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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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48/51

48 使えるかどうか

ひとまず、僕は武器で戦うに向いてなさそう。

それが分かっただけでも、収穫だ。そうに違いない。


「じゃあ、護身用と普段使いできる、ナイフとかがいいかな?」

「相当小さいのにしとけ。てめえ、コケて自分で刺しそうだ」

「そんなわけないでしょう?!」


……とは言うものの、こんなに足場の悪いところで使うんだもの、用心にこしたことはない。

僕が買いに行くのは武器屋じゃなくて日用品のお店かも、と切なくなる。

そして、小さい魔物って結構いるんだな。襲われたところで、多分痛いですむと思うけど、あちこち齧られながら歩きたくない。

足にかじりつこうとした虫に気付いて、もらった棒でバシバシ叩く。その隙に、高く跳んだバッタのようなものを、ディアンが切った。


「てめえ、気ぃ張りやがれ! 小物がうぜえ!」

「えっ、これ僕のせい?!」


イライラしたディアンに頬を掴まれ、思いもよらないセリフに目を瞬いた。

この魔物たち、そんなこと分かるの?!


「気を張るって……僕、緊張してるよ?! これ以上どうやるの?!」

「知るか!」


でも、確かにディアンに襲いかかってはいない……気がする。

一体何をもってこの脳みそもないような虫が、僕を弱いと判断してるんだろう。絶対、僕の方が強いでしょう?!

ちょっと腹を立てながら考えた。

小さいから、なんて言われてしまったら元も子もないけど、ディアンの様子からして、原因はそれだけではなさそう。

僕の力……魔力しかないけど。もしかして、ピタリと押さえすぎなんだろうか。

魔力すら感じなければ、確かに僕はただのひ弱な子ども。


「張るより……緩める方かも? あ、気は張るよ! コントロールをね?!」


じろりと睨まれ、慌てて付け足した。

そうして、きっちりコントロールしている魔力を、少しだけルーズに。

漏れ出る魔力を、果たして魔物は感じられるんだろうか。

そう言えば、ディアンは魔法使いじゃないけど、自然と魔力を補助に巡らせている。魔物がそれを感じているなら、きっと効果があるはず。

ディアンが、僅かに目を細めた。


「……何した? それでいい。少なくともただのエサじゃねえって分かる」

「ディアンも分かるの?! なんで?!」

「知るか」


再び歩き始めた僕たちは、その効果をすぐに実感することになった。

全然違う……。ピタリと襲撃が止んで、歩きやすいことこの上ない。

そっか、こういうコントロールも必要なんだね。外へ行くときは気を付けよう。


「――ここらなら、いいだろ」

「なにが?」


ふいに足を止めたディアンが、周囲を見回した。

さわわ、と流れる風が、黒檀の髪をかき混ぜて流れていく。

ディアンは、外が似合うね。

『生き物』らしさ、というか。最初に会った時も思った、生きる意志の強さというべきか。

それが褒め言葉なのか、ちょっと自信がなくて言わないでおく。

僕は、ディアンの魅力だと思うのだけど。


「魔法。お前、何ができる? 知らないと俺が使えねえ」

「あっ、そっか! 風と回復は知ってるよね、あとの魔法も、見せるね!」


つい心が弾む。

ディアンに、魔法を見てもらえる。

僕が、頑張って来た成果を。

とは言え、基礎しかないのだけども。


「えーと、火をつけて、水で消して……という流れでいいかな!」


青々とした草は、そうそう燃え広がりはしなさそうだけど。

きょろきょろ見回して、少し離れた位置にある大きな岩を標的に決めた。


「いい? いくよ? 詠唱は省略でいいよね?」


どきどきしながら振り返ると、早くしろと頷かれた。

えへ、と頬を緩めながら、標的へ向き直る。

張り切って魔力を練り上げると、すう、と息を吸い込んだ。


「――僕は放つ、炎の矢!」


どっ、と岩に当たって弾けた炎が、岩を黒く焦がして周囲へ火の粉を散らす。

草と、岩の焦げる妙な臭いが鼻をつく。

そして、響く悲鳴。


「えっ? え、ごめん?!」

「ごめんじゃねえわ、追撃!」


岩陰から飛び出してきた複数の魔物に肝をつぶして、思わず魔法を止め、ディアンに怒られた。

咄嗟に、準備していた魔法を発動する。


「ぼ、僕は放つ、水の……槌! 水のっ、槌!!」


歯をむき出して駆けてくる魔物へ、真上に振りかぶった手を思い切り振り下ろし、そして薙いだ。

真上からの圧倒的水圧を受け、一体がその場に沈む。さらに、真横からの急襲を受けた一体が吹っ飛んだ。

二足歩行の魔物……これが、ゴブリン?!


「行け、まだいる」


静かなディアンの声に、爆発しそうだった心臓が少し大人しくなった。

草間に見え隠れする残りの数は、僕には分からない。


「うんっ……! 行くよ、土の……つぶて!!」


バババッと激しく草を揺らす音と共に、つぶてにはじき出された魔物が2体、飛び上がって転がった。

……もう一度、二度、念のために周囲へ放ったつぶてで、さらにもう一体。

ふう、ふう、息を吐いて、油断なく手を付き出したまま見回した。

……大丈夫、かな。


「はっ、6体、瞬殺かよ。……後ろが死ぬほどがら空きだけどな」

「え?」


振り返ると、すぐ後ろに切られた魔物が転がっていて、度肝を抜いた。


「あ、ありがとう……びっくりした」

「俺の方がビックリだ。いきなり魔物に攻撃しやがって」

「言ってよ?! かわいそうじゃない!」

「気付くだろフツー! かわいそうなワケあるか! そもそも俺らを狙ってるわ!!」


それはそれで教えて?!

ディアン曰く、僕が魔法を披露し始めたら逃げるだろう、との魂胆だったらしい。

ごめんね、直撃させちゃって。


「威力、おかしくねえか。初級魔法って、一撃必殺じゃねえだろ」

「それは、魔力にもよるんじゃない? 初級に込められる魔力量は無限じゃないけど、ある程度増減はできるよ」


あとは、練度も。僕、練習したよ、いっぱい。

今となっては、初球をそこそこに、次の中級魔法をやればよかったと思うけれど。

ディアンは、なかば呆れたように転がる魔物を見渡している。

そわそわしながら、その顔を見上げた。


「あの、それで僕……どう? ディアンの、武器になる?」


大丈夫、と言って。

期待を込めて見上げる僕から、ふいと視線が逸らされた。


「……めちゃくちゃ扱いの難しい武器、寄越しやがって」


ぼそりと零れた声は、それでも風に流れず、しっかり僕の耳に届いた。

ふわっと、満面の笑みが浮かぶ。


「慣れれば大丈夫! きっと、強力な武器になるよ!」

「慣れんのは俺かよ!」


緩み切った僕の顔とは裏腹に、ディアンは相変わらずの仏頂面で答えたのだった。


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― 新着の感想 ―
ルルアったら、やっぱり「取扱い注意!」だった。 頑張れディアン(^_^)
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