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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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44 彼らにとっての大人

「――でさあ、あたしが教会守りつつ作る側。で、アイツが獲って来る側が一番、効率がいいだろってことになってさ」

「ローラはもう、冒険者してないの?」

「してるしてる。金稼がなきゃだろ? けど、ディアンみたいに森の奥へ行ったりは、なくなったな。……お、柔らかタワシ、やっと食い終わったか」


シロップ漬け最後のひとかけらもお腹に収めたグリポンが、満足そうな顔で『る』と鳴いた。

グリポンが食べ終わるのを待っていたら、結構な時間が経ってしまった。次からは、持って帰って食べよう。

小さな小さなべたべたお手々を拭って、ずっとお話ししてくれていたローラににっこり微笑んだ。


「ローラ、いっぱいお話ししてくれてありがとう。すごく楽しい!」

「お、おう……そう、か? うるせえとは、よく言われるけど。ありがとうと言われると、ちょっとアレだな。ま、楽しかったならいいよ」


彼女はちょっと視線を逸らして頭を掻くと、幼子にやるように僕を木樽から下ろした。


「ローラ、僕赤ちゃんじゃないよ」

「だってルルアちゃん、ちっこくて柔らかくて、すぐ怪我しそうだし」

「そんなこと……ないよ」


今度は僕がそっと視線を外す。

ディアンに何度言われたか……『走るたびにいちいち転ぶな』と。

筋肉痛もひどかったし、しょうがないじゃない! わざとやってるわけないの、分かるでしょう?!

でも、おかげで転ぶのは上手になった。それはそれで、成長だと思うんだ!


「じゃあ他、何見たい? 商店街一通り歩くか」

「いいの?!」


優しいローラに手を引かれながら、少し町中に入り込んだ商店街を歩く。

ディアンと居たら、ずっと僕が話しているけど、ローラと居たら、ずっとローラが話しているかもしれない。僕、僕以外でこんなに話す人を初めて見たよ。

教会のこと、町の事、ディアンのこと。突然莫大に増えた情報を、必死に咀嚼して頭の中へ整理するので精一杯だ。


「ルルアちゃんが来た時もさあ、ミラ婆が悲鳴あげて大変だったんだぞ」

「そ、そうなんだ? ごめんね、そりゃあビックリするよね」


血まみれでぐったり抱えられていただろう僕を想像して、心の底から申し訳なくなる。


「けど、寝てただけだったんだろ? ディアンが手当てさせねえから、ミラ婆がやきもきしたってな」

「う、うん。色々あって、疲れちゃって……。そうなの? ミラ婆さんが、僕を綺麗にしてくれたって聞いたよ」

「ミラ婆がアイツの部屋まで押し掛けてだろ? 手当て部屋があんのによ」


そうなの? ぱちり、瞬いて小首を傾げた。

ディアンなら、そもそもその部屋に僕を置いて行きそうなものなのに。


「どうしてだろ? ディアンも眠かったのかな?」

「ぶはっ、そんなわけねえだろ! 冒険者だぞ? 1日や2日起きてられるわ! そりゃ、考えちまったんだろ、もしまた――あ」


変な所で言葉を切ったローラが、頬を掻いてちらりと僕を見た。

何か、言っちゃいけないことだった?


「僕、聞かない方がよければ、聞かないよ?」

「うっ……物分かり良すぎて怖ぇえ! いや……別に、隠してねえし……いいんじゃ、ねえかな。あたしはルルアちゃんが危ねえことすんの反対だし、言っとくか」


少し迷ってそう言ったローラが、通りから少し路地の方へ入った。


「あたしらはさあ、孤児で冒険者だろ? つっても、腕のねえのは大体町中で活動するんだけどな。外で稼ぎたいって、欲張るヤツもいんの。そうなると当然、一緒に行く大人がいた方がいいんだよな」

「もちろんそうだよね」


ゲルボに襲われた時のことを思い返して、大きく頷いた。助かったのは、ディアンがCランクの実力を持っていたからだ。


「けどな、ルルアちゃんなんか特に気ぃつけな、大人にはクソが結構いる。特に、あたしらにとっては」


吐き捨てるように言ったローラを見上げた。

……何となく、分かるよ。だって僕も孤児だったもの。

記憶はほとんどないけれど、感覚として覚えているものはある。酷いことをする大人たちがいたのも、分かる。これは、もしかしたら両方の記憶に共通しているのかもしれないけれど。


僕、師匠とずっと過ごして、そういうことを忘れていた。ディアンが師匠を極端に嫌うのも、その辺りの影響があるのかもしれない。多分、大人が嫌いなのかも。


「僕だって、孤児だったよ。分かるよ」

「そっか、まあ……そういうこと」


僕の表情を見たローラが、『意外だ』とちょっと笑った。

そういうこと……? それが何を指すのかまでは、分からないかも。

見上げる僕の視線に気づいたか、ローラが少し言い淀んで口を開いた。


「んー。今言わなくても、そのうち知るだろうから、言っとく。ディアンはさー、それを知って駆けつけたんだけどな。まあ、分かるだろ。そうそう間に合うわけねえっつう話だ」


肝心なことが話されないままで、僕は一生懸命足りないピースを探して当てはめていく。

何に間に合わなかった……? 

外で稼ぎたい教会の子。一緒に行く、悪い大人。

ふと、ディアンが以前僕に言ったセリフを思い出した。

『てめえを魔物のエサにするかもしれねえし、逃げる時の生贄にするかもしれねえんだぞ!』

……まさか、そんなこと。そんなこと、ある?

目を見開いた僕を、じっと注視していたローラが、眉尻を下げて笑った。


「……そういうこと。だからアイツ、超心配症だろ? まーそうは見えねえけどさ。それ以来、チビ共の引率は必ずディアンがする。けどなあ、アイツ強いけど一人だろ? 知れてんだよ、守れる範囲なんかさあ。無理だっつうの」


ローラは、複雑な表情で視線を下げた。

それでも、子どもたちだけよりは。

それでも、悪い大人に利用されるよりは。

だってディアンは、絶対に裏切ったりしないから。

……でも、その代わりディアンは?


「そっか……。分かった、僕、強くなるね。僕が、ディアンを守れるように」


ぎゅっと拳を握った僕に、きょとんとしたローラが大きな口で笑った。


「あっはは! マジか、逆効果だった! 焚きつけちまった」


朗らかに笑うローラが、僕のほっぺをむにむにと揉む。

もしかして、怖がらせようと思ったの? 『忠犬』が、そんなことで怯むわけないのに。

僕が強くなれば、全て解決するのに。

僕の全属性は、役に立つんでしょう。魔力量だって、多いよ。接がれた魂の過剰分が、魔力返還されて僕に影響を及ぼしているのかもしれない。

僕、僕のためには頑張れなくても、ディアンと師匠のためには頑張れるよ!


闘志を燃やす僕に、どこか柔らかい視線を注いでいたローラが、ふと通りの方を見て眉をひそめた。

振り返ると、ちょうどローラと視線を合わせた男性が隣の人に耳打ちしている所。


「チッ……ルルアちゃん、通りの方へ行くぞ」


有無を言わせぬ声音でそう言って、ぐっと手を掴まれる。

でも……通りに行こうと思ったら、その不審な人たちの方へ行くことになるよ?

路地の奥へ行った方がいいんじゃないのかな。

何が何だか分からないまま、男性の横をすり抜けようとした時、一人がローラの肩を掴んで押しやった。

すぐさま振り払ったローラが、距離を空ける。


「お前、教会のヤツだな。羽振りがよさそうじゃねえか」

「何のことだよ」

「ディアンの野郎が、換金してるの見たぞ」


少しずつ近づいてくる男性が、2人……いや、3……4人。なぜか、増えてくる。


「ルルアちゃん、走って教会まで行ってくれ。ディアンを呼べ」


そっと囁かれて、仰天した。


「嫌だよ?! これ、喧嘩でしょう? じゃあ僕が残るから、ローラが行って」

「おいおい……このローラさん、可愛いけど、それなりに戦えるからな?」


軽く言って片目をつむってみせる。きっと、わざとだ。

置いてなんて行けるわけない。でも、助けは呼ばなきゃいけない。

ハッとグリポンに目をやって、そっと空へ放った。


「お前、ディアンより弱いだろ」


鼻で笑う男性に、ローラも小馬鹿にして笑う。


「ああ、お前ら、もしかしてこないだディアン一人にボコられたヤツ?」

「えっ」


驚く僕を尻目に、男性たちが顔を歪ませた。


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― 新着の感想 ―
忠犬!やっ、やっぱり?! でも今はそこじゃないよね。ここはルルアの全属性魔法の出番でしょ。頑張れ!
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