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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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37 選ばれた色

ごろりごろりと寝返りを打って、壁に突き当たった。

あれ? と目を開け、薄明るくなり始めた部屋を見回す。

ディアンがいない。もう起きたんだろうか。

ふあ、と大きなあくびをして、目をこすった。

今日は手紙を出しに行きたいから、ディアンが出かけていると困るのだけど。


「る!」

「おはよう」


クッションからほわっと飛んできたグリポンが、僕のほっぺに朝の挨拶をする。

そう言えば……僕、ちゃんと寝ていたね。もしかして、起きたら床の可能性も考えていたけれど。

昨日はディアンと色々話せてよかった。

中々きちんとお話をしてくれないんだもの……せっかくの機会に寝ちゃったのは惜しいけれど、これからあんな風にゆっくり話せる時間も増えるのかもしれない。

のんびり着替えながら、ディアンが帰ってくるのを待っているものの、朝食の合図が鳴っても姿が見えない。


「――おはよう! ねえ、ローラ。ディアンを知らない?」


朝食のスープを注いでいる彼女に声をかけると、満面の笑みが返って来た。


「おはよう! あたしのかわい子ちゃん。今日もすんごいかわいい。そのぴこぴこ跳ねた髪、どうなってんの? どうしたらそんな可愛くなんの?」


すごくいい笑顔だけど、全然質問の答えじゃなかった。

顔を赤くして髪を撫でつけながら、少しむくれてもう一度尋ねてみる。


「うっふふ、赤いね。ほっぺ赤いよ? え、ディアン? 知らね。鍛錬でも行ってんじゃねえの?」

「鍛錬? そっか……」


赤い赤い言わないでほしい。僕は逃げるようにお盆を抱えて、部屋まで戻った。

ディアンの分も持ってきたから、中々重い。

扉の前で、さてどうやって開けようと悩んでいたら、後ろから伸びて来た腕が扉を押し開いた。


「あ! ディアン、おはよう」

「……ああ」

「どこ行ってたの?」

「鍛錬」


やっぱりそうなんだ。

お盆を置いて振り返ると、肌寒い朝の空気の中、流れる汗を拭っている。


「ねえ、僕も一緒に鍛錬したい」

「馬鹿か。ついて来られるかよ」

「そ、そっか……。あの、じゃあどんな鍛錬したらいいかな?」

「知るかよ。てめえほど貧弱だと、何すりゃいいか分かんねえわ」


そうかもしれないけど! ふくれっ面で見上げたディアンは、気に留めた様子もない。

絶対ちゃんと答えてくれなさそうなので、今度選書魔法で確認しようと思う。

どかっとベッドに腰かけたディアンが、朝食に手を伸ばした。

今日はお肉のスープと、パン。ゲルボのお肉は、腐らないようせっせと加工作業の真っ最中。塩漬けだったり乾燥だったり、いろんな方法で日持ちさせるんだって。


「今日もおいしいね! 誰かが毎日ごはんを作ってくれるって、すっごく幸せ! ディアンもごはん作るの?」

「作らねえよ」

「でも、野営の時とかは?」

「保存食」


そうなんだ。保存食も美味しいね。

でも、せっかくなら色々作ってみたいなあ。


「お金が入ったから、僕お料理に使うものを揃えたいなあ。作りたいものがいっぱいあるんだ!」

「……まあ、金が余ってんならいいんじゃね」

「……ディアン? 僕がお料理苦手だと思ってる?」


微妙なニュアンスを感じて、むっと詰め寄った。ディアンの視線がさまよっている。

そりゃあ、あの頃は……美味しくなかったかもだけど! だって食材がなくて、どうしようもなかったんだもの!

それでも、日々おいしくなるよう、そしてなんとかかさ増しできるよう工夫してたんだけど!

だって僕、お料理の本はよく読んだんだよ。師匠に、美味しいものを作りたかったから。

結局、食事情的にお粥ばっかりになっちゃうんだけど。

師匠、焼いた分厚いお肉とかを出せば、食べてくれたんだろうか。


「じゃあ今度、僕何か作るよ! ちゃんと食べてね?!」

「食うけど……金がもったいねえことすんなよ」

「もったいないって何?!」


憤慨して、これは絶対にリベンジしてやると心に決めた。

つまり、今日は食材のお店にも行かなきゃ。こんなことをしていると、本当にすぐお金は底をついてしまいそう。

冒険者として、頑張って稼がなければ。

そして美味しいものを食べて、綺麗なものを見て、僕の中に貯めていこう。お金よりも、こっちの方がずっとたくさん貯まりそう。


「ぼーっとしてねえで食え」

「してないよ! ディアンの食べるのが早いんだよ!」


見ればパンがもう残り1個。慌てて引き寄せ、あたたかいスープと共に噛みしめる。

今日は依頼を受けに行くし、お昼は外だろうか。また、あの美味しい『タレ』を食べられるといいな。

僕、お料理が上手になったら、あんな風に屋台をするのもいいかもしれない。

最後のひとくちを大事に味わったところで、せっかちなディアンがお盆を持って立ち上がる。多分、返しに行ってくれるんだろう。

そしてきっと戻ってきたらすぐ出るって言うだろう。お手紙を準備しておかなきゃ。

もう一度ざっと目を通し、うん、と頷いて便せんに入れた。

封蝋を取り出して、しげしげ眺めてみる。

ディアンが勝手に入れた封蝋だけど、何色って言うんだろう。

夜中に見たときは、茶色だなと思ったけれど……もっと、複雑なミックスカラーのよう。


「あったかい茶色と、緑っぽいのと、金っぽい……何色だろ。どうしてこの色?」


なぜ、と聞いても、きっとそこにあったものを適当に選んだと言うのだろう。

でも、僕はきっと意味があるような気がしてるんだ。

ひとまずディアンが帰ってくる前に仕上げてしまおうと、封蝋を溶かしてぎゅっと印を押す。


「る」

「え? 僕?」


グリポンが僕を見て、封蝋印を見て、嬉しそうに鳴いた。

一緒……僕と? うーん、髪かなあ? 確かに僕の髪は茶色だけど。

首を傾げて封蝋印を眺め、どこかで見たことがあるなと思う。


「あっ?! これ、僕だ……」

「る!」


じ、と僕を見上げるグリポンがそうだと頷いている。僕の、目を見つめて。

そっか、これ……僕の目の色。

茶色なんだか緑なんだかよく分からない、色んな色が混ざって見える僕の目。

今思えば、もしかするとこんな所に『混ざった』要素が出ていたのかも、なんて。


「僕の色……」


ディアン――僕の目の色を、ちゃんと見ていた。ちゃんと、覚えていた。

色々なものが、ぐっと胸を圧迫する。

……聞かないよ。だって違うって言うから。違うって言われたくない。

きっと、大した意味があるわけじゃない。単に早く店を出たかったんだろう。

だけど……ディアン、君って本当にすごい。

思ったんでしょう、自分の色を送るのは嫌がらせだって。じゃあ、何色ならいいのかって。

あんなに、師匠を嫌うのに。

僕も、ディアンみたいに優しい人になりたい。

そう、願いながら自分の手帳にも封蝋印を押した。


「……僕の目、こんなかな?」


ふふっと笑う。僕は師匠みたいな、澄んだお月様みたいな目が素敵だと思った。

ディアンみたいに、命が溢れるような燃える橙が素敵だなって思った。

だけど、この色。

様々な色を内包して複雑に輝く、変化する色。


「こんなに、綺麗だったんだね」


なんだか僕は、僕がすごく素敵な気がして、溢れるように笑った。


毎日投稿にお付き合いいただき、ありがとうございます!

以降は火・木・土の更新予定です。

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