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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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45 間に合うかどうか

早々に依頼をひとつ片付けたディアンは、足早にギルドを出た。


「……野郎。大人しく、してんだろうなあ?」


ついボヤいて、溜息を吐く。

あんな危なっかしい生き物、見たことない。生まれたての子猫の方が、まだ危機感を持ってるだろ。

ほやほや気の抜ける笑みを思い出し、ディアンは盛大に舌打ちした。

そばを歩く人がそそくさ離れていくのを感じながら、取り急ぎ帰路へ着く。


「――おやディアン、早かったね。怪我はないかい? 喧嘩してないだろうね?」

「……」


サッと全身に視線をやるミラ婆から顔を逸らして、獲物の袋を投げつけた。

難なく受け取ったミラ婆が中身を確認し、顔をしかめる。


「あんたって子は、また森へ行ったのかい。まだ肉なら十分ある。そんなに頑張らなくていいんだよ、安全な仕事をおしよ!」

「うるせぇ」


いつもの小言を聞き流して、さっさとその場を離れた。

獲物を獲るのも、もちろんディアンの目的ではある。けれど、それよりも実戦を積まなくては。

Cランクでは、足りない。

乱暴に自室の扉を開け、そこに目的の姿がないことを確認した。

運動場に向かうついでに、食堂も覗いておく。

……いない。

苛立ちを募らせながら隅々まで運動場を眺め、解体場も確認して、さらに焦燥に駆られる。

ちょうど通りかかった子どもを摑まえ、不機嫌さを隠さず尋ねた。


「おい、アイツはどこ行った」

「え? えーと、ルルア? ローラと買い物に行ったよ」

「は……?」


そっと逃げていく子をそのままに、ディアンはすぐさま駆け出した。

あんなトラブル体質、連れ歩いて果たして無事かどうか。

ローラなら、それなりに対応はするはず。そうは、思うものの。

息を弾ませ商店街付近まで来て、平穏な町の様子に立ち止まった。

……買い物に出ただけだ。森へ行くわけでなし。

ふいに自分が馬鹿らしくなって、戻ろうとした時、何かが顔面へ飛来した。

素早くキャッチしたものは、想定外に柔らかく温かい。


「……お前? なんだ、お前……なんか違うような? いや、でも形は同じか」


掴んだものをしげしげ眺めていたら、必死に逃れたソレが、飛び上がってディアンに体当たりを始めた。

鬼気迫る様子に、はっきりと覚えがあるディアンが、顔色を変えた。


「くそっ、どこだ?! 案内しろ!」


一声鳴いたグリポンは、短い羽をめいっぱい動かして矢のように飛んでいく。

負けじと駆けるディアンは、路地へ駈け込んで――足を止めた。





「――てめえ、いい度胸じゃねえか」


顔を歪めた男性たちが、さらに近づいてくる。

段々路地奥へ追いやられるローラが、視線を寄越さないまま、早く行けと僕を押しやった。


「……この人たちが、ディアンと喧嘩した人?」


ローラの手を掴んで、ぎゅっと引いた。

少し驚いたローラが、こっちを見て厳しい顔をする。


「そうだ。だから、別にルルアちゃんが逃げたって追って来ねえよ。悪いけど足手まといになるだろ? だから――え、ルルアちゃん……?」


なにかな?

じっと男性たちへ視線を移した僕に、ローラの顔が少し引きつった。


「あの、ルルアちゃん? どうした、何で笑ってんの……?」


あれ? 僕笑ってた?

……どうしてかは、分かるけれど。


「僕、どうやって探そうかと思ってたんだ。見つけられて、よかった」


意識すると、余計に口角が上がる。

ああ、魔力が沸き立っているのが分かる。


「なんだ、このチビ……」

「僕? 僕は、ディアンのパーティメンバーだよ」

「馬鹿っ!」


ローラが舌打ちして僕を後ろへ庇った。

いいんだよ、わざと言ったんだから。

一気に僕へ視線が集まって、ターゲットが変わったのを感じる。

そうでしょう、僕の方が簡単そうでしょう? しかも、重要な関係者だよ。


「ローラ、後ろだけ、お願い」


もう一度ローラの前に回り込んで、倍くらいありそうな人たちを見上げる。

そして、一歩前へ。

引き戻そうとしたローラが、そっと手を引いた。


「僕、ディアンを怪我させた人を――許さないから」


僕は、居並ぶ彼らを見据えて、にっこり、笑った。




路地へ駈け込んだディアンは、流れる汗を拭うことも忘れて、混乱していた。

グリポンの案内を受け、男性に囲まれる二人を見つけられた。

そして、思ったより相手が多い――と緊張を走らせたのも束の間。


「えいっ! やあっ!」


本人の意気込みとは裏腹に、気の抜ける声と、気の抜ける身振り。

短い手が前へ突き出され、短い足が空を蹴って尻もちをつく。


「……何だこれ」


多分、殴る蹴るのつもりなんだろう。

馬鹿馬鹿しいほど、滑稽な姿。

――なのに。


「ぐはっ!」

「おぐっ?!」


派手にぶっ飛んだ男たちが、壁に、仲間にぶつかった。

周囲には、既に数人の戦線離脱者が転がっている。

既に逃げ腰の男たちの前で、ルルアの馬鹿馬鹿しい『えい、やあ!』は続いている。

そして都度、見えない巨大な拳に殴られたかのように、男たちが吹き飛んだ。

これは……風魔法、だろうか。


「……なんだ、これ」

「あっ?! ディアン! おっせぇ!!」


気付いたローラが振り返り、残った男たちとディアンの視線が絡んだ。


「くそ、ディアンだ!」


倒れている仲間を放置して、動ける者が見る間に逃走をはじめる。


「え、ディアン? あっ……待てー!」

「待てじゃねえわ」


追いつけるはずもない速度で、とことこ駆け出したルルアをむんずと捕まえ、詰め寄った。


「おい、てめえ何してる? 俺はなんつった?」


興奮で赤い顔をしていたルルアが、ハッと視線を泳がせる。


「大人しくしてろ、っつったよな? あぁ?」

「お、大人しくはしてたよ? 買い物に出ただけで……」

「ほぉ?」


ディアンがわざとらしく周囲を見回すと、大汗をかいたルルアが一生懸命言い訳を述べ始めた。


「だって、何にもしてなかったけど、向こうが来たんだもの。しょうがないよ。ローラも危ないし、僕だってほら、危ないでしょう?」

「そーだそーだ、勝ったんだから何も問題ねえわ! ルルアちゃん、強えー。なんだよ、マジで守られちゃったわ」


ローラの援護を受けて、見るからにホッと胸をなでおろしている。

しかし、相手はローラだ。


「ルルアちゃん、怒ったら超~~~怖え~~。けどカッコよかったぞ、ディアンを怪我させたのはどいつだ! つってな?」

「い、言ってない、言ってないよそんなこと?!」

「てめ……俺が負けたみてえに言ってんじゃねえ! 変なこと考えんなって言ったよな?」

「聞いたけど、でも。だって、つい……怒りがぶり返したって言うか。ちょうど出てきてくれて、都合がよかったっていうか」

「ついカッとなってんじゃねえ! てめえ、普段あんなふにゃふにゃのくせに……!」


子猫のようにルルアをぶら下げたまま、真正面から睨みつける。

ディアンは、えへ、と誤魔化すように笑ったルルアに脱力した。

おかしい。視線の強さには自信があったのだが。こいつに全然効かねえ。


「あの、でも僕ちゃんと喧嘩できたでしょう? ディアンの攻撃を真似して、ちゃんとぶん殴れたよ!」

「……よかったな、その悪口に俺は結構ダメージを受けた」

「ええっ?! どこが悪口?!」


言い合うディアンとルルアを見て、ローラは肩を竦めて笑っていた。


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― 新着の感想 ―
ルルアはやればできる子だった! しかも伝説の空気投げみたいな魔法攻撃凄いね。 でも、えい、やー!って尻もちついちゃうあたりはやっぱりルルアだね(≧▽≦)
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