表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/52

47 遠足

「なんだそのツラ」


お昼を食べに戻って来たディアンが、僕を見てむせ込んだ。

何、なにか変?


「あからさまに、むくれてんじゃねえ」

「……別に? ちょっと、納得いかなかっただけ」

「へぇ」


いつもの木箱に昼食を置いたディアンが、どうでも良さそうに返して、どさりとベッドへ腰かける。

僕が昼食を忘れることがあるから、ディアンは朝夕だけでなく、昼も基本的にここで食べるようになった。

ディアンがいない日は、わざわざミラ婆さんかローラが確認に来るから、きっと頼んで行ってるに違いない。本当に、見た目に寄らず心配症というか、なんというか。


「だって、みんな笑うんだもの」

「当たり前だ」

「知ってたの?!」


ビックリして見上げて、また不貞腐れながらパンをかじる。

ディアンがやると、あんなにカッコよかったのに。僕がすると違うらしい。


「諦めて魔法を磨け」

「それはそうなんだけど」

「振付けにこだわってんじゃねえ。威力変わんねえんだろが」

「そうだけど! 恥ずかしいじゃない! せっかく、いいアイディアだと思ったのに」


……鼻で笑われてしまった。せっかく考えた秘策なのに。

攻撃魔法は、人に使うには殺意が高すぎるから。

だから、代わりに考えたのがアレ。無詠唱の範囲で、ささやかな風くらいなら起こせるでしょう? 切り裂くでも何でもない、ただの空気の移動。そこに瞬発的に魔力を込めれば、ある程度人を吹っ飛ばすことくらいはできる。

でも、そのためにはタイミングが必要だから。

ディアンが殴る蹴るしているイメージに合わせて体を動かすことで、バッチリ決めたわけだけど。そう、バッチリ決まっていると……思っていたわけだけど。


「ねえ、ディアンも鍛錬ってしてるんでしょう? 今度鍛錬場でやって見せて!」

「嫌だね。練習道具が壊れるわ」

「ええ……」


そんな威力があるの?! あの、それで人を殴る蹴るするのって、大丈夫なの……?

人間って、案外丈夫なんだなと思いながら、力なくパンを咀嚼する。

一応、アレのおかげで町を歩く許可は出たのだけど。ローラか、ミラ婆さんと一緒ならという条件付きで。でも、張り切って鍛錬場でやってみせたら、みんなが大笑いするんだもの。

全然興味がないらしいディアンが、ちらと僕を見て、端的に告げた。


「飯食ったら、外へ行く」

「うん」


ディアンは本当にじっとしていない。たまにはゆっくりすればいいのに、常に外へ出ようとするから、ミラ婆さんがブツブツ言っていた。

ストイックだな……と考えて、少し笑う。だって、僕だってそうかも。

もっと上へ行きたいもんね。魔法の習得や勉強においては、僕、中々比類しないくらいストイックだったんじゃないかな。

いや……『だった』じゃダメだよね。

選書空間があれば、もっと魔法の学びを深められるのに……。


「僕も、がんばろ。ただ町中だと、攻撃魔法の練習が難しいのがね……」

「外でやりゃいいだろ」

「えっ」


こっちを向かない瞳を、まじまじ見上げた。

外へ行くって……もしかして。

はっきり聞くよりも、僕は急いで手元の昼食を平らげにかかったのだった。



「――ここが、門。あの外側には、もう魔物がいるんだね……」


どうせ出たらダメだから、と行ったことのなかった門前広場。

思ったほど大きくもない門の内側では、門番が談笑している。どうやら、内から外へ出る分には、あまり監視されないよう。

町中の通りより一段と人が多くて、屋台もある。馬車の停留所から、大きな音をたてて馬車が動き出した。

町中では少なかった、武器を持った人たちもたくさんいる。


「フツー、入る時に見てたはずだけどな」


じろりと睨むディアンから視線を逸らして、聞こえなかったふりをした。

もっと、ゆっくり見たいのに。ずんずん歩いて行くディアンに置いて行かれないよう、感慨もそこそこに門をくぐる。


「わ……」


スカッと拓けた視界。

急に、日の光が眩しく感じる。

そうだ、町と森は繋がっていないんだった。

この、なんとも心細くなる広々した空間が、冒険者の活動する場所。


「門のあたりにも、魔物はいる?」

「いねえよ。いたら見えるだろが」


やっぱりそう? 随分スッキリしてるなとは思った。

遠くの方まで続く平らな緑だけど、門の周囲は多分、草を刈ってあるんだろうな。なるほど、こうすれば安全だ。

ホッと安堵した瞬間、突き出されたディアンの足に引っ掛かって、べしっと転んだ。


「ディアン?! 絶対わざとだよね?!」


慣れた様子で飛び上がったグリポンが、ディアンの肩に乗る。今日は、1匹らしい。


「避けろ。気ぃ抜くな」

「ひどい! だって、ディアンが魔物はいないって言うから……」

「例外もある。魔物より厄介な生き物もいる」


何それ、と服を払いながら立ち上がって、ハッとした。

そっか……。僕は、周囲を歩く人を見回して、中々難しいなと思う。

だって、人がいる方が安心だと思ってしまうよ。


「ねえ、どこまで行くの?」

「森の近く」


うん、聞いても分からなかった。

視界の遥か先には、背の高いこんもりした緑が、あちこちにある。きっとあの辺りに行くのだろう。


やがて大きな街道から小さな街道へ、そこから、膝丈くらいの草原に踏み込んだ。

道もないのに、何を目印に移動しているんだろう。

それにしたって、ディアンが歩くのは速い。僕も毎日走ってはいるけれど、一緒に歩いているだけで息が上がりそうだ。

足元ばっかり見ながら歩いていたら、ふいに立ち止まったディアンにぶつかった。


「いたっ、何……?」


何も言わないディアンに首を傾げ、いつの間にか草丈が僕の腰まで来ていることに気が付いた。

もしかして、魔物?

慌ててディアンと背中を合わせた途端、後ろからディアンの足が僕を押しのけ、何かを踏みしめた。

しっかり地面に両手膝をついてしまった僕には、ちょうどよく見える。

パキ、と硬質な音をたてて踏みつぶされていた、大きな虫のようなもの。


「うわ……これも魔物?」

「遅ぇ……こんな小物、自分で何とかしろ」

「じゃあいちいち蹴らないでよ!」

「蹴ってねえ。いちいち転がるな」


小馬鹿にした顔に憤慨しつつ、その足元を見た。

僕の顔より大きな甲虫は、しばらくもがいて動かなくなる。

でもこれ、僕が踏んでも、たぶん無理だな。

何か、こん棒みたいなものがあれば……そう思って、ハッと大事なことに気が付いた。


「あれっ、もしかして僕、武器がないんじゃない?」


ディアンが、がくりとつんのめりそうになっている。

だって、魔法使いだから、それでいいと思っていたけど。

でも、たとえば以前のように組み敷かれた時。イラストにあった魔法使いの杖を思い出し、あれがあったら魔物の牙から防御もできたかも、と思う。あと、今みたいに簡単に叩き潰せるような時。

頑丈な棒でもいい、ナイフ1つでも……。

刃物ひとつ持っていなかった僕は、がっくり項垂れた。お料理の時にしか刃物って使わないから……全然意識してなかった。


「敢えて、じゃなかったのかよ……」

「敢えて持ってこないことなんて、ある?!」

「あるわ! てめえみたいな貧弱、武器なんか重くて扱えるか!」


そ、そうか……それもあるのか。


「そんなに重いの? 僕も剣を振ってみたい」


ディアンの剣に熱い視線を注ぐと、無言で鞘ごと外してヒョイと差し出された。

いいの?! わくわくしながら用心深く両手で柄を握った途端、ディアンが手を放した。


「んっ?!」


ぐん、と体が引かれる。ばさっと音が鳴って、一瞬で草ばかりになった視界に、ぱちりと瞬いた。


「なにっ……? お……重すぎない?! 鞘がついてるから?!」

「そんなわけあるか」


多分、ディアンの剣は普通より重いのだと思う。それにしたって!

体を起こして、ふんっと持ち上げてみる。

こんなの……振るとかそういう次元じゃないよ! 切っ先を持ち上げるのも必死で、早々に諦めた。

小枝か何かみたいに片手で受け取ったディアンが、ひょいと回転させて腰に取りつける。

深々と頷いた僕は、真剣な顔でディアンを見上げた。


「剣は、ちょっと無理そう」

「どこがちょっとだ!」


ディアンの大きな声が、さわさわ鳴る草原に随分とよく響いた。

いつも読んで下さってありがとうございます!

支えられております……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ