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【選書魔法】のおひさま少年、旅に出る。 ~大丈夫、ちっちゃくても魔法使いだから!~  作者: ひつじのはね
第二章

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34 ギルマスさん

「……パーティメンバーだあ?」


わあ、低い声。

どうやら、所属ってそういう意味だったらしい。だったら、そう書いてくれればいいのに。

ほっぺを潰されながら、でも知っていてもディアンって書いてたかもしれない、なんて思ったり。


「何が不満かな? さ、君もここにサインして」

「するか!」

「おや、素行の悪さが目立つディアン君? 評価をもっと下げた方がいいかな……」

「なっ……! なんでギルマスがしゃしゃり出て来んだよ?!」

「当たり前だね? こんな冒険者にあるまじき素直で扱いやすそうな子、ウチに留めておかなきゃ。というわけで、彼の希望通りで受け付けるから」


ギルマスさんが、いつの間にか好青年に戻っている。誰もビックリしてないところを見るに、これが通常なんだろうか……世の中には、僕の思いもよらない不思議な人がいるものだ。


「勝手に決めんな! ちなみにコイツ、全っ然扱いやすくねえからな?!」

「ふうん? それだけ拒否するってことは……君は彼の情報、あんまり知らないってことだ?」

「え! 知ってるよ、ディアンはギルマスさんが知ってることは全部知ってるよ!」


ディアンに言ってないことなんて、話してない! 大慌てで主張する僕を見て、ギルマスさんが、ちょっと驚いた顔をして、そして目を細めた。

少し、笑ったろうか。どうして、そんな顔をしたのか分からず首を傾げた。


「……なら、話は別だね。なぜ、頑なに拒否するのかな? おや、まさか情報を売るとか?」

「んなこと、するかよ!」

「じゃあ、あれだけの能力を持つ子を、拒否する理由はないよね?」


にこっと笑ったギルマスさんに、ディアンがぐっと詰まった。


「コイツだからじゃねえ。俺はそもそもパーティ組んでねえだろうが!」

「そこも何とかしたい所ではある。ただ君がすぐガルガルするもんだからさ~」


ミラ婆さんみたいだ。この人は、全くディアンが怖くない。

ガルガルしてるディアンが目に浮かんで、ついくすっと笑った。


「……本当に、ディアンがいいんだね。ほら見なよ、君の側でこんなにリラックスしている子はいないよ?」

「うるせー!」

「その実力で一人だと、リスクが高すぎるんだよねえ。分かるよね?」


……とても、心当たりがありそう。実際、僕と会った時がそうだもの。

そっぽを向いたディアンに肩を竦め、ギルマスさんが僕の方を向いた。


「なら仕方ないね。おちび君の方は、どこに入っても問題なさそうだし、他のパーティに入れてもらおうかな。1人で依頼達成は、ちょっと無理があるからね」


ギョッと視線を戻したディアンが僕を見て……結局、何も言わずに唇を結ぶ。

僕は、ぐっと力の入った傷だらけの拳を見ていた。


「……そんなに嫌?」


思ったのと違う言葉を口にして見上げると、ディアンがピクリとした。

少しだけ気まずそうに視線を揺らして、当たり前だろ、なんて言う。

あのね、僕言ったよね。もう、僕ディアンに懐いてしまったんだよ。

諦めると、思う?

それに、僕はディアンにだって――


「じゃあ僕、パーティ入らない。他の人のところも、いらないです」

「いやいや、それだと外へ行く依頼は許可ができないなあ」

「え、どうして許可がいるの? 『依頼での死傷は自己責任』なのに?」


さっき読んだばかりの誓約を口にすると、ギルマスさんがうっと呻いた。


「……『依頼においてはギルドの指示に従うべし』とも書かれてたよね?」

「そっか。なら僕、依頼受けずに外に行くよ。お金持ちになりたいわけじゃないもの。素材を取って来て売るのは、いいんでしょう」

「うぐっ……」

「馬鹿が! 死ぬ目に遭ってまだわかんねえのかよ!」


ディアンが、怒っている。

その橙の目を、まっすぐ見た。

あのね、ディアン。

――僕も、怒ってる。


「分かるよ。でも、その最適解を選ばせてくれないんでしょう?」

「……俺が最適解なわけねえだろ」

「それは、僕にしか分からないよ。ディアンには、分からないもの」


じっと見上げて、少し微笑んだ。ねえディアン、こう言ったらどうかな。

そうしたら、選べるかな。


「僕と約束、したはずだよね? ディアンは僕が好きに行動する時、そばにいること。誰に何を言われても、僕が行動する時は、ディアンが許可を出すこと。ディアンはこれを守らなきゃいけないから、僕の側にいる必要があるよね? 僕、ギルマスさんの言うことも聞けなくなっちゃう」

「は……? そんな約束……」


ハッと思い当たったらしいディアンが、苦虫を嚙み潰したような顔をする。


「言ってねえだろうが、そんなこと」

「意味は、同じでしょう? 約束、守らないの?」

「――っ! 本当に、てめえは……全然俺の言うことを聞かねえ!」

「そうかなあ?」


僕は、にっこり笑って用紙を差し出した。

ふふ、僕は嫌だもの。ディアンが、我慢することは。


「……うん、ごめんディアン。扱いにくいってのは、ちょっと分かった」


傍らでは、ギルマスさんがそんな失礼なことを言って、乾いた笑みを浮かべていた。



溜息を吐くディアンを尻目に、僕はご機嫌に金属タグを眺めている。

まだ何にもしてないから、最低ランクらしい『F』と、数字はゼロが並ぶ出来立ての冒険者タグ。

そして、そこに刻まれた『所属:ディアン』の文字。

やった……! やったよ。僕のパーティは、ディアンだ。

どうしたって口元がむずむずする。

これ、本来はパーティの名前を刻むらしい。僕たちのパーティは、まだ名無しだからリーダーの名前が入っているんだって。


「ねえ、僕もうお金持ってるよ! だから、ディアンに何かご馳走するよ!」


ギルドではさっそく、森で採ってきた植物類を引き取ってもらい、中々のお金をもらった。

師匠がいるあたりは結構危険な場所なので、単に採取したものでもそれなりの値段になるのだそう。

思ったよりお金持ちになったので、僕の足取りも軽い。

これから、僕は冒険者としてあのギルドに足繫く通うようになるのかな。


「いらねえよ……お前、まだ買うもんあるんだろ」

「うん、文房具のお店……行ってもいい?」

「勝手に行きゃいいだろ」

「だって僕、場所が分からないよ」


舌打ちしたディアンが、方向転換する。ちゃんと連れて行ってくれるらしい。

今日お手紙を書いて、明日急いで出そう。師匠、お返事は書かないだろうけれど。


「ところで、ディアンの知り合いだったの? ギルマスさんって」

「は? 違ぇ……そこからかよ。それは名前じゃねえ。ギルマスはギルドマスターだ、ギルドのボス」

「ええ?!」


仰天する僕に、ディアンのぬるい視線が突き刺さる。

じゃあ僕……偉い人に失礼なことを……。


「どうしよう、もうギルドに行けない……」

「今さらすぎるわ」


全然寄り添ってくれないディアンを恨めしく思いながら、それも一理あると思う。


「……それもそっか!」


ぱあっと笑ったら、ディアンからは地面にめり込むような溜息が溢れた。


「早ぇえんだよ、てめえはもうちょいヘコんでろ」

「ええ……」


むくれながら、去り際にギルドのボスが言った言葉を思い出していた。


『――ディアン、君はもう少し、他人のせいにした方が良いよ。……ガキが、何でも背負える気でいるんじゃねえ』


ディアンは、何も言わなかったけれど。


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