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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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43 互いの願いが違っても

明るい日差しの中、白く乾いた石畳が光る。

お店の扉を開け放ち、路上にまでテーブルを出したお店や、行き交う人に呼び掛ける店員さんたち。

賑やかすぎて、目が回りそう。


「おや、ローラその子は? 迷子か?」

「違うわ! デートだ、な?」

「はは、お前より可愛い彼氏だな」

「は?! あたしも十分可愛いわ!」


手を引かれて歩きながら、僕は感心してローラを眺めていた。

口調は似ているのに、町の人はローラにはたくさん話しかけるんだな。ディアンみたいに、ピリピリしていないからかな。

赤い髪を揺らしたローラが、こちらを振り返ってにっと笑う。


「甘い物なら、この辺りだな! ルルアちゃん、予算は?」

「うーん、あんまり考えてなかったけど、金貨までは無理って感じかなあ」

「いやそりゃそうだろ! 菓子に金貨ってお前」


大笑いするローラだけど、金貨のお値段がするお菓子も、実際あった気がするけどなあ。

でもつまりは、ここらだと手ごろな価格で買えるってことだ。


「この子にも、ご褒美のおやつをあげたいんだけど、何かいいのあるかな?」

「はー? 贅沢な鳥だな……ペットがおやつを食うのか」

「る!」


憤慨したグリポンが猛然とローラに体当たりして、適当にあしらわれている。

自認としては、鳥とは全然違うみたいだね。小鳥みたいで可愛いとは、言わないでおこう。


「この子は、ペットじゃなくて使い魔だよ! 報酬も必要だからね」

「使い魔ぁ? 何の役に立つんだ? 皿洗い?」


タワシじゃないよ?! グリポンで洗おうとしないで?! 確かに綺麗になりそうではあるけど。

ふわふわの羽毛を見て、ちょっとそう思いつつ否定しておく。

怯えたグリポンが、ローラと反対側の肩へ戻って来た。


「僕が魔物に襲われてる時、ディアンを呼んでくれたのはこの子だよ」

「へえ……この柔らかタワシがねえ。つうか、大丈夫だったのか? ほらな、冒険者なんかやめときなって」


眉尻を下げて覗き込むローラの首元、そこに光るチェーンを見た。

でもそれ……冒険者タグだよね。

じっと見る僕に気付いて、タグを引っ張り出したローラが笑った。


「あたしはいいんだよ、危ないのも慣れてんだから。ルルアちゃんは違うだろ、綺麗な服と、柔らかい寝床が似合う。危ないことは、あたしがしてやるから」

「そんなの嫌だよ?! 僕、そんなに弱々しいかなあ……」


そうなんだろう、とは思いつつ口に出さずにはいられない。

そして、そのタグに『D』と刻まれているのを見て、少し落ち込む。そうだよね、僕よりずっと経験と実績があるんだもの。

文具店のターナさんも言っていたけど、ディアンのCランクって普通じゃない。大人でも中々なれないランクなんだって。つまりローラのDランクだって、この年だと十分すごい。


「何言ってんだ、かわいいってのは特権だぞ? それを活かせばいいだろ」

「うーん。僕、それは活かさなくていいかな……。だってそれ、もうちょっと大きくなったらなくなるよ?」

「ははっ、何言ってんだ。小さいだけと、かわいいは違うんだぞ?」


ローラの持論を聞きつつ入った店は、果物のお店……だと思う。

いろんな香りがふわりと漂って、思わず深呼吸した。

匂いが、もう甘い。

果物って、こんなに香るんだろうか。

うっとりしながら見回して、メインのショーケースを飾るものに首を傾げる。

果物……?


「ねえ、これ果物なの?」

「果物だろ。シロップ漬けだ」

「わあ……それなら、とびきり甘いんだね!」


大切そうに、綺麗に並べられたシロップ漬けは、きゅっと縮んでつやつや、キラキラしている。

色とりどりのシロップ漬けがきらめくさまは、宝石みたい、と言うにふさわしい。

食べ物に見えないくらいだけど……本当に甘いのかな。


「ねえ、ディアンは食べるかな?」

「はあ? なんでディアンだよ、勿体ねえ!」

「ローラは? どれがいい?」

「えっ……あたしにも?」


今日付き合ってくれたお礼に、と微笑むと、目を瞬いてそっぽを向いてしまった。

でもそれはきっと、嫌だっていう意志表示じゃない。


「これはどう? きれいな色だよ。ローラの髪の色みたいだね?」

「うわ、こんな綺麗なもんと、あたしの髪を比較すんなって」


じゃあ、これにしよう。

とろり、とろけるような赤いフルーツを選んだ。

わあ、これは師匠の目の色、あとこっちの燃える橙は、ディアンだ。

二人の瞳には、甘みを感じないのにね。同じような色なのに、こんなに印象が変わるもんなんだな。

これを食べたら、二人も少し甘くならないだろうか。くすくす笑って、真剣に選んでいるらしいグリポンの選択を待った。



「――いいのかよ、結構高いだろ」

「だって、一人で食べるのは嫌じゃない」


さっそく食べてみたいとねだって、二人して路地の木箱に腰を落ち着けた。

じっと赤い宝石を見つめたローラが、ありがと、と小さく言って僕の頬をつまんだ。

どうして二人は、僕のほっぺをつまむんだろうね。


「みんなで一緒に食べてみよう? いくよ、せーの!」


小さな宝石を、小さくひとかじり。

ねっちりと柔らかく、果物とは似ても似つかない食感。

ぎゅうう、と果物の要素を濃縮したみたい。

甘い……口の中がとろけるような甘みと同時に、幻のように香ったのは、果物本来の匂い。

爽やかな香りと濃厚な甘みが、これは果物じゃなくてお菓子だと伝えている。


「美味しい……果物ってこんな風になるんだ?!」

「うっま。菓子とかもったいねえと思ってたけど、これは美味いな……」


目を丸くしたローラが、丁寧に指を舐めている。もう全部食べちゃったの?!

グリポンは、と見れば両手で大事に大事に抱えて、至福の顔でもちもち食べている。

いいなあ、グリポンは小さいから、ゆっくりたっぷり味わえるね。

僕もひとくちで食べてしまうのが惜しくて、残った欠片をちびちび齧りながら味わった。


「これなら、師匠もきっと喜ぶよ! 日持ちもするし、いいものが見つかったなあ」

「師匠って、ルルアちゃんを奴隷にしてたヤツじゃねえの?」

「してないよ?!」


とんでもない言いがかりは、どこから伝わったのかよく分かる。

師匠、町に来たら名誉挽回に励んでほしい。


「師匠は、滅多にない病気でね。治らないみたい……。でも、そんなの分からないでしょう? もっと熱心に治療法を探すべきだと思うんだ」

「探さねえの、そいつ」


どうにも、マイナスイメージがついていそうな言葉選びに苦笑しながら頷いた。


「師匠は……それでいいって、そう思ってる気がする。なんだか、何もかも諦めてるように見えて」

「けど、不治の病ってやつなら、そんなもんじゃねえの? 諦めるしかないじゃん」


そうかもしれない。

だから、『悔いのない最期』のために僕に魔法を託した。

それでもう、満足なんだろうか。

未練がないのは、いいことなのかもしれない。

でも。


「それでも、毎日は楽しくていいはずだって、思うんだよ」


だから、僕……色々見つけてくるからね。

いろんな楽しいこと、お話しするからね。

それが、師匠の未練になるかもしれなくても。

師匠の願いが、僕と違ったとしても。

『不治の病なら、ありがたい以外ねえわ』

そう言った師匠を思いだし、僕はきゅっと唇を結んでその面影をじっと見つめる。

そして、ごめんねと呟いて笑った。


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― 新着の感想 ―
毎日は楽しくていいはず。その通りだね。だけど師匠もブツブツ言いながら、ルルアとの生活は結構楽しかったんじゃないかな。
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