んじゃうところだったから。でも、そんなことは言わない方が、きっといい。

にこっと頷いて、別のことを尋ねた。


「そっか……そうだね! じゃあ、ゴブリンの次はみんな何を討伐するの?」

「そうねえ、タテガミマウスかしら? でもあなたにはゴブリンも早いと思うわよ? パーティメンバーがたくさんいるならいいんだけど……ゴブリンだって、何体も一緒にいることがあるのよ?」


実際たくさんいたな、と曖昧に笑ってお礼を言っておく。

さっそくギルドの椅子に腰かけ、タテガミマウスを調べてなんとも言えない気持ちになる。

タテガミマウスってあんまり素早くもないし、単体で生活するみたいだし……どう見てもゲルボより弱そう。1対1なら、僕多分ゲルボに勝てるんじゃないかな。怪我はするかもしれないけど。

チャラ、と鳴ったタグを引っ張り出して、刻まれた『F』の文字を眺める。

僕って、どのくらいの実力だと見込めばいいんだろう。ギルド員さんの言う通り、無茶したら死んじゃう。

戦闘って難しい。魔法が当たれば一撃で倒せても、当たらなければ意味がないんだよね。

後ろから飛びつかれたら、僕……普通の犬にも負けそう。


「おや? 我がギルドの期待の星くん、センチメンタルな顔してどうしたのかな?」

「あっ……ギルマスさん、こんにちは!」


好青年の顔をしたギルマスさんが、にっこり微笑んで隣に座り、僕を覗き込んでいる。

荒っぽい時の方が活き活きしていたから、なんだかよそ行きの顔をされているようで変な感じだ。


「悩み事かな? ディアンとうまくいってない? 他のパーティを紹介――」

「だ、大丈夫! ディアンはとっても優しくて頼りになるよ!」


言った途端、ぶふっと吹き出したギルマスさんが、顔を隠して震えている。


「ディアンが、優しい……ね。君の方がずっと頼もしいよ。ぜひあの不安定ガルガルボウヤを支えてやってよ」

「んふっ!」


今度は僕が吹き出して、慌てて口を押さえた。

カッコいいディアンも、ギルマスさんからすればそんな風に見えるんだ。


「ディアンは、支えなくたって強いと思うよ?」

「そうかなあ。俺にはちょっとバランス崩したら、真っ逆さまに見えるよ。どう転んでも君側に転がるように、コントロールしてやってよ。あれも、有望株だからさ」

「僕側に……?」


どういう意味かと首をかしげると、ギルマスさんはさらっとウインクを寄越した。


「そ。君がディアンのパーティメンバーでいれば、それでいいってこと」


さっきの内容と繋がらない気がするけど? でも、それでいいなら簡単なこと。

僕、パーティを抜けたりしないもの。ディアンが嫌がっても……多分もう、以前みたいに離れる選択はできない気がするなあ。きっちり懐いてしまったもの。

たとえ僕が諦めても、僕の犬成分が、決して彼を忘れてはくれないだろう。

ふふっと笑みがこみ上げる。

困ったなあ。僕、自分の犬成分が結構好きだ。


「……可愛いなオイ。なんでお前、そんなふわふわしてんだ。冒険者やらせたくねえな」


急にドスのきいた低い声になって、重い手ががしりと頭に乗った。

こっちの方が、ギルマスさんって気がする。


「ええ……僕、ふわふわしてるの? 僕は、冒険者やりたいよ?!」

「まーギルマスだからな。止めねえけどよ。もったいねえ、な」

「僕、全属性だよ? 冒険者やらない方がもったいなくないの?」

「そうなんだよなぁあ~~! ギルドにとっちゃ宝なんだよ、お前」


宝、なんて言われて嫌なはずがない。

えへへ、とはにかんで笑うと、わしゃしゃ、と頭をかき混ぜられた。


「……それで? ディアンのことじゃなきゃ、何悩んでたんだよ」


ぐちゃぐちゃになった髪を撫でつけつつ、何か悩んでいたっけ、と思い起こしてハッとする。

質問するのにこれ以上ない適任者が、目の前にいるじゃない。


「ねえギルマスさん! 戦闘の実力って、どうやったら分かるの?!」

「はあ? そんなもん戦闘すりゃ分かるだろうが」

「それじゃあ実力を見誤った時、死んじゃうよ?!」

「よく分かってんじゃねえか」


笑ったギルマスさんが、ついて来いと立ち上がった。


「どこに行くの?」

「裏手だ。試験やら指導やらで使う場所がある」


感心しながらついていくと、なるほど、外にいくつか区切られた広場がある。

何もない広場もあれば、的がある小さめスペースまで、訓練施設のような雰囲気だ。


「ここで、何をするの?」

「見せてくれんだろ? 実力。ひとまず、魔法の腕はどんなもんだ? 攻撃魔法は何が使える?」

「全属性の基礎だけなの」

「……」


そこで胡乱な目をされる意味が分からないのだけど。

小首を傾げていると、目を細めたギルマスさんが腕組みをしてくいっと顎で奥を指した。

示された先には、的が並んでいる。撃ってみろということかな。

的へ向き直ると、ふわっと魔力をまとう。

的を壊しちゃうと悪いから、力加減が難しい。


「僕は放つ――」


土、火、水、風。

土のつぶてがバチバチっと音を立てて着弾。次いでゴッと燃え上がった炎が即座に水の圧力で消え、最後に風の刃が大きく的を抉った。

思ったより深く入った風の刃にひやりとしたけれど、大丈夫、的はまだ無事だ。


「基礎魔法は、こんな感じ!」


ホッと安堵してギルマスさんを振り返って、あれっと思う。

……ものすごく、無表情だ。

ちょっとくらい、褒めてもらえるかと……。

少し残念に思う僕の後ろで、ガランガランと的が崩れ落ちる音がした。


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ギルマスさんの 常識も 崩れ落ちた!
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