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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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36 二人の静かな夜

「――できた! 師匠、読んでくれるかな」


つい口に出して、慌てて膝の上に視線をやった。

……大丈夫、すやすや寝ている。

そっとそっと手のひらにすくい上げると、むずがるようにしっぽがぱたんぱたんと揺れた。

ふわふわの毛並みにこっそり頬ずりすれば、極上の柔らかさと、ほんのりナッツのような香り。

早く名前を考えなきゃと思うんだけど、どんどん増えてきたらどうしたらいいのかと思って……。

全員に名前をつけるの? それともみんな同じ名前?

群体化するとはいえ、最初に契約したこの子だけが、本来の使い魔という認識でいいのかな。

丸くなっていたグリポンが、僕の手の平で寝返りを打った。

思い切り大胆にお腹を晒した寝相に、くすくす笑ってちゅっとやる。


「ちょっと遅くなっちゃったね。ディアンももう寝てるかな?」


ディアンの部屋には机代わりの木箱しかないので、僕は食堂として使っている部屋で手紙を書いていた。あんまり、ディアンの前で長々と手紙を書くのも憚られちゃって。

うんと伸びをして椅子から下りると、手元を照らしていたライトの魔法を移動させる。

グリポンを胸元に抱え、しっかり足元を照らしながら部屋へと戻った。

少し迷って、そっとノブを回す。

よかった、鍵はかかってないみたい。

ライトを小さくして、忍び足で部屋の中へ。

真っ暗な室内では、小さいライトも随分目立つような気がした。

ディアンは……寝ている、かな? 相変わらず、本当に静かだ。


グリポンをクッションの上に乗せ、僕はどうしようかと腕組みをする。

だって、今ベッドに入ったら、ディアン起きそうだもの。

床でいいか、と僕の掛物に手を伸ばしたら、ふいに橙の瞳がこちらを見た。


「ごめん、起こしちゃった?!」

「起きてるわ。つうか、どっちにしろ扉が開いたら起きる」

「ええ……もっとぐっすり寝た方がいいよ?」

「てめえはもっと敏感になった方がいいけどな?」


そんなこと言われたって、寝ているんだもの。

でも、野営なんてするようになったら、ぐっすり熟睡するわけにもいかないかも。

途端に冒険者をやっていく自信がなくなってきた。


「僕、日帰り冒険者になろうかな……」

「はっ、てめえには似合いだ」


鼻で笑ったディアンが、身体を起こして壁を背にする。

まだ、寝ないんだろうか。

僕もベッドに腰かけ、倣って隣に座った。

ディアンの気配は、とても静か。あんなに猛々しい炎みたいなのに、落ち着いている時の彼は、深く深く、波紋ひとつない水みたい。

耳を澄ませれば、ディアンの鼓動すら聞こえそうな、静かな夜。


「る……」


ディアンの代わりに、グリポンが羽を伸ばしてむにゃむにゃ言ったのが聞こえた。

くすっと笑えば、隣で身じろぎの気配がする。

見上げると、じっと見下ろす橙の瞳と視線が絡んだ。


「……意味わかんねえ。てめえ、俺の横でリラックスしてんのか」

「してるよ。落ち着くなあって思ってたところ」


分からない意味が、分からないよ。

にこっとすれば、視線を外されてしまう。


「……冒険者パーティってのは、マジで命預ける相手だ」


ディアンが何か言いたいのを感じて、うん、と頷いた。


「てめえ、俺を選ぶってのがどういうことか分かってんのか。恩人だからって、いつまでも特別扱いしねえぞ。俺の気が向けば、お前を売り飛ばすのも簡単だ」

「え、僕特別扱いしてもらってたの?!」

「そこじゃねえ!」


怒られて、ちょっと首を竦めた。だって、そんなことするわけないって分かるもの。

ディアンは、分かってるのかな? 自分がどうして、そんなことを言ってるのか。


「心配しないで。冒険者は自己責任って書いてあったよ。ディアンに売られちゃっても自己責任だから、全部ぶっ飛ばして戻ってくるよ」

「戻って来んな!」


こういう所なんだろうな、ギルマスさんが気にかけていたのは。


「能天気すぎんだよ……。なんであんな目に遭って、そんなボケてんだ」

「なんでだろう……。僕、怖かったけど、ディアンが来てくれたのが嬉しくって。ディアンと戦えたのが、すごく嬉しくて。だからかな?」


きっと、記憶が上書きされてしまった。

固くて冷たい大地に、力任せに押さえ込まれたことも。

僕の血で濡れた牙が、目の前にあったことも。

とても悲しかった気持ちも、きちんと覚えているけれど。

それよりも、初めて背中を預けてもらって、一緒に戦ったことが。

その高揚の方が、恐怖より勝る。


「……なら、義理はアレで返した。俺は、優しくなんかしねえ」

「いいよ、ディアンは十分優しいから」

「俺のパーティなら、嫌われるぞ」

「どうして? きっとみんなディアンが好きだよ?」


ディアンがゴツッと壁に頭をぶつけて仰のき、『嚙み合わねえぇ……』なんて嘆き節が聞こえる。

まだ、僕とパーティを組むことをためらってるらしい。

誰にとってのデメリットだと考えているのか、それが普通の人と違うことに、ディアンは気付かない。

普通はね、ディアン。足手まといだから嫌だって思うんだよ。

ごめんね、まだ荷物にしかならない僕だけど。

でも、僕ディアンの側にいたいと思うんだ。だから、頑張るね。


「僕、強い魔法使いになるよ! そうしたら、役に立つでしょう? 全属性はお宝だってギルマスさんが言ってたよ。僕のお宝、ディアンにあげるよ」

「軽々しくくれてやるな! 身に余るっつってんだよ!」

「ディアンって、案外謙虚なんだね」

「うぜえ!! なんで俺がいいんだ! 素行が悪いつってたろ?! てめえを魔物のエサにするかもしれねえし、逃げる時の生贄にするかもしれねえんだぞ!」


うん。ディアンそれはね、命がけでわざわざ助けに来た人が言っても、効果がないと思うんだ。

くすくす笑って、憤るディアンとの距離を詰めた。


「それはね、お互い様だよ。僕だってディアンを囮にするかもしれないって、考えないの? どうしてディアンばっかり。ディアンが、僕がそんなことしないって思うのと同じように、僕もそう思うよ」


しょうがないなあ、とグリポンにやるようにぽんぽんと頭を撫でた。

グリポンは嬉しそうに目を閉じるのに、むしろ橙の瞳は丸くなって、ぴしりと体を硬直させてしまった。


「あのね、ディアンは自分のことを気にしなさすぎだよ。僕のことばっかり気にして」


だから、優しいって言うんだよ。

そろそろ、自分が優しいって認めてあげればいいのに。

まだ動かないディアンが、ハッと我に返ってそっぽを向いた。


「誰が! てめえみたいなのに、俺が遅れをとるわけねえだろ。んなこと気に留めるかよ!」

「命を預けるのに?」


しどろもどろに言い返すディアンの声を聞きながら、ふわあ、と大きなあくびがこぼれる。

僕が寝る時間は、とっくに過ぎてしまった。

ふと、さっきのグリポンを思い出す。

それはとても面白い思い付きに思えて、そしてもう睡魔に白旗を上げたくて、僕はころんと横になった。

あまり、寝心地のいい枕ではないけれど。

……ディアンは、僕がグリポンにするみたいに、そっとベッドに横たえてくれるだろうか。

夢うつつに口の端が上がる。僕は固まっているディアンを確認して、目を閉じた。


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― 新着の感想 ―
ディー君、君の負けよ。 ルルアは言い出したら 聞かないでしょ〜(o^^o) 3世界でパーティーを 組むとしたら一体どんな 組み合わせになりますかね…
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