46 100倍の威力
……そんなに怒らなくたっていいのに。
それにね、僕多分、何回怒られても同じだよ。
「――聞いてんのか、てめえ」
「う、うん! 聞いてるよ!」
疑わしい、という目で睨まれながら、さっさと先に帰ってしまったローラを恨めしく思う。
もうちょっと、隣で援護してくれてもいいのに。もしくは、一緒に怒られるでもいい。
「ところでディアン、どうしてここで喧嘩してるって分かったの?」
話題を変えてしまおうという思惑はバレバレのようで。
深々溜息を吐いて、ディアンが説教を諦めた。
「アレのどこが喧嘩だ……あと、取り消せ。俺の真似って言うな」
「どうして?! 僕、ディアンの動きがカッコいいと思って――」
「やめろ。自分の動きに自信がなくなる」
……そんなにひどかったんだろうか。
気持ちよく相手が吹っ飛ぶし、僕としては結構ディアンっぽかったのではと思っていたのに。
教会に帰ったら、誰かに見てもらって練習しよう。
そう密かに考えながら、並んで歩く。
「喧嘩してるの、ディアンにはバレないと思ったのに――あ、そうか。僕、グリポンに頼んでいたんだった!」
いつの間にか肩に戻ってきているグリポンに頬を寄せ、あれっと思う。
グリポンってとても軽くて、肩に乗っていても分からないくらいだけども。
右のほっぺにふわふわ、左のほっぺにもふわふわ……?
恐る恐る左右のふわふわを手に乗せ、目の前に持って来る。
「えっ……?! 君だれ?!」
「「るっ」」
「るっ!」
僕の手の平に乗った、淡い紫と、緑っぽいグリポン。
あれ? さっきもう一声あったような……と思ったら、ディアンの方から飛んできたもう一匹が手の平に割り込んできた。
紫、緑、水色の、3匹のグリポンがつぶらな瞳で僕を見つめている。
「か、かわいい……じゃなくて! なんで?! あ、そうか! これが群体化……」
「「「るっ!」」」
手の平いっぱいに感じる、あたたかなふわふわ。至高でしかない。
ほのかな重みと、少しくすぐったい手足の爪さえ愛おしい。
でもまさか、こんなに早く群体化すると思ってなかった。
「なんでって、お前が増やしたんだろが」
「違うよ?! ええと、勝手に増えるというか……」
どうしよう、と困った顔をすると、紫のグリポンがくりりと首を傾げた。
すごく不吉なイメージが伝わってくるのだけど、もしかして『もっとたくさん呼べるよ?』って言ってる?
ふいに、紫の子がわささっと翼を動かした。
――途端。
「え……? あれ? わわわわ?!」
ぽふっ、ぽふぽふっ、ぽふっ!
お昼の日差しに紛れるような、微かな光と共に、手の上にふわふわが積み上がっていく。
まるで錯覚のように、3匹だったと思っていたのが4匹に、5匹に、いつの間にか増えていく。
ど、どういうこと……? どうなってるの?
「ストップストップ! もういいよ?!」
注目を浴びちゃってるから!
微笑ましい顔で見られて、そそくさと路地の方へ逃げ込んだ。
「何やってんだ、てめえ……」
「僕じゃなくて! グリポンが!」
当然ディアンも引っ張って来たのだけど、その仏頂面の肩や頭にもふわふわが乗っていて、とてもかわいい。
こうやってたくさんでディアンを探してくれたの? だから、見つけられたんだね。
もしかして、森の時もそうだったのかもしれない。
「ありがとう、みんなで頑張ってくれたんだね!」
「るっ!」
一斉に胸を張る様子に、つい笑みがこぼれる。
だけど、こんなにたくさんいると確かに大変だ。僕の移動に、小鳥の群れがついてくるような状態になってしまう。大変にメルヘンだ。
一番馴染のある紫の子へ自然と視線をやると、またくりっと首を傾げた。
ええと、これは、『お礼』? 魔力と……美味しかった、お礼……?
「シロップ漬け、美味しかったの?」
「るぅ!!」
全員が目を輝かせたから、本当に繋がっているんだなあと笑う。
そして、伝わって来る『帰る』という意志。
帰れるの……? 驚いて見守る中、手のひらから溢れて飛んでいたグリポンたちが、幻のようにふわっと消えていく。
残ったのは、手のひらの上に入る紫、桃色、緑、そしてディアンの頭の上にいる青。
……増えてる。
「何なんだ、こいつらは」
「うーん、この子たちって群れ全体で一匹って感じの生態なの。もしかすると、気まぐれに行き来できるのかな……?」
「はあ? お前の使い魔だろ」
「そうなんだけど……僕の使い魔は一応、この子で。僕側からあんまり他の子に干渉はできなさそうな……」
僕、魔力が多いから分からないのだけど、たくさんやって来ると相応の魔力も使っているんじゃないかな? 群体化して、しかもコントロールできないなんて部分が、きっと使えない判定なんだろうな、と苦笑する。
「外にいる時は危ないし、町中だとビックリされるけど、そうじゃなかったらいつ来てもいいよ。僕、そのくらいの魔力だったら勝手に補填できるから」
増えたふわふわを撫でてにっこりすると、思い思いの反応を返してくれる。
不思議、全と個が両立するような生き物なんだね。
「マジでクソ使い魔ってことか……」
ほこほこ笑う僕とは裏腹に、鬱陶し気に頭の上を払うディアンが呟いた。
「そんなことないよ! 今回だってディアンを探してくれたじゃない!」
「他の使い魔はできねえのか」
「……できるけど」
むしろ、もっと正確にうまくやれるかもしれないけど!
そもそも、戦力になるか、逃げるための足や翼になれるかもしれないけど!!
ほらな、と言わんばかりの視線が痛い。
いいの、僕はこの子たちがいいんだから。
「ねえ、ディアンもこの子たちをいっぱい乗せて、周りに飛んでいる状態だったら! そうしたらみんな怖がらないと思うよ!」
「ふざけんな。余計なお世話だ」
いくらディアンがマイナスを叩き出しても、100倍のプラスを乗せてあげればいいんだよ!
素晴らしい思い付きに、満面の笑みを向ける。
ふわふわのグリポンまみれのディアン、絶対に人を笑顔にできると思うよ! こんなかわいい生き物がまとわりついているんだもの、悪い人のはずがないって思うはず。
「そうだ、師匠だってそうすればいいよ! そうしたらきっと、みんな師匠を好きになるよ!」
真っ黒な師匠に、花びらのような色とりどりのグリポンはたいそう映えるに違いない。
師匠が、花が舞うようにグリポンを周囲に舞わせている姿を想像して、思い切り吹き出した。
これは強い。すさまじい威力を発揮し得る。ぜひ、師匠のところへ帰ったらやってみよう。
「いや…………さすがにやめてやれ……」
うふふ、とナイスアイディアにほくそ笑む僕に、ディアンの力ない声が聞こえた。
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